其之十二    五 月 十 二 日





5月12日、運命の日――。
辺りは、朝の空気に包まれてなんとも清清しいものだった。昨日までとなんら変わらない朝だ。今日、例え何が起きようとも、地球が滅びなければ明日もまた同じように清清しい朝が訪れるのであろう。



「悟飯ちゃんも悟空さも、ピッコロさもさも気いつけてな!ホントに弁当もってかねえか!?」

「あ・・・い・・・いいよ、ありがとう」



申し訳無さそうに、だがそれ以外の何かを交えながら悟飯が答えた。そんなチチの的外れな質問も、既に慣れたものだ。



「すまねえな、チチ」



悟空がそう告げる横で、は悟空へ愚問をした。



「なあ、本当に私も行かなきゃ駄目なのか?」

「何いってんだよ、。おめえがいねえとなんも始まんねえじゃねえか」

「・・・・・・」




それはないだろうと、心の中で。悟空に背を向けて、なんとなく遠くの山に眼をやった。ピッコロが、”貴様もいい加減諦めろ”と呟いたのはこの際、聞かなかったことにする。



「じゃあ、行ってくる」



悟空の声が聞こえたかと思うと、不意に視線が浮いた。それはいつぞやの日以上のことだった。悟空に後ろ衿を掴まれた状態で彼が飛び立ったのだから。



「ちょっ――・・・!」



のその言葉が意味のある言葉として最後まで発せられることはない。後を追う悟飯とピッコロは額から一筋の汗を流していた。




















































「おい、悟飯。そうはりきって飛ばさねえでも間に合うんだ。戦う前に力がなくなっちまうぞ!」

「あ!はい」



悟空が先頭を切る悟飯に暗に力を温存しておけとつげる。悟飯もまた、それに従って今まで出していたスピードを幾分抑えて飛び始めた。そんな悟空にピッコロが後ろから近づいて口を開く。



「孫悟空、どうだ・・・正直言って今度の敵、勝てると思うか・・・」

「見てもいねえのに分かりっこねえさ。やってみてから答える」



悟空はピッコロに視線を向けて答える。眼下に広がるのはただただ青い大きな海。白い雲を間近に見ながらは二人の会話をBGMにそれを自分の足越しに見ていた。というのも、未だ悟空に後ろ衿を掴まれたままだからだ。存在を忘れ去られているんじゃないかと錯覚するほどに二人は全くのことを気にかけている様子はなかった。そこへ、悟飯の声が聞こえてくる。



「クリリンさーん!」



それに続いて悟空も短く挨拶をする。クリリンはそんな明るく返事をする久しぶりの再会相手に呆れながらも口を開いた。



「お、おう・・・大きくなったな、悟飯・・・・・・」

「なんだよクリリン。久しぶりだってのに随分、元気ねえじゃねえか」



確かに、悟空に比べて大分元気のない返事ではある。だが、はもし自分がクリリンの立場だったら同じく元気のある返答は出来ないだろうなと思った―理由は十二分に違うだろうが―。クリリンが悟空の問いに横目でじっとりと見ながら口を開く。



「これから化物と一戦やらかそうって時に、うかれてられっかよ・・・・・・オ・・・オレは超サイヤ人じゃないんだぜ・・・・・・」



そう言って、ふっと悟空の身体の向こう側、その右手に掴まれているものに気づいて益々訝しんだ。



「ところで、その・・・なんでが・・・・・・」



言いながらクリリンが悟空の右手に掴まれたを指さす。
悟空は指された方に目を向けて、パッと表情を変えると、



「あっ、忘れてた!わりい!」



言って、その右手であろうことか頭を掻いたのだ。




「「あ」」



クリリンと悟飯が、落ちていくを目で追う。
が、間もなくもしないうちに、



「ちょっと!行き成り手をはなすなよ、悟空!」



言いながらが、思わず空に留まった4人と同じ高さまで飛んできた。身を乗り出して悟空に顔を近づけるに、悟空は悪びれもなく、悪かったと繰り返す。
ただ傍観していたピッコロが盛大に溜息をついたのは言うまでもない。



