其之六    兵  器





足元の、目前に見える地面は窪み、大きなクレーターが作られている。 その中央には、気を失っているのだろう悟空の姿。 気を纏っておらず、髪の色も金ではなく黒い。 ただ冷ややかに見下ろしていた。 悟飯とピッコロがそちらに駆けて行くのが見える。 の口元は弧を描いていた。












岩山に激突したがその身体をゆっくりと起こす。俯いた顔からその表情は伺えない。気を探るが削られている様でもなかった。先ほどまで掴んでいたように見えた腕は今は両方ともただ下ろされている。ダメージを受けた部位を押さえる気配もない。ただまっすぐ鋭い視線を送る。




ふいにの気が急上昇を始めた。はっとしてさらに目を凝らす。俯いたままの頭がゆっくりと上がる。段々と見えてくるその視線は先ほどまでの視線と違って射抜かれるかのように鋭く、そして冷めている。 自分の背筋に汗が流れるのを感じた。瞬間、の姿が消える。 完全に姿を見失い首や或いは身体を動かして辺りを見回す。足下にも目をやるが、しかし見つけることができない。きょろきょろと首を動かす。ふいに、自分の足元、というよりも、もっとずっと近い所から気を感じた。視線を下にやる。目の前にの顔があった。
無に近い表情が口元に笑みを作る。妖艶でいて背筋が凍りつくような笑み。心の奥底で恐怖すら覚える。顔に張り付いた表情、雰囲気や気に至るまで、先ほどとは全く違う異質のもの。瞳の色もまたあの鮮烈な紅ではなく、ぞっとする程の金だった。
米神に汗が伝う。突然の衝撃。左の頬を襲ったその衝撃は脳震盪を伴い、俄かに視界が揺らぐ。反動で中空にありながら身体が仰向けになる。 焦点の定まらない目が自分のすぐ近くで身体を反転させるの姿を確認した。何かが振り下ろされる。



「ぐぁっ」



自分の無防備な腹めがけて回転の加速を伴った蹴りが、踵が、めり込んだ。勢いで下へと吹き飛ばされるが再び背中に大きな衝撃。の膝蹴りが加速された悟空の背中を打っていた。



「っ、がっ」



それは吐血を伴う身体の悲鳴。再び勢いよく上へと飛ばされる。待ち伏せる様にその先へ先回り見据える。そして、その更に加速された悟空の身体に鳩尾めがけ、両手を組んだ拳が振り下ろされた。それは凄まじい速度を伴って、勢いよく向かってくる悟空の身体にめりこむ。衝撃に声も、息すらも吐くことが出来なかった。






































落ちてくるという表現程生易しいものではなく、地面に到達と同時に辺りを衝撃と共に粉塵が包む。悟飯とピッコロは条件反射で目を瞑り、顔を粉塵が伴う爆風の様な強い風から背ける。腕で風圧を和らげようとするがあまり意味がなかった。
暫くして辺りは静けさを取り戻し、巻き上げられて起きた砂煙も視界から薄れる。ゆっくりと目を開け、視線を悟空の方へと向ける。反応無く、ただ出来た大きなクレーターの中央で仰向けに倒れていた。



「お父さん!」

「待て!悟飯!」



悟飯が堪らず、持っていたの服を投げ捨てた。ピッコロが止めるのも聞かず悟空に駆け寄る。仕方なくピッコロも後を追う。視界の端にが地上に降り立つのを確認した。




























悟飯が意識の無い悟空に駆け寄り両肩を掴んで身体を揺する。しかし、当たり前のように返事は無かった。口から血を流し、顔は苦悶の表情で歪まれている。身体の所々には挫傷や擦り傷。そして、荒い呼吸。肋骨が何本か折られているようだった。それを見て悟飯の傍らで表情を固まらせたピッコロが一つの違和感に気づき一層顔を強張らせる。

二人の直ぐ後ろにが立っていた。気配を感じて顔を強張らせた直後、ピッコロが慌てて後ろを振り向く。視線の先のは先ほどまでとは違い無表情で、悟空とその傍らに膝をつく悟飯を冷ややかに見下ろしていた。 その顔からは、何の感情も読み取れない。
金色に変化している瞳は何とも言えない恐ろしさを更に強くする。すっと細められる瞳。ゆっくりと右手が持ち上がり、その掌は悟空と悟飯に向けられる。



「悟飯!逃げろ!!」



ピッコロがはっと気づいて叫ぶ。同時に、に飛び掛った。しかし、払うように振られたの左拳がピッコロの顔面に入り吹き飛ばされる。 堪らず地面に激突した。



「ピッコロさん!」



悟飯が悟空への呼びかけを止めて飛ばされたピッコロを振り向く。後ろを振り向けば、自分に向けられた掌。そして、その先にある、戦う前までに見せていた表情からは全く考えられないの顔、瞳。 金色に変化している瞳がかっと見開かれた。思わず目を瞑る。 しかし、一向に自分を襲ってこない衝撃に恐る恐る片目を開けた。



「「!?」」



そこに見えたのは、自分の右手を左手で押さえるように強く掴み、固く目を閉じるの姿。悟飯もピッコロもただその状況に驚くだけだ。 ふいにの目が開かれる。その瞳は金ではなく紅に戻っていた。




「どけ!」

「え?」

「早くしろ!」

「は、はい!」




行き成りそう怒鳴られ、分けも分からず悟飯がその言葉に従う。悟空の横に両膝をついたは両手をその身体にかざすと気を集中させた。




「だから言わんこっちゃない・・・!」




そう呟きながらも、かざされた手からの気は悟空の身体を包みこむ。目にはっきりと見えないが、悟空の身体の周りは陽炎の様な空気の揺らぎが包んでいた。 それが分かって悟飯とピッコロは息を呑む。 暫くも経たずに悟空がその目をぱちっと開けた。上半身を勢いよく起こして辺りを見回す。同時にが立ち上がって1、2歩後退した。




「あれ?オラどうしちまったんだ?」




頭の後ろを掻きながらそう呟く。




「お父さん!良かった!」

「なんだ、どうした・・・!?」




悟飯はその顔を喜びに変えると悟空に飛びついた。それを悟空が抱きとめる。 ピッコロは自分がに殴り飛ばされ立ち上がった地点から場所を変えずに顔を驚きで固めていたが、落ち着くