目の前に広がる光景は今まで目にした事が無くて開いた口も塞がらない。目を点にしたままただその場に立ち尽くした。ピッコロが何かを吹っ切ったチチと悟飯に促され渋々席についている。悟空に半ば無理矢理に座らされて、それらが一気に視界の全てを支配する。 とてもじゃないが、これを毎日は見ていられないなと、口に入れてもいないのに胃がもたれる思いだった。 「とりあえず、今日はこんぐらいにすっか」 夕日が空を赤く染め始めた頃、悟空のその一言でこの日の修行は終わりを告げた。ピッコロは意外そうにしたが、悟空曰く、夕飯までに帰らないとチチが大変だから、だそうだ。しかし、それに妙に納得が出来て、はピッコロと二人了承した。(といっても、自体はあまり修行に乗り気ではなかったので、どんな理由にせよ、早くに終わるのならば何でも良かったのだが) 「それじゃ、私はこれで「、ちょっと待った!」 「…?」 その場を離れようとしたに悟空が声をかける。 急に呼び止められて意味も分からずそちらを振り向いた。 「おめえ行くとこあんのか?」 そう問うてくる悟空にはいや、と首を横に振る。 途端、悟空の表情が笑顔に変わった。 「ならオラの家に来いよ!一緒にいてくれた方が修行する時もいちいち呼んだり、待たなくて済むだろ?時間の短縮にもなるしさあ。な?悟飯もその方がいいよな?」 「はい!さんが一緒に来てくださったら僕も凄く嬉しいです!」 「よし!じゃ、決まりだな!」 「…え?まだ、私は何も…」 何故か悟空の家に行くことになった事実にが抗議しようとするが、当の本人達は聞いていない。挙句の果てには、 「そうだ!ピッコロさんも一緒に行きましょうよ!」 「おう、そうだそうだ。ピッコロも来いよ」 そんなことを言い出す親子。ピッコロがいつもの調子で断ろうとするが、結局悟飯の気落ちした表情を見て改めたようだった。こうして、4人仲良く(?)孫家への帰路についた。(といっても空を高速飛行だが…) 「君も苦労してるんだね…」 「ほっとけ」 とは最中での、とピッコロの会話である。 すっかり怪我も全快したチチが悟飯の話を聞いて水を取りに流しへ立った。他の者は(若干2名は渋々と)席についている。上座に悟空、その右正面にチチ、その奥が悟飯で悟飯の正面がピッコロ、チチの正面がだ。先述の悟飯の話というのは”ナメック星人は水しか口にしない”というものである。 因みに、何故怪我が全快してるのかといえば、見ていて余りにも居た堪れなくなったが治癒能力を使って治したのであった。そんなわけで、に好感を持ったチチが家にいる事を寧ろ進めたと言うのも仕方の無いことといえた。 (面倒臭いことになっちゃったなあ…) 目の前の大量の料理を見ながら心で呟く。 (船がないとこの星から出れないし、新しく作ろうと思っても材料も設備も整ってないっていうか、見当たらないし…。…ああ、瞬間移動っていう手もあるか…いや、星レベルで離れたところに居るあまり記憶にないやつらの気を探すのは骨が折れるからな、面倒だしやめとこう……。しかし、この星に暫くいるとするとここに居候っていう線が強そうだし、そうなると、毎日この量の食べ物を見続けるって言うのは…) 中空に目をやったり視線を戻してみたり、一人で小さく首を振ってみたりしながらそこまで考えると右斜め正面、上座に座る悟空をちらりと見やった。 「ん?どうかしたんか?」 たまたま目が合って、悟空が首を傾げる。 「…いや、なんでもない」 首を横に振りつつ、すかさずそう答えて視線を戻す。 (なんとかして居候っていう線だけでも対策考えて回避しよう…) そう心に誓って溜息を吐く。俯いた視線の端に水の入ったコップが置かれた。視線を上げれば、チチがピッコロの右正面にコップを置き終わり、の席の後ろを通ってキッチン台に盆を戻しにいくところだった。