「本当に緊張感のかけらもないな、おまえら・・・」



クリリンが眉間に皺を寄せながら呟く。
そして一度咳払いをすると再び口を開いた。



「南の都の南西9キロ地点、あの島じゃないか?」



クリリンが親指で示す方向を4人が一斉に振り向く。
まばらな雲の合間から高い岩山が顔を出す比較的大きな島―差し渡し150キロほどと言ったところか―が見えた。その山裾には島いっぱいに町が広がっている。島を囲む青い海には点々と緑の茂る小さな島が浮かんでいた。上空の強い風で5人の衣服がそれぞれにばさばさと大きな音を立てる。



「結構でけえ島だな」



驚いた風に言う悟空。その声音から緊張感というものは微塵も感じられない。
雲で見え隠れする眼下の風景を覗くようにしてが口を開いた。



「意外と・・・大きな町もあるみたいだね」

「ああ、まずいな・・・」



クリリンが悟空と同じく緊張感のかけらも感じられないの言葉に汗を流しながらそちらをちらりと一度見やってから続く。



「人造人間を他の場所に誘い出さないと島の人たちが戦いの犠牲になってしまうかもしれませんよ・・・」

「そうだな・・・」



そんな人事のようにも聞こえる孫親子の会話を聞きながら、クリリンが島にそびえる岩山に目をやった。



「あの山のあたりからデカい気を二つ感じるけど、多分ヤムチャさん達だな・・・」

「行こう!」



悟空の促す言葉で5人が一斉に降下を始める。
目指す先には3つの影があった。











































「やっぱりそうだ、悟空たちだ!」



ヤムチャは上空に5つの影を認めると、おーーう!と両手を振って見せた。 今までヤムチャ、天津飯と談話をしていたブルマもヤムチャの言葉でそれに気づくと左手を振る。 天津飯は、二人には倣わず、ただ視線だけそちらに投げた。



「ブ、ブルマ…!?」




地上に降り立つと同時に、悟空が驚きのあまり、声をあげる。 だが、ヤムチャは気にせず次々地に足をつける5人に話しかけた。




「待ってたぞ!おまえたちちょっと遅刻だ」

「やっほーーー、あらーー、大きくなったじゃないの、悟飯くん」




まるでピクニックの待ち合わせをしていたかのようなブルマに、悟空がすかさず指差す。




「バッカだなーーー!おめえまでなんだってここに来てんだよ!」

「見学に決まってんじゃない!だいじょうぶよ、人造人間をひとめみたら帰るから」




けろっと言うブルマに、は内心、だいじょうじゃないだろ、と突っ込んだ。 だが、そんなことよりも別のことに意識が向いているクリリン。 目を丸くして言う。




「オ…オレはそんなことより、ブ…ブルマさんがかかえている物体の方がおどろいたけど……」

「結婚したんですね!ヤムチャさんと」




嬉しそうにいう悟飯だったが、ヤムチャがそれを否定する。




「…オレの子じゃねーの………とっくに別れたんだよオレたちよ…だれの子かきいたらおどろくぞ、おめえら」




そこに既に未来からきたトランクスに事情をきいていた悟空が、ブルマの抱えているその子供をあやすように言った。



「父ちゃんはベジータだよな、トランクス」

「な、なんでそんなこと知ってるのよーー!あたし、おどろかそうと思って、だれにも連絡してないのに…」



と、逆に驚かされたブルマが声をあげた。 しかし、そこで自分の失態に気づいた悟空が慌てる。



「い…いや〜〜〜!そ、そんな気がしたんだ、なんとなくさ!ベ、ベシータにちょっと似てるだろ!?カオがさ!」



事情を知っているピッコロは、しかし知らんふり、である。 ブルマが、名前までズバリあたったわよ…、と呟く。 悟空が、超能力でもあんのかな!と慌てふためく横で…事情は知らないが、が小さく呟いた。



「…キツい、いいワケだなー……」

「……」



ピッコロは、関わりたくないといった風に始終無言だ。 事実におののくクリリンが驚きの言葉を口にすると、がそれにしても、と顎に手を当てた。



「違う種族同士でも繁殖できるんだな……生殖方法が同じだからかな?……いや、関係ないか…」



その場の空気が一気に何ともいえない空気にかわる。 悟飯は疑問符を浮かべ、トランクスは指を吸い、ピッコロは汗を流しただけだったが。 ふと、その空気に気づいてが視線を上げる。



