其之十七    地 球 の 神





「そういえば、ピッコロはどこに行ったの?」

「たしか、クリリンさんが”神様んちに行った”って言ってましたけど」




カメハウスへ向かう途中がそんな質問をするので、トランクスはそう答えた。




「神様?ああ、悟飯たちと会ったばかりのころ話してた、昔ピッコロと分裂したとかしないとかの、あれね」




悟飯とトランクスはどちらともなく顔を見合わせて、首を傾げる。腕組みをして何かを考えていたようなは、よし、と小さく呟いた。




「その神様のことも少し気になるから、ちょっとピッコロの所に行ってくるよ。2人はどうする?」

「ぼくたちは…」

「カメハウスへ戻りますよ」




と、悟飯とトランクスはアイコンタクトを取りながらに言った。は、そう?と笑顔で返す。




「じゃあ、私は行くね。悟空たちのこと、よろしく。何かあったら、なるべく直ぐに行くようにするから」




言いながら、がその場に止まる。悟飯とトランクスもまた同じようにそこへ止まると、を見た。足下には、海が広がっている。日の光を反射して、波が立つたびキラキラと輝いていた。




「えーと、ピッコロ、ピッコロ…う〜んと、どこだろ」




額に2本の指をあてながらがぶつぶつと呟く。暫くその様子を悟飯とトランクスが見守る。その時、あ、とが声を上げた。




「いたいた、これかな…じゃ、2人とも、あとでね」




そう言って、空いている方の手をあげ手の平を見せる。そんなに、悟飯は手を振ると一瞬で、ぱっとの姿が目の前から消えた。すでに目の前で見たことのある悟飯とは対照的に、驚きを隠さないトランクスは、本当に一瞬で消えるんだな、と内心思った。
























空のずっと高い所に浮かぶ宮殿が一棟そびえるそこは、独楽を大きくしたような不思議な場所だ。いつも風が強く吹いていて、そしてすごく広い。瞑想していたピッコロは、目の前へ前触れもなく表れたに驚いた表情をしたが、すぐさま眉間に皺を寄せた。




「あ、ごめん…瞑想中だった?」

「おまえと言うやつは…何をしに来た」

「何してるのか気になったのと、神様が気になったから」




なぜ神と一緒にいることを知っているんだ、とさらに眉間に皺を寄せるピッコロの疑問に辺りを見回していたは気づくと、再び口を開いた。




「トランクスから、クリリンがそう言ってたって聞いたんだ」




怪訝そうなピッコロとは対照的に、呑気にさらっと答える。流石に3年一緒に過ごしていただけあって、もうピッコロの睨みには慣れた。それに、思っているほど機嫌が悪いわけではなく、恐らく”それ”は癖か何かなんだと気づいた。それももう大分前の話だ。は後ろを振り向き、その視線の先に立っている杖を手にした人物の背を見る。




「あれが、神様?」

「そうだ、下界見物が趣味の、な」

「ふ〜ん」




吐き捨てるように言うピッコロには組んだ両手を後頭部に当てて言った。暫くじっと、その背中を見つめた後、手を下ろし、そこへ向かって歩く。が神まであと数歩という距離に近づいたとき、神がくるりとを振り返った。




