どうしたらいいのかな。 なんでこうなったのかさっぱり見当がつかなくて、とりあえず叫んでみた。 「悟空!悟飯!ちょっと助けてくれないかー!!?」 が悟飯のベッドに腰を下ろしながら、たまに宿題の助言をしつつ外から聞こえてくる悟空とピッコロの組み手による音に耳を傾けていた時だ。部屋のドアが音を立てて開いた。そこに現れたのはチチ。机に向かう悟飯に視線を向けた後、に視線を移した。 「お風呂沸いたからさん先に入ったらどうだか?」 そういう用件だった。 はいいのかと一言。 「ああ、いいべいいべ。悟空さたちはまだ外で修行なんかしてるし。」 そんなチチの言葉をきいては一度中空に目をやると悟飯に視線を向けた。 「…悟飯、一緒に入るか?」 そんな問いかけに悟飯が首をの方へと向ける。 「ぼ、僕まだ宿題が残ってるから後でお父さん達と入ります。え、とさん一人でゆっくり浸かってきてください」 「そう?いいの?」 「は、はい」 そう言って俯く悟飯。なぜなら、には胸があるから。女かどうかは別にしても、普段チチから”男の子と女の子はな…”と注意をされているので慌てもするし、そこまで常日頃から言われれば違いを意識したりもする。しちゃいけないことなんていうのも、悟空の例があるからそこは細心の注意を払っているチチだった。だが、に胸があるということを話していないので(話題に上ることも無かったので)チチがそれを知るはずも無い。 「…もしかして、悟飯ちゃん恥ずかしがってるだか?」 「そ、そんなんじゃないですよ!」 「全くおませさんだなあ、悟飯ちゃんは。いいべいいべ、宿題終わったらお父さんと入ればいいだ」 そんなやりとりを悟飯と繰り広げていた。悟飯が何度か説明をしようとするが聞く耳はないようである。変わってはというと、何に恥ずかしく思うのだろうと疑問を覚えつつ、以前覚えた単語の”仲睦まじい”ってこういうことをいうのかなと外れたことを思っていた。 「さて、そろそろ…さんついて来てけろ」 チチの言葉にの思考が現実に戻される。 宿題頑張るだぞ、と残し部屋から去っていくチチ。 「さん、こっちだべー!」 暫くそこから動かないでいると、チチの声が聞こえてくる。はすっと立ち上がると悟飯に、じゃお先、と一言だけ残して部屋を後にした。残された悟飯はというと、何か問題が起きる前にの事をチチに話さないとなあなどと考えていた。 「あ!いけねえ!何か着替えになるもんも用意しとかないといけなかっただな。う〜ん、悟空さので我慢してもらうか」 そう洗濯物を畳んでいたチチがそんなことを思い出し、タンスを漁り始めたのはが風呂に入って大分経ってからだった。 ここで、チチが着替えとして悟空の服を貸そうと思ったのには至極当然の理由がある。つまり完全に男だと思っているからで、それはそう前述の通りの生態事情を知らないということ。なぜなら、話題に上らなかったということもあるが、何よりこの家についてから先までずっと、やはりあの首もとの布を着けっぱなしにしていたのでに胸が存在するなんてチチが気づく筈もないのだ。その胸を見ればそれ以外、男だと位置づける決定的なものは見えないし、顔も分からなければ青年と見るが、わかれば女としてみてもなんらおかしくは無いので女なんだととったであろうが、そもそも結構筋肉のつきがいい上、悟空には届かないにしろ身長だってある。だから、同性から見たって憧れるぐらいの胸があったとしても服の上からじゃ着膨れが拍車をかけて、ぱっと身はガタイがいいようにしか見えないのだ。 そういう訳で何も知らないチチは、適当にズボンと下着を見繕うと風呂場もとい、脱衣所へと向かった。 洗面所へのドアを開け、入って直ぐ左手側に見える脱衣所への暖簾をくぐる。ふと視線を上げれば、目の前にはもう済ませたのか濡れた髪をタオルでわしわしと乾かすの姿。 「す、すまねえだ!もう上がってただか…!こ、これ悟空さのだけんど着替えだべ!」 声に気づいてがチチを振り向く。慌てて視界を隠そうとするが生憎両手は持ってきた着替えで塞がっていた。他に思考回路が回らず焦るだけのチチだったが、ふと露わになっているその胸に視線がいくと驚きとともに先よりも幾分か冷静になる。