「それにしても…まさかさんが一緒に来るって言うとは思いませんでした」 と悟飯がトランクスを挟んでその左隣を飛んでいるに言った。は悟飯を見て言う。 「タイムマシンっていうのを見て見たかったんだよ」 「さんは、そういうのお好きなんですか?」 今度はトランクスがを見て言った。はトランクスを見たあと、中空に視線をやる。 「んー、好きっていうか…自分が機械をいじったりするから気になるっていうのかな?」 「そうなんですか、さん機械いじりするんですね!オレも機械いじりするの好きなんです」 「へー、そうなの?流石ブルマの子だね…まあ、あの家じゃそうなるか」 嬉しそうにするトランクスには視線を戻して、そう答えた。 眼下の大地を次々に見送りながら、3人はブルマから聞いた、”西の1050地区”を目指して飛んでいた。そこに苔むした”タイムマシン”があるのだという。しかし、トランクスもまた”現在”へ訪れるためのタイムマシンを持っていたことから、ならばそれはなんなのだろう、ということになり確かめに行くこととなったのだ。道中、悟飯の質問により、トランクスのいる未来は今どうなっているのかを聞いた。そして、話の中で人造人間の弱点となり得る”なにか”があるのでは、とトランクスは思い至るが自分で否定したのは、つい先ほどのことだ。 トランクスはの言葉に、家に行ったことがあるんですか?と問うた。は前を見ながら答える。 「色々あって君のお父さんの修業相手を暫くしててね……その時に、色々見させてもらったり、いじらせてもらったりしたんだ」 「そんなこと、ありましたね」 とは、悟飯だ。トランクスは悟飯を見たあと、に視線を戻して驚く。 「お父さんと……さん、本当にお強いんですね」 「いや、あれはなんていうか、本当…不可抗力…」 言いながら、は腕を組み目を伏せて仰向けになった。悟飯は乾いた笑いしかできず、トランクスは額から一筋の汗を流し、そしてそれ以上言うのをやめた。触れて欲しくないのかな、と思ったからだ。――それから暫く、地形が変わり始めてきたところで、トランクスが左腕のGPSを覗き込んだ。 「このあたりのはずです」 「さがしましょう!」 「じゃ、私はこっちを見るよ」 誰ともなく、三手に分かれ足下を見回す。広がる高原には、まばらに木々がそびえていた。きょろきょろとは辺りを見回すが、それらしきものは見当たらない。そこへ悟飯が声をあげる。 「あった!!トンランクスさん、さん、ありましたよーーーっ!!」 がそちらを振り向くと、悟飯が手を振って地上へ降りていくのが見えた。トランクスがあとを追って降りていく。もまた、同じように悟飯のもとへ向かおうと少し進むが、ふいにエンジン音のようなものが耳に届き、思わずその場に留まった。そちら―右手前方―へ視線をやれば、その方向から段々と近づいてくる飛行機が1機。は、ブルマだな、と合点すると、悟飯たちのもとへ案内すべく、ひとまず目標を変更してそちらへ向かっていった。 ブルマより先には地上に降り立つと、悟飯とトランクスのもとへ歩み寄った。ほどなくして、ブルマの操縦する飛行機が地上に降り立ち、ハッチをあけてブルマが地面に足をつく。ブルマはトランクスを見て、嬉々としながら手を振り声を上げた。 「はーーい、トランクス。美しいお母さんですよーーー!」 恥ずかしげもなく、そう口にする。たじろいで、どうも、としか相槌を打てないトランクスを見やって、は後ろを振りむいた。 「ブルマ…息子が引いてるぞ、恥ずかしくないのか…?」 「うるさいわね!ほんとのこと言って何がわるいのよ!?」 噛みつくブルマに、は、何もわるくありません、と言わなきゃよかったと後悔しながら手を振る。そんなに、ブルマは当然よ、とふんぞり返った。トランクスはそんな2人に何のフォローも出来ず、視線だけを投げる。 「さ、早速ですが…みてください。