間も無くチチが席につく。それを確認して一度悟空が席を見回した。 「よし、皆準備できたな。そんじゃ…」 そう言うと孫家族が手を合わせる。 「いっただっきまーす!」 「「いただきます」」 元気のいい悟空の声と、控えめな悟飯とチチの声が重なる。ピッコロは先程から腕組みのまま変わらない。は悟空たちのそれを見て、初めて見る風習だなと思った。しかし、それも束の間、悟空が目の前で物凄い食いっぷりを発揮する。悟飯はチチの教育によるものか控えめに食べてはいるが、しかしそれは見た目の話であって、食べている量は普通ではない。はそれに驚きを隠せずに出す言葉も無く、息を呑んだ。 「あれ?、おめえ全然食ってねえじゃねえか」 「ほんとだな。遠慮しねえで食ってけろ。どんどん食わねえとさんの分も悟空さたちが食っちまうだぞ」 口に入れた料理を飲み込んでをみやる悟空。その言葉に、チチが視線をあげてに遠慮するなと口を開く。悟飯もこちらを不思議そうに見ていた。それにはピッコロの横ですまなそうな顔をして手を振る。同時に口を開いた。 「すまない、言い忘れてたんだが私も食事はとらないんだ、水だけあれば大丈夫」 それに悟空が驚きの声を上げた。 「ええぇぇえええ!!?本当に何も食わないんか!?」 「あー、いや……食べないわけではないんだが。たまに食べたりはするけど、生野菜か果物しか口に出来ないからな。それに食べなくてもとりあえず水だけあれば支障はないし」 悟空の質問に頬を指で掻きながらが答える。 悟空が再び手と口を動かし始めた。 「ほうなんはぁ…オラにはぜってぇ、はへは「悟空さ!食べるか喋るかどっちかにしてけろ!悟飯ちゃんが真似したらどうしてくれるだ!!」 所々は聞き取れても結局何を言っているのかわからないは眉尻を下げる。チチが堪らず悟空を叱った。横で悟飯が空笑いをしている。ピッコロは出る幕など全く無いといった風に静観していた。その額に汗が浮かんでいたけれど。もまた額に汗を浮かばせながら空笑いをする。 そんなの前にことりと置かれた一つの皿。その皿から離れた手はチチのもので。 「それなら食べれるんでねえか?」 顔を上げればチチにそう聞かれる。その皿の上に盛られているものは、断面の大半が白く周りは薄く赤い皮に覆われたどうやら果実のようで、いくつかにカットされたものだった。差し出されたフォークを手に取る。折角渡されたのだからと(というより、送られてくる視線が痛かった)、は一欠けフォークで刺すと口に運んだ。それはしゃりしゃりと歯切れのいい食感で甘酸っぱく、口内に芳醇な香りが広がると同時にとても瑞々しいものだった。 「あ、結構おいしい」 そう純粋に思って、ぽろりと言葉が出る。 それを聞いてチチの顔が笑顔になった。 「ほんとけ?」 「ああ。他の星でも似たような感じのものを口にした事があるが、どれも味が無いか、酸っぱいか、渋いかのどれかだった。…これは結構好きだな」 そう言ってもう一口口に運ぶ。 チチがにこにこしながら口を開いた。 「それならよかった。…そうだ、実はな昼に買い物に行ったらサービスつって貰ったからまだあるだよ。今切ってくるから食べながら待っててけろ」 そういうが早いか、席を立つチチ。がうろたえるも全く気づかずキッチンに立つ。そして凄い包丁さばきでキッチンの上の籠に大量に入っていたそれを切り始めた。そういえば、さっきからちらちらと赤いものが見えていたけどこれだったのかと、そんなことをは思いつつ、しかしどうするんだそんなに大量に切って、と冷や汗を流す。悟空と悟飯は気にせず食事を続けていた。ピッコロはやはり、静観である。 程なくして、の目の前に山積みに切られたそれが皿に盛られて置かれた。もう、この際顔が引きつってしまうのは仕方が無いだろう。