(尻尾も見えていたが、それは既に前科が二人居るので特に驚かなかったようだ) 「なんだ、さんは女性の方だったべか。じゃ着替えはこれだといけねえな。おらので構わねえべか?ああ、でも身体の大きさが合わねえべな…」 「あ、いや私は…」 「……」 胸を撫で下ろして、あははと空笑いしながら言うチチには女でもないし着替えもいいと答えようと頭にタオルをかけたまま向き直った。途端、そこでチチの思考回路は完全に止まることになる。何故なら、は女性なんだと確信したその矢先、数秒しか経っていないその時に、通常女性についていないソレが視界に飛び込んできたのだから。 そもそも文化圏が全く異なるところから来た彼女(彼か?)にとって、それまで過した環境により服を着るという事はしているものの、その最大の目的は防御に起因すると考えている為、何を隠すでもなく堂々裸でいるということが大概の文化圏において本人にしろ周りのものにしろ得てして羞恥心の元となるのだということは理解の範疇外なのである。いや待て色んな星を転々としていたんじゃなかったのか、という疑問が起こるだろう。確かに、色んな星を転々として色んな文化圏に身をおき、そして触れ新たな発見もしただろう。しかし、自分の興味の無いこと、まして普段の生活で思いつきもしないことを訪れた先でわざわざ質問をしてみたりなどは通常しない。生活スタイルの中に組み込まれていないのだから、新たに自分がそういう感情を持つなりなんなりしないとそもそも疑問に思うことさえないのである。 もし、予期せずしてその様な、この場合、以外の2人以上の相手が、或いは第三者同士がお互い堂々の素っ裸で羞恥心を見せ合うようなことがあったとしたら、迷わずは疑問を質問に変えてそのいくつかの答えを聞いたりもしただろうが、生憎その様なことは今までただの一度も無かった為そうと知る筈もない。 だから、という訳でもないが今もタオルで隠すなどということはしていないかった。ならば、ストレートにソレがチチの目に飛び込んできても仕方が無い。硬直したまま微動だにしないチチをは不審に思って手を振ってみる。しかし反応は全く返ってこず。そして、そのまま後ろに倒れた。びっくりしてがチチに駆け寄る。 「お、おい、大丈夫か?」 左ひざをついて顔を伺うが全く反応が無く、肩を揺すってみても、頬をぺちぺち叩いてみても変わらない。思わず腕を組む。なんで気を失ったのか、全く分からないが首を傾げる。とりあえず、どうすればいいのかという疑問はこの家の主を呼べば良いだろうと言うことで声を張り上げた。 「あ、お父さん。ピッコロさんは?」 の呼ぶ声が聞こえて、部屋から出てきた悟飯は丁度洗面所へ向かう途中で悟空と出くわす。 「外で待たせてる。で、はどうしたんだ?」 「わかりません。行けば分かると思いますが…」 一先ず会話を止めると、二人そろって洗面所を抜け、脱衣所への暖簾から顔を出した。そこで二人の目に入ったのは裸のままタオルを頭にかけ腕を組んでしゃがむとその傍ら、床に倒れているチチの姿。 「あ、二人とも、来てくれたか」 気づいたが顔を上げ声をかける。だが、それに答える前に、そしてこの状況への疑問を口にする前に、の今の状態を見て悟空が反射的に下を向いた。同時に悟飯も下を向く。 「…なんだ、どうした?気分でも悪いのか?」 そうが首を傾げて問うが、下を向く二人にはその声しか聞こえていない。 慌てた口調で悟空が言う。 「お、おめえいいから、まず前隠せ!」 「なんでだ?」 理解できていないが質問する。風呂から上がって大分経っている為、ろくに拭きもしなかったのに身体についていた水滴は全て乾いてしまっていた。しかし、まだ微妙に残っている髪の湿りが微量ながら水滴を作ってぽたりと肩に水をおとす。 「な、なんでもいいですから!そこに大きいタオル置いてあるでしょう、それでとりあえず隠して下さい…!」 悟飯が下を向きつつ浴室の入り口の近くにある棚、つまりが今頭に乗せているタオルが置いてあった棚を指差して必死に叫ぶ。 「だからなんで?」 「「なんでも!!」」 