そっちのが、オレが乗ってきてカプセルにしておいたタイムマシンです」 そう言って、トランクスは並べた綺麗な方のタイムマシンを指差した。ブルマは腰に両手をあてたまま驚く。 「あら!じゃあ、たしかにこいつは、あんたのじゃないわけだ……」 「い…いえ、あなたは未来でタイムマシンをたった1機しかつくらなかった……こ…こいつも、オレの乗ってきたタイムマシンそのものなんです……」 そう言って、トランクスは苔むしたタイムマシンを見上げた。そんな2人の会話を聞きながら、はひとり別のことを考えていた。”これがタイムマシンかー”と。尚も会話を続ける2人を尻目に、は綺麗な方のタイムマシンに近づいてしげしげと観察する。周りをぐるっと歩いてみたり、下から覗き込んでみたり。悟飯とトランクスが苔むした方の操縦席に浮かび上がって近づくと、トランクスがそのハッチをあける。ゆっくりと開いていくハッチを見ていたブルマは、はた、とに気づいてそちらを向いた。 「ちょっと、!そんなことあとにしなさいよ!遠足に来たんじゃないのよ!!」 声を張るブルマに、一瞬は肩をこわばらせ、そちらに視線を向ける。はい、と一言返した。徐に宙に浮き、悟飯とトランクスのもとへ近寄る。トランクスが手にしたふたつの何かを確認しては口を開いた。 「なんだ?それは」 「さあ……ヤシの実じゃないようですね………」 「なに!ちょっとみせてよ!」 悟飯がの疑問に首を傾げると、ブルマがすかさず手を伸ばした。トランクスから”それ”を預かり、がブルマに2個とも手渡す。ブルマはそれを受け取ると、両合わせにしながら呟いた。 「まちがいない…なにかのタマゴのカラだ、これ……」 「タマゴ……って……そ…そんなタマゴみたことも………」 悟飯がもっともな意見を口にする。皆が神妙にする中、は一瞬何かに気づいて地面に降りながら辺りの気配を探った。両の耳が忙しなく上下に動く。腰に巻きつけた尻尾の先も僅かだが力が入る。後ろを振り向いた。視線の先には、草原とそびえる断崖そしてまばらに生える木々しかない。そんなに悟飯が気づく。 「どうかしたんですか?さん」 同時に、トランクスとブルマがに視線をやる。は、3人の方を振り向くと首を横に振った。 「いや…なんでもないよ……何かわかった?」 「もう、聞いてなかったの?ってば……これ、このタイムマシン、トランクスが3年前に来たときより1年もはやく、先に来てたんですって」 「何が来たんだ?」 「それが分からないから、いま困ってるんじゃないのよ!」 もう、とブルマは仏頂面でをみた。はそうだったね、と素っ気なく返す。様子のおかしいに、悟飯が声をかけた。 「何かあったんですか?さっきから様子が変ですよ、さん…」 「あ、いや…すまん、何でもないんだ」 言って笑顔を見せる。トランクスが2機のタイムマシンをカプセルに戻す。と悟飯がそちらを向くと、ブルマがタマゴのカラを抱えて立ち上がった所だった。悟飯がブルマに向かって言った。 「ボクたちは武天老師さまのところに集まっているんです」 「カメハウスへ?なんで?」 「え……と、カンタンにいうと3人の人造人間が動き出してしまって、そいつたちはおとうさんの命をねらっているんです。でも、おとうさんは病気であんな状態なので、場所を移してかくれることに……」 「ふ〜〜〜ん。でも、そんなやつらあんたたち皆でやっつけちゃえばいいじゃないの!」 今起きていることをざっくり説明する悟飯の話に、まだ状況をしっかり理解できていないブルマが突っ込む。そんなブルマにトランクスが首を横に振りいかに人造人間たちが強いのかを話した。ブルマが他人事のように素っ気なく答えるのを悟飯は聞いていたが、はやはり尚、何かが気になるようで上の空だ。ずっと一点を見つめて目を離さない。そんながどうしても気になり、悟飯が堪らず声をかける。 