「はじめまして、客人。と言ったか」




は歩みを止めると、そう言って振り向いた神に笑いかけた。




「はじめまして、神様。私の名前を知っているなんて、びっくりだよ」

「これでも神だからな。この地球(ほし)のことは大抵のことなら知っておるよ」




そう言って、神は笑った。




「へ〜、そうなんだ。すごいね」

「神だからな。だが、そこにいるミスター・ポポの方が、私よりも長くここに住んでおる」

「みすたー?…ポポ?」




は疑問符を浮かべて後ろを振り返る。そこには真っ黒のヒトのようなものが。後ろに一歩退きながら、驚いた。




「わっ、え、いつからいたの?さっきからいたっけ?」

「ポポ、ずっとここにいいた」

「…ああ、そう?なんで気づかなかったんだろう」




疲れてんのかな、とは頭を掻いて中空に視線をやった。まあ、いいや、といつもの調子で改めて神に向き直ろうとしたとき、ちらりと下界へ視線を落した神が唐突に声を上げた。




「な、なんだ!?あの化物は…!!?」




その鬼気迫る声に、はびっくりしてそちらを見た。同じように、何事かとピッコロが神のもとへ飛んできながら言った。




「なんだ!何を見た!?」




しかし、口を閉ざしたまま下界を見下ろし微動だにしない、神。ピッコロが痺れを切らす。




「いいかげんにしろ………てめえ一人でたのしみやがって。何を見たのか詳しくしゃべってもらうぞ」

「神様…?」




が呟くと同時、神がくるりとを振り向く。




「こんな状況でもなければ、もう少し話をしていたかったが…」




それだけ言うと、神はピッコロに向きなおり神妙な面持ちで言った。




「わかった……」

「よし、言え。下界でどんな化物を見たのか」




だが、それに対する神の答えは予想外だったのか、ピッコロとポポはただ驚いた。




「わざわざ話す必要はない……わたしとおまえが融合してひとりになればそれでみなわかる……」




には行き成りの展開過ぎて、言っている意味がわからない。ただこの状況を傍観するしかなかった。ピッコロが腕組みをして言う。




「や…やっと、その気になりやがったか………どうやらそうとうの化物を見たらしいな……」

「…では、急ごう…これ以上犠牲者をふやしてはならん…」

「…よし……基本ベースはこのオレのままだ!いいな…!」

「それでいい…おまえは若いしパワーもいまや、わたしよりはるかに上だ…当然だろう。わたしはパワーアップのためのきっかけにすぎん…あとは広い知識を与えるだけだ」




杖を捨てて言うや、再び神はに向き直る。は顔を上げて神を見返した。2人の会話から、”分裂”していたものを”元に戻す”のだろうと推測できた。そして、神はこれから居なくなるのだろうということも。




…おまえにこれだけは直接伝えておこう……わたしにはここに来る以前の記憶がない。だからおまえに教えてやれるナメック星やナメック星人の記憶はないのだ、すまぬな」




は一瞬だけ目を見開いて、しかしすぐに笑顔を見せた。




「構わない。私はそんなことを聞きたくてここに来たんじゃないんだ。ただ、同じ血が流れるヒトと1人でも多く会って話をしてみたかった、ただそれだけだ。会えて良かったよ、神様」

「わたしもだ、血を分けた兄弟よ…」




そう言うと、神は再びピッコロに向き直り僅かに歩み寄る。




「では基本となるおまえが、このわたしに触れるのだ」

「よし……」




ピッコロが神の身体に手を当てる。




「か、神様……!」




声をあげるポポ。心なしかピッコロが戸惑っているようにには見えた。神が構わず言う。




「いまの地球に必要なのは神ではない…強者なのだ……ピッコロは変わった……かつてのような邪悪な心はもうずいぶん消えておる…融合すれば再びまたわかれるようなことは、もうあるまい…いろいろ世話になったな、ミスター・ポポ……」




その言葉に、ポポは答えることなく、ただ項垂れた。はただそれを見守る。そして、神が掛け声とともに気合を入れると、目を開けていられないほどのまばゆい光が神とピッコロを中心に放たれ、そして辺りを包んだ。あまりの眩しさに、は思わずきつく目を閉じる。何か衝撃波に似たそれを感じた後、しんと静まる空気に恐る恐るは目を開いた。視界に入ってきたのは、ピッコロただ1人。ああ、融合したんだ、とは思った。感じられる気が、さっきまでのピッコロのものとも、神のものともまるで違っていたからだ。ポポが呟くように言う。




「さ…さようなら神様…死なないでください……」

「もう神でもピッコロでもない……本当の名も忘れてしまったナメック星人だ」




言って、背を向けるピッコロをポポとは無言で見つめた。ピッコロが振り返る。




、おまえは暫くここにいろ…じゃあ、行ってくる」




手の平を見せると、ピッコロはその場から飛び立った。




「ピッコロ……なんか、変わった…?………あんなこと、言うなんて。てっきり一緒に来いって言うと思ったのに」




ポポと共に残されたはびっくりしながら誰にともなく呟いた。そんなにポポが向き直って言った。




、おまえ…少し休んだ方がいい」

「…?…」




唐突なその発言に、言っている意味が全く分からず、は疑問符を浮かべ首を傾げる。ポポの表情はずっと変わらないが、何か威圧感のようなもの感じた。




「な、なんでそう思うんだ?」




やっと、という感じでが言うと、ポポはまた表情を一切変えずに言う。




「おまえ、大分疲れている」

「そう?そう見える?でもそんなに疲れてないよ、大丈夫だ」

「ポポにはわかる。休んだ方がいい。少し寝ろ、

「う〜ん、心配してくれるのはありがたいけど…大丈夫だよ。もし何かあったら動かなきゃならないし。ここでじっとしてるから、それでいいだろ?」

「だめだ」

「…こまったな。なんでこう、押しが強いヒトばかりなんだろ」




言いながら、は頭を掻いた。ポポの表情は変わらない。なんでそんなことを言うのか、全く意味の分からないがどうしたもんか、と思ったとき、ふいにポポが近づいてきて浮き上がったかと思うと、の額に手をあてた。




「な……」




間もなく、は意味も分からないまま意識を手放した。ポポはその場に崩れるように寝てしまったのすぐ近くへ、静かに下降しながら床に足を着く。ただじっと見下ろすポポの足元には、静かに寝息を立てるの姿があった―――。





















To be continued⇒


←管理人に餌を与える。




2018.03


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