「あれ?どうしたの?」

「おまえのせいだよ!」

「え?なんで?」



ヤムチャが思わず声を上げるが、答えが返せず黙る。 なんで、なんで?と辺りを見回すが、誰もと目を合わせようとしない。 気にはなるが、誰も答えてくれないので諦めたがため息をついて口を開いた。



「まあ、いいや………ところで、そのベジータはどこに?姿が見えないけど…?」



ブルマに向き直って聞くと、その場の視線が集中したことに気づいてブルマが答える。



「あたし、知らないわよ。いまいっしょに住んでるわけじゃないしさ。でも、そのうち来ると思うわよ。この日にそなえてすごい訓練やってたみたいだし……」



そこまで言って、あ、は知ってるのか…と呟いた。
悟空がおもむろに言う。



「来るさ…ぜったい、あいつは来る……」



今まで無言だった天津飯が腕を組みながら言った。



「チャオズはオレがおいてきた。修業はしたがハッキリいってこの戦いにはついていけない…」

「ああ、その方がいい」



そう誰ともなく伝えると、悟空が相槌を打つ。 悟飯がブルマに問いかけた。



「あの……いま、何時ですか?」

「え…と、9時半……あと30分であらわれるはずよ」



ブルマが腕時計を見ながら答える。 それを聞いて、悟空が真剣な面持ちでブルマに言った



「いまのうちだ、帰ったほうがいい。赤んぼまでつれてきたんじゃとくにだ!」

「だから人造人間てのをひとめみたら帰るって!」



言うことなど聞くはずのない、ブルマだった。








































ショックだな〜〜〜オレ…、と呟くヤムチャ。 ブルマの膝の上に座るトランクスをあやす、悟飯。 クリリンが、シッポの疑問を口にする。 トランクスをなんとはなしに見ていたに、ヤムチャが話しかけた。



「そういや、が子供を産んだら、シッポは生えてんのかな?」



たいして深く考えず、率直に疑問を投げかける。
は、ヤムチャに視線を移すと答えた。



「前にも話したけど、私に繁殖能力はないよ」



そういえばそうだった、とヤムチャが頭をかく。 そう、2年ほど前にブルマの家でBBQパーティを行った際、いつぞやの悟飯同様、クリリンに”卵産むの?”と質問されそれに答えているのだ。 ”…卵は産まないし、そもそも繁殖能力はないよ”と。



「でもさ〜、もったいないわよね。ってけっこう美人なのに。誰かと付き合ったりはしないの?」



ブルマが視線だけ上げてに言う。
は、きょとんとしてブルマを見た。
首をかしげて答える



「今、みんなに付き合ってるけど?」



一斉に肩をおとす大人。 気を取り直したブルマが、そうじゃなくって、と切り出す。



「たとえば、特定の誰かと食事したり、どっか一緒に行ったり、二人きりで話をしたり、とかよ!」

「…ああ、う〜〜ん……それなら…」



と中空をみやって考える。 ブルマ、ヤムチャとクリリンは、え、付き合ってる人いるの?と興味津々にに集中する。 悟空は興味がないのか、悟飯同様、トランクスをあやしていた。 そして、暫くもしない内にが、あ、と小さく声を上げて右の人差し指をたてた。



「ピッコロかな」



三人の驚きの声がこだまする。 は、何をそんなに驚いているんだろう、と疑問符を浮かべるのみだ。 だが、すぐに何かに気づいたブルマ。 目を細めてを見やる。



「まって、。それって孫くんの家で過ごさないときピッコロと一緒にいるってことでしょ?」

「そうだよ?」



なんだ、そういうことかと、何故か安心するヤムチャとクリリン。 ブルマは肩をがっくりと落す。



「だーかーらー、そういうことじゃないんだってば!あーもう、なんて言ったらいいのかなあ…」



と、ブルマ。 そこに一部始終を聞いていたピッコロが歩み寄る。 さらに疑問符を浮かべるをよそに言った。



「こいつにそんな話をしても無駄だ。こいつのそういう部分はオレたちナメック星人に近い。地球人やサイヤ人のようにそういった感情は持ち合わせてはいないだろうさ」

「そんなことないわよ、にだってサイヤ人の血が流れてるんだから、きっとそういう部分にもめざめるわよ!ねえ、

「え…う、うーーん、どうかな?よくわかんないけど……可能性はないとはいえない、かなあ?」



でもやっぱりよくわかんないんだけど、というを尻目に、ほらねー!とブルマ。 ピッコロは少しむっとして、ため息をついた。 ヤムチャとクリリンは、そんな3人―2人、か?―についていけない。 ふと、ピッコロが何かに気づいて、しかし視線はそのままに呟く。