「ほんとに、どうしちゃったんですか?さん…何か気になる事があるなら教えてください」 「悟飯さん、どうかしたんですか?」 ベジータの安否に言及したブルマへ、ベジータへの怒りを僅かに滲ませ答えたトランクスが悟飯の言葉に気づき視線を向ける。ブルマもまた悟飯を見やる。悟飯はトランクスを見上げて、言った。 「いえ、その…さん、さっきから何か気になってるみたいで、様子がおかしいんです」 その悟飯の言葉に、2人はを同時に見る。そして、納得した。たしかに、は自分たちが会話をしている今もそれが耳に入っていないのか、まったくこちらを気にせず、あらぬ方向をじっとみてこちらを見ようともしないのだ。そんなに、ブルマが痺れを切らす。 「ってば、どうしちゃったのよ!悟飯くんが心配してるわよ!!」 「え?」 ブルマの声に、きょとんとした顔で、やっと振り向く。悟飯を見下ろした。悟飯が不安そうな表情でを見上げている。悟飯が口を開いた。 「大丈夫ですか?さん…何か気になる事があるなら教えてください」 「どこか具合でも悪いんですか?」 悟飯に続き問うトランクスに、は視線を移すとぱっと表情を変え、笑いながら頭を掻いた。 「ごめん、ごめん!いや、そんなんじゃないんだ、どこも悪くないよ。そうじゃなくて…あそこに見える、アレ……何かなと思って」 「アレ?」 「うん、アレ。まだここには3年ちょっとしか居ないけど、見たことないから何かな、と思って」 悟飯が疑問符を浮かべ、その指差す方を見る。パッと見、少し大きめの岩山があるぐらい、他におかしなものは見当たらない。ブルマとトランクスは小首を傾げた。しかし、悟飯は何かに気づいたようで、そろそろと歩き近づく。その後ろを、少し距離をあけてがついて歩いた。ブルマとトランクスは、顔を見合わせたあと、の後ろについて歩く。その時、悟飯が声を張り上げた。 「ちょ、ちょっと来てみてください!!」 その声に、何事かとの後ろをついていたブルマとトランクスが驚いて、走り出す。ブルマは思わず、手にしていたタマゴのカラを投げ捨てた。は地面を軽くひと蹴りして、悟飯の隣に着地すると間もなく、トランクスが悟飯に追いついた。 「なんですか、悟飯さん!!」 「あ、あれを……」 悟飯が指差すものを見て、トランクスは言葉をなくした。ブルマは短く悲鳴を上げ、遠巻きに指差す。 「なっ、なによあれ…!が言ってたのって、これのこと!?」 は、”それの顔部分”に近づきしゃがんだ。 「そう、これのこと」 「で…でかいな…、な…なんなんだこいつは……」 「し…死んでるの?」 ブルマとトランクスの言葉にがしゃがんだまま顔を上げる。足元のそれを指差し、ブルマに言った。 「違うよ、ブルマ。これ、なんかの抜け殻だ…みんなも初めて見るの?」 「抜け殻!?初めてよ、あたり前じゃない!…こ、こんなでっかいセミがいるの!?このあたりじゃ……」 そう言って、ブルマはその、デカいセミのような抜け殻を恐る恐る覗き込む。の近くに片膝をついた悟飯は、その抜け殻の顔を覗き込むようにして言った。 「こ…こんなセミはいませんよ……、こ…これは………」 悟飯がブルマの言葉を否定して、疑問を口にする。トランクスが立ったまま抜け殻を見下ろして言った。 「た…たぶん…………タイムマシンに残っていたタマゴの中身」 「ええ……、そいつが成長して抜け殻から……でた……」 は、2人の顔を交互に見上げていたが、再び抜け殻の顔に視線を戻すと、ただじっと見つめた。ただじーっと見つめ、そして指でつつく。そんなに誰も気づかず、抜け殻の背中部分の方へ悟飯とトランクスは移動して中を覗き込む。ブルマが更に疑問を口にした。 「ど、どういうことよ!こ、この抜け殻から一体、なにがでたっていうの!?」 「わ、わかりませんよ、こんなの見たことも……」 「し…しかし、どうやってこの時代へ……………だれかがタイムマシンでタマゴを送りこんだのか…それとも、なにものかがタマゴといっしょに来たのか………そ…それにしても、なぜなのか、さっぱりわからない…」 トランクスがさらに殻の中を覗き込んだ。そのとき、ふとブルマが抜け殻の顔をしげしげと観察しながら、たまに指でつついているに気づく。あまりの緊張感のなさに、拳を握り震わせた。 「!またなにしてるのよ!こんなときに!!」 「え?いや、なんていうか、結構コレかわいい顔してるなーと思って」 「かわいい!?コレが!?あなた、あたまおかしいわよ!ヘンタイよ!!」 「…ヒドいな、ブルマ…そこまで言わなくても……」 ブルマとのやりとりに、悟飯は無言でひとすじの汗を流した。そんなことには見向きもせず、トランクスは殻の中へ手をのばす。殻の内側を触ると触れた手の平には、なにか粘度の高い液体がべったりと残った。それが、糸を引いて滴る。 「な…中身は……抜け殻からでて間もないぞ…!!」 「…え!?え!?」 トランクスの言葉にはたと気づいたブルマが、一転、慌てふためく。悟飯もまたあたりをきょろきょろと見回した。もさすがにその場に立ち上がり、徐に視線を辺りにめぐらす。 「ど…どう!?しょ、正直いってイヤな予感する…!?」 ブルマが恐る恐る、といった風に誰にともなく問う。その質問に、悟飯はブルマを振り向き無言で頷き、トランクスもまたブルマを振り向くと、はい、と一言短く答える。は3人を順繰りに見やって、ブルマに視線を戻すと最後に言った。 「状況的にみて、いいことだとは思わないね」 ブルマはそれを聞いて固まった。だらだらと額から汗を流し、慌てふためく。 「は、はやく、この場から消えたほうがいいわっ!!あんたたちはカメハウスにいるのね!なにかあったら連絡するわ!」 「わ、わかりました」 そうまくし立てて言うブルマに、トランクスは気圧されながらも短く答える。否や、電光石火の速さでブルマは自分が乗ってきた飛行機に乗り込むと、すぐさまハッチを閉め、エンジン全開で飛び立った。 「ヒマだったら遊びにきなさい、トランクスーーーー!!おじいさんやおばあさんも、よろこぶわよーーーー!!」 と言い残して。残された3人はあまりの行動の速さに、しばし呆然とそれを見送った。そんなとき、が唐突に、あ、と声をあげる。悟飯がを見上げた。 「どうしたんですか?さん」 「うん、ブルマを叱ろうと思ってたの忘れてた」 「な、なんで母さんを…?」 トランクスがに問う。は2人を見ずに腕を組んだ。 「いや、さっきね…人造人間のところへ私が向かう代わりに、見に行ったりはするな、ってブルマと約束してから西の都を離れたんだよ…なのに、さっき飛行機の中で2人から聞いた話だと約束破ったみたいだし。まったく危ない…」 「さんって…けっこう面倒見いいですよね、お父さんのことも直ぐに心配して、瞬間移動つかって家まで連れて行ってくれたり」 とは、悟飯。はきょとんとして、左側に立っていた悟飯を見下ろした。中空に視線を移して、再び悟飯に戻す。 「そんなつもりはないけど…気になるんだ、なんとなく……あぶなっかしくて」 「ありがとうございます、気にかけてくれて」 「…あらためて言われると、なんか不思議な気分だ…」 ほんの少し照れたようには人差し指で頬を掻いた。悟飯とトランクスはそれを見て笑みを浮かべる。一拍おいてトランクスが言った。 「オレたちも一旦、もどりましょう」 「そうですね」 「ああ」 3人はお互いの顔を見合うと、誰ともなく飛び立った。一路、カメハウスへと向かう。道中、トランクスの胸には不安だけが渦巻いていた。 To be continued⇒ ![]() 2017.11 |
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