の再びの質問は有無を言わせない二人の必死の叫びにより却下され、結局は渋々立ち上がって踵を返すと棚に向かう。その棚に置いてあったバスタオルを手に取ると適当に身体に巻きつけた。 「これでいいのか…?」 自分の身体を見ながらぽつりと呟く。それが聞こえて悟空と悟飯は少しだけ視線を上げてを見る。背中を向けたの身体にはちゃんと白いバスタオルが巻かれていた。タオルに遮られていない部分の背中や肩には幾つかの傷痕が見受けられる。そしてタオルの裾からは長い尻尾。 「ええ、とりあえずは」 悟飯がそういうと同時に悟空もまた頷く。それを聞いたがくるりと振り向いて先居た場所へと歩み寄る。矢張り改めて正面から見るとその胸の大きさは半端なかった。これで女じゃないって誰が信じるものか。因みにこんな状況でも、ただ恥ずかしいという念だけで、やましい妄想が無いのは流石この二人というところだろうか(といっても悟飯にはまだ早い話であろうが)これを亀仙人やヤムチャあたりが見ていたらとりあえず、の性別がどうであれ先ず目先のものに飛びつくだろう。 しかし何にせよ、とりあえず顔を伏せるようになった辺り悟空も常識で生活が出来るように成長したというべきか学んだというべきか思考回路が進化したというべきか…。 兎にも角にも、悟空が床に倒れるチチの近くに歩み寄ってしゃがむ。悟飯はその傍らで立ちながらに視線を上げた。 「それで、なんでこんなことに?」 その言葉にが頭からタオルを取る。 「それがわからないから君達を呼んだんだよ。風呂から上がって髪を拭いてたら声がしたもんで振り返ったんだけど、そしたら…」 これと、目を開けたまま失神するチチを指差す。悟飯が若干顔を引きつらせて口を開く。 の生態事情を知っているので、おつむのよろしい彼は難なく一つの答えにたどり着いたようだった。 「…あの、もしかしなくても、お母さんの声で振り返った時って裸でしたか?」 「ああ」 それを聞いて悟飯と漸く意味の通じた悟空の二人が顔を見合す。 代わって悟空。 「んじゃ、もうひとつ聞くけどよ、おめえってやっぱりついてんだよな?」 「なにが?」 「なにがってそりゃ、下に…」 「下?」 悟空の問いにがやはり分からないと首をかしげていたが、下といわれ視線でさされた自分の身体の部位を見て、ああと声を上げる。 「なんだそのことか、昼間にも言っただろ、ついてるに決まってるじゃないか。えーと、確かこっちの言葉だと「言わなくていい、何となく今のおめえの口から聞きたくねえ」 続く言葉を遮られ行き成り悟空に口を塞がれる。その頭にはやはり疑問符。悟飯がそれを見上げていた。 「…そんじゃ、多分…」 悟空がの口を塞いだまま、真下に見えるチチを見やって難しそうな顔をする。悟飯もまた空笑いだ。は分かっていないので疑問符を浮かべるのみ。 「とりあえず、チチを運ぶか」 そう言ってから手を放すと悟空は一度そこにしゃがんで、チチを横抱きにする。そして暖簾をくぐってベッドへ。腰に手を当ててそれを見送るを悟飯が見上げて口を開く。 「あの…とりあえず、それ、お父さんのですけど着替えませんか?」 その言葉に、が悟飯の方へ視線を落とす。 「ん?ああ、着替えはいらないよ。とりあえずこのタオルは返そうかな」 そう言って目の前でタオルを取ろうとするを悟飯が慌てて止める。 「だ、だから駄目ですって!そんな堂々と…!」 「よくわかんないな…とりあえず、後ろ向けば問題はないだろ?」 そう言って背を向けるが早いか、タオルを外すと次の瞬間には昼間と同じ服装。 そして、一瞬だけ見えた背中一面、無数に走る傷痕。 「これでオッケイ?」 振り向いたにそう言われ、悟飯ははっと我に返ると頷いた。足元に落ちている悟空の服を手に持つ。 そして、再びを見上げた。 「ついてきてください、これからちょっとお勉強しましょう」 「…はあ…?」 笑顔で言い放ち脱衣所を後にする悟飯の後をは情けない返事をしつつ付いて行く。 そしてその日、はまた新たな文化を知ったのだった。 To be continued⇒ ![]() 2008.10 |
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