其之十五    初 対 面





窓外は日差しが暖かで、何もしないでいると思わず寝てしまいそうになる。何かが盛大にぶつかった音がして、うとうとし始めていたは布団で眠る悟空から視線を外した。片方の耳だけ上下に動かしながら、届く話し声に耳を傾ける。どうやら、誰かと共に来たクリリンに、勢いよくチチが開けたドアが当たった音のようだ。チチとクリリン、そして誰かの話し声が聞こえる。しかし、その”誰か”の声は、には聞いたことがない人物のものだった。傍にいた筈のヤムチャはいつのまにか居ない。暫くして、”クリリン、無事だったか”とヤムチャの声が聞こえた。椅子から立ち上がり、皆のいる玄関へ向かう。クリリンが丁度、悟空の調子を聞いているところだった。



「大丈夫、今は落ち着いて眠ってるよ」




はそう言って進み出た。
そこで目を丸くするクリリン。




!おまえ、ここにいたのか!!」

「お!おまえは、未来からきた…そうか!!おまえが人造人間をたおしてくれたんだな!!」




は答えるように笑みを浮かべて手を軽く振った。ヤムチャは、クリリンの話とかみ合っていない。ちらりとクリリンの後ろに立つ人物にが視線をやると、その彼―トランクス―は一瞬誰だろう、という色を見せたあと会釈をした。もまた、やっぱり誰だろう?と小首を傾げる。そんな疑問符だらけの二人を尻目にヤムチャの言葉を否定したあと、クリリンが話を切り出した。




「くわしいことはあとで話すけど、いそいで武天老師さまのところへ移動しなければいけないんです!みんなそろって!」

「何があったんだ?クリリン」




正しく鬼気迫る、といった風のクリリンに、すかさずが、しかしきょとんとして質問する。皆、を一度見ると、クリリンに視線を戻した。クリリンは、じつは…、と切り出して神妙な面持ちで下を見たまま答える。




「新手の…もっとおそろしい3人の人造人間が、そのうちここへやってくるんです…………」

「そ……そりゃ大変だ……」




ヤムチャが冷や汗を流しながら、クリリンの話に反応した。すると、クリリンの後ろに立っていたトランクスが、それでなんですが…、と遠慮がちに声を上げる。視線が集まった所で、トランクスが口を開いた。




「この飛行機でみなさん一緒に移動してもらいます。これなら悟空さんも寝かせたまま移動できますし、いろいろ運べますから」




そう言って、いつのまにか手にしていたホイポイカプセルを手の平をひろげて見せる。そして、後ろを振り向くとそこから少し離れた開けた場所にそれを投げた。ボンと音を立てて、なるほど小さめの車ならそのまま乗り込めそうな格納庫を持った飛行機がそこに現れた。




「い、いそごう…とりあえず、悟空とあと他に必要なものを……チチさん、しばらくここには戻ってこれないから貴重品とかまとめてください」

「わかっただ、悟空さは…」




クリリンからの指示に答えるチチだったが、はたと気づき悟空の寝ている部屋の方へ視線を投げる。ヤムチャがチチに向かって言った。




「あ、オレたちが運びますよ、布団とか大きいものはまかせてください」

「助かるだよ。じゃちょっとオラ荷物をまとめてくるだ」




言って奥に消えていくチチを見送ると、ヤムチャが親指で背後の部屋を指した。




「そんじゃ、ちゃちゃっと運び出しちまおうぜ」

「そうですね」



歩き出したヤムチャの背を、そう言ってクリリンが追う。が、あ、と短く声を上げて後ろを振り向いた。そして、とトランクス2人に視線をなげて頭を掻く。



「ふたりはお互い会うのは初めてだよな…こんな状況だし、悪いけど紹介するのはあとでもいいかな?」




2人はクリリンのその言葉を聞いて、どちらともなく顔を見合わせると同時に口を開いた。




「私はかまわないよ」
「オレはかまいません」



再び顔を見合わせた。



「とりあえず、私は。名前ぐらいは先の方がいいよね?よろしく」




言っては、首を傾けにっこりと笑った。
それにトランクスも答える。




「オレはトランクスです。こちらこそ、よろしくお願いします」




そう言って律儀に頭を下げるトランクスをは見下ろしながら内心驚いた。急に頭を下げてどうしたんだろう、と思ったが、これも挨拶の一つか、と自己完結する。クリリンはそんな2人を見て笑みを浮かべた。その時、奥からヤムチャが声を上げる。