「なにものかが、こっちにくる。邪悪なものではない……」



その言葉に、その場が一斉に空を見やる。
悟飯が呟いた。



「え?ベシータさんかな…」

「あいつは邪悪だろ…」



真意だな、とは心の中で思ったが、声には出さない。 なんだか、どこかで聞かれてそう、と無意識に思ったからだ。 いつだったか”逃げたらドラゴンボールで呼び寄せる”と言われた時のことを思い出して身震いをした。 理由がわからない悟飯が、そんなの行動に疑問符を浮かべた時、悟空が声をあげた。



「あ!!ヤジロベー!!」



同時にスカイカーが目の前に止まる。 まにあってよかった、とヤジロベーが降り立った。



「よう、ヤジロベー、おめえも戦いに!?」



嬉しそうに言う悟空をヤジロベーは一瞥すると、無愛想に巾着を差し出した。



「これ、カリン様から差し入れ、仙豆だ!」

「おっ!!たすかりーー!!さっすがカリン様だな!」

「じゃあな、がんばれよ」



は、仙豆が何かわからなかったが、質問できる雰囲気ではない。 言うが早いか、ヤジロベーは既にスカイカーに乗り込んでいる。 悟空はただ驚いた。



「え!?おいヤジロベーも戦うんだろ!?」

「オレはおめえたちのようなバカとちがって死にたくねえんだよ。いちいちつきあってられっか」



それだけ言い残し、ヤジロベーの運転するスカイカーはまるで脱兎のごとく、一瞬で小さくなった。



「…見習いたいなー、私も……」



の質問より先に出たその呟きは、むなしく響くだけだった。 そこに、あまり気にしていない様子の天津飯が町を見下ろしながら言った。



「妙だとおもわんか…10時はとっくにすぎているのに敵の気配がまったく感じられん…」



え、と悟空、悟飯、クリリン、が天津飯の方を向く。 そういえば…、と悟飯。 ヤムチャが少し得意げになって言う。



「やっぱりあいつのでたらめじゃなかったのか?人造人間だなんて…」

「…でも10時頃っていったのよ、いま10時17分だからわかんないわよ」

「それにしても強い気などまるで感じられないんだ。そんなにすげえやつらなら、この地球のどこにいたってわかるさ」



ブルマの言葉に、ヤムチャがそう返した時だった。 突然、上空に爆発音が響く。 全員が一斉に空を見上げると、さきほど飛び立ったヤジロベーのスカイカーが黒い煙を吐きながら墜落していくのが見えた。 爆発した地点をよく見ると、小さく2つの影が見える。 間もなく町に降りていく。 誰ともなく、慌てて崖に近寄った。



「ま、町に降りた!!!」



ヤムチャが叫ぶ。 クリリンが続く。



「み、みえたか!?」

「い、いやどんなヤツかわからなかった……!!ど…どういうことだ…!ま…まるで気を感じなかったぞ…」



悟空が額から汗を流して呟く。 神妙な面持ちで、が言った。



「もしかして、人造人間だからわからないんじゃないか?」

「そ、そうか…人造人間だから、気なんてないんだ……!」

「な…なんだと………」



悟飯の言葉を聞いて、ヤムチャが絶望したように呟いた。 町を崖から覗き込むが、姿は見当たらない。 ピッコロが苦虫をつぶしたように言う。



「気を感じないのであれば直接、目でさがすしかあるまい…!」

「よし!!みんな散ってさがそう!ただし深追いはするな。発見したら、すぐみんなに知らせるんだ!!」



悟空はそういうと、傍らにいた悟飯に墜落したヤジロベーを見るように言うと、悟飯が力強く答える。 が悟空に向かって言った。



「悟空、私はここに残ってブルマを見るよ。何があるか、わからないだろ」

「ああ、頼む」

「…くれぐれも、気をつけて」

「ああ」

「行くぞ!」



ピッコロが号令をかけると、とブルマ以外の6人が一斉にそこを飛び立った。 雲間からのぞく町は平穏そのものに見えた。





















To be continued⇒


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2016.10


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