チチの笑顔が今は恐ろしい何かにしか思えなかった。 本ばかりが目立つ部屋。は今、悟飯の部屋にいた。他の人たちはと言えば、チチは片づけを、悟空とピッコロは食後の運動とばかり、外で軽い組み手をしている。も誘われたのだがそこは丁重に、昼間の事を引き合いに出しつつ断っておいた。そして、逆に何故かチチに”悟飯ちゃんの勉強を手伝ってやってけろ”と何が出来るかもわからないのにそう頼まれたのだ。それで、とりあえずとばかり、悟飯の部屋にお邪魔して、今は勝手にベッドに腰掛けていた。 机に向かう悟飯が先程まで動かしていた手を止めて頭を傾げ始める。今は通信教育で出された宿題をやっているらしい。暫くそれを見ていただったが、それが余りに長かったので、ふと口を開いた。 「どうかしたのか?」 「えっと、ちょっと分からない所があって…」 顔を机に向けたままに背を向けて悟飯が呟く。この星ではどんなものを勉強するのか、それが気になっていたこともあって、は徐にベッドから立ち上がると悟飯の左後方からその手元を覗き込んだ。見えてきたものは、自分が知っているものとは違っていたが、恐らく何かの式である事は確かで数字や記号が羅列されている。地球人が見れば間違いなく、この歳の子がするものじゃないと突っ込みをいれるだろう。しかし、地球人ではないのでそんなことは知らないはただ物珍しそうにそれを見やった。 「ふ〜ん、何かを導き出すんだろうけど、よくわかんないな。でも、定理はあるんだろ?それを元にすれば出るんじゃないのか?」 「そうなんですけど、応用問題なのでそれらをどう使って解けばいいのかちょっと分からなくて…これ、参考書なんですけど」 そう行って悟飯が手元にある参考書をに差し出した。別に悟飯がそれを差し出したことに深い意味は無い。ただ、が物珍しそうにしていたので興味を持ったのかなと思って差し出したのだ。だから、目を通し始めたが次にそこから目を離した瞬間にまさかそんなことを言い出すなんて思いもしなかった。 「成る程、そういうことか。簡単じゃないか」 「…え…わ、わかったんですか?」 地球のしかもそこで勉強などしたことのない筈のからそんな言葉が出てきて悟飯は驚きとともに目を丸くする。は参考書を開いたまま机に置くと右手を悟飯の椅子の背に置いて説明が聞こえるように前かがみになった。 「うん、まあね。…まずはここだけどな、ここはこう仮定してこれを使うんだよ。で、次にこれを使う」 「はい」 たまたま目の前にあった鉛筆を空いた手でつかんでさらさらと計算のためか広げられていたノートに書き始める。それを悟飯が目で追う。 「そうしたら、これをこうして…こうするとこう出るから、ここでこいつを使って、こうすると…」 「あ、本当だ!できた!」 出来上がった数式の答えを見てそう声をあげる。 は鉛筆を置くと上体を起こした。 「だろ?ま、そんなかんじで他のも解いてきゃできるんじゃないか?」 「はい、助かりました!」 腰に手を当てて見下ろすにそう述べる悟飯。 徐に伸びをはじめたに再び悟飯が視線を向ける。 「あの、また分からなくなったら聞いてもいいですか?」 「分かる範囲でよければ」 「ありがとうございます!」 元気よく礼を述べると悟飯は視線を机上に戻して宿題を始めた。ベッドに戻って再び腰を下ろす。結局、過程はどうあれ、頼まれると断れない性分のだった。 その後、思い出したように悟飯に問いかけた質問で、夕飯にチチによって大量に用意されたあれがりんごというものだということを知るのは別の話。そして、用意されたりんごのほとんどを悟空が食べてしまったと言うのもまた別の話。 To be continued⇒ ![]() 2008.10 |
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