「おーい、早く手伝ってくれよ!オレひとりじゃムリだ」




いまいきます、とクリリンが答えた。
そして、2人を振り向く。



「行こう、いそがないと」




クリリンの言葉に、とトランクスは無言で頷く。3人で部屋に入ると、ヤムチャが悟空の掛布団を手に立っていた。ヤムチャは3人を確認すると布団を持って近づいてきて、唐突にトランクスへ押し付けた。



「悪いが、これ持っててくれ。クリリン、悟空の足持ってくれないか?」

「いいですよ、ふたりで運ぶんですね」



そう言って、ヤムチャとクリリンが悟空の方へ体を向ける。
そこで呼び止めるものがひとり。




「まって、クリリン、ヤムチャ。悟空は私が運ぶよ、ふたりはトランクスと一緒に布団を運んで」

、悟空のやつ結構重たいぜ…お前で大丈夫か?」



ヤムチャが訝しむ。しかし、は気にすることも無く無言で悟空に近づくと、ひょいっといとも簡単に抱き上げた。そんなの背を、3人は唖然として見つめる。くるりとが振り向いた。当然、その腕の中には”姫抱っこ”された悟空が。誰ともなく額から汗を流した。




「な、なんか…すげー絵面だな…」

「オ、オレ…なんか、よくわかんねーけど、ちょっとショックかも」

「…え……と…」




上から、クリリン、ヤムチャ、トランクスである。よく分からない視線でじっと見られていることに気づいたはたじろぎながら言った。




「な、なに…?…………いくよ…?」




3人を見回しながら、は部屋を後にした。残されたクリリン達はそれを無言で見送る。はたと気づいて、トランクスが掛布団を抱えながら言った。




「とりあえず、運びましょう…か…」




そうだな、とクリリンとヤムチャの2人は呟いて、そそくさ布団をまとめ始めるのだった。















































「…………なんとかなる………かな……………………」




クリリンが呟いた。が衝撃の”悟空を姫抱っこ”してから、そして、悟飯が帰宅し皆と合流してから何時間か時が過ぎていた。ヤムチャが操縦かんを握るが、安定した高度にいるため今は自動操縦に切り替わっている。固定シートは操縦席とその補助席の2つ以外なかったため、各々機内に腰を下ろしていた。そして悟空の家を発ってから、新たな人造人間のこと、タイムマシンのこと、未来と現在の関係性や、何のためにトランクスが現在(ここ)へ来たのか、といった話をひととおりしていたが、結局これといった打開策は今のところないらしい、ということに至った。それで、先ほどのクリリンの呟きである。は窓際にあった収納棚に腰を下ろしていた。窓外の下の方を覗きながら、たまに横切る雲をなんとなく目で追う。日差しが心地よくてうとうとし始めた時だった。丁度反対側の床に腰を下ろしていたトランクスが、おずおずと手を上げて口を開いた。




「ところで、あの…ちょっといいですか…?」




その言葉に一斉に皆がトランクスに視線を向ける。どうかしたんですか?、と悟飯が訪ねると、トランクスは、”ええ、その”と遠慮がちに言った。



さんは、どなたのお知り合いなんでしょうか?…いえ、失礼な質問でしたら答えなくてもいいんですが」




その言葉に、クリリンと悟飯、そしてヤムチャは、え?と声を上げた。はそんな3人の反応に疑問符を浮かべる。悟飯が先に言った。




「トランクスさん…さんのこと、知らないんですか?」

「え、ええ…はい」

「ウソだろ…オレてっきり、トランクスはのこと知ってると思ってた」

「オレもだぜ、クリリン……なんだ、は未来じゃいないのかよ」




ヤムチャが後ろを振り向いてを見る。はそれを見返した後、傍にいたクリリン、そして向かい側にいるトランクスと悟飯を順に見て小首を傾げた。トランクスが俯いて言う。




「やっぱり、オレのせい…なんでしょうか…」

「いやいや、なんかそれだと、私いちゃまずいみたいに聞こえない…?」

「まあ、この際なんだっていいんじゃねえか?…それより、おまえトランクスに自己紹介してやれよ、知らねえって言うんだからさ」




と、トランクスの真剣な悩みに、突っ込みを入れる。ヤムチャが何かを知ったように言うが、それはいつものことである。はヤムチャを見て、次にトランクスを見た。トランクスも視線に気づいて顔を上げると、お願いします、とを見つめる。自分に集まる視線に、は各々に視線を順繰り移すと、ふう、と息を吐いてから口を開いた。




「えーと、私は

「それは知ってんだよ」




肩を落としながらヤムチャが突っ込む。そこじゃなくてもうちょっと生い立ちとかさ、と呆れて言った。は視線を中空にやると、改めてトランクスを見る。




「そうだな…改めて話そうとすると難しいな…えーと、とりあえず、私はこの星の出身じゃない。私が生み出されたのは、ずっと遠い星。そこのある研究員が私の生みの親だ。今は死んでいないけどね…私はサイヤ人とナメック星人の遺伝子を掛け合わせた生物兵器で、地球(ここ)に来たのは、乗ってた宇宙船(ふね)が原因不明の故障で落っこっちゃったから……ちなみに、私の宇宙船(ふね)の修理はずっとお預け中…ヒドイよね…」




そこまで一気にしゃべると、最後にがっくりと肩を落とす。トランクスは予想以上の話に、ただ驚いて唖然とした。そんなトランクスを見て、ヤムチャはにやにやと笑う。




「驚くのもムリないぜ…オレたちだって最初聞いたとき、おんなじだったんだからよ…だけど、おまえもっと重要なことあるだろ?」

「重要なこと?何かあったっけ?」




唐突なヤムチャの質問に、は首を傾げる。
ヤムチャは手で顔を覆って大げさにリアクションをとった。




「おまえ、もう忘れたのかよ!さっきオレに話してくれたじゃないか、あれだよ、あれ!」

「…アレダヨ……どれ?」

「だから、不定期に昏倒するってやつ!きっと他のみんなも知らないだろうから、ここで話しとけよ」

「ああ、それ?重要なの?」

「重要だろ、貴重な戦力がさ…」

「…私、数に入ってるの…?」




今更何言ってんだ、とヤムチャ。そんな2人のやり取りを聞いていた悟飯とクリリンが顔を見合わせる。そしてに視線を向けクリリンが言った。




「なんだよ、…その昏倒って…」

「ん?んー…大したことじゃないんだけど、私感染病とかに一切かからない代わりに、っていうのかな…まあ何でもいいんだけど、かからない代わりに、たまーにふらっときて意識なくなっちゃうんだよね、急に」

「急に、ってさん…」

「うん、急に、何の前触れもなく」

「それ、大丈夫なのかよ…」

「オレも同じこと聞いたぜ、クリリン。だけど死にはしないんだってよ、意識が飛ぶだけなんだと」

「だけって…」




クリリンがヤムチャの言葉を聞いて冷や汗を流す。
を見上げた。
はクリリンを見下ろして、にっこり笑う。




「大丈夫、いつものことだ」

「…………」




大丈夫じゃないだろ、とクリリン。
トランクスがに問う。




「それ…治す薬とかないんですか?」

「ない。多分遺伝子的な欠陥だから、どうしようも出来ないんだと思う…研究所に居たころも、なんだかやたらに色々試されたけど、効果なしだったよ」

「そう、なんですか…」




残念そうにするトランクス。
横に座っていた悟飯が顎に手を当てる。
足元を見つめながら言った。




「でも、それは困りましたね…不定期ってことはいつ来るか分からないってことですよね……さん、最近だとそれはいつあったんですか?」

「んー、いつだろうな。少なくとも地球(ここ)に来てからは一度もないけど…何年前だったかな…その前は確か、何年も空いてなかった気がする…」




に視線を向けて問う悟飯に、ヤムチャ話したことと同じことをは言った。再び足元を見つめる悟飯。




「困りましたね…さん強いから頼りにしてるんですけど…」

「悟飯さん……そんなに強いんですか?さん」

「すっごく強いですよ、たぶん、お父さんより……それから怪我の治癒もできるんです」




トランクスの問いに、悟飯は顔を上げ誇らしげに言った。
トランクスは眠る悟空に視線を向けてからを見る。




「す、すごいじゃないですか!頼りになりますね!」

「どうかなー…」




は期待の視線をかわしながら遠い目をして、そう呟いた。それからだった、質問攻めにあったのは。そして、この数十分後、トランクスは初めてが雌雄同体―但し生殖機能は有していないので、この表現には些か誤りがある―であることを知る。そして、何故かが”男”かそれとも”女”かという、至って平和な議論がヤムチャの一言を皮切りにかわされることとなる。この不定期に開催される議論について、そんなことはどうでもいいと思っているが、まだ”老師”の家につかないのかなー、と思いに耽るのは全くもって、仕方のないことだった。眼前には海が近づいていた。





















To be continued⇒


←管理人に餌を与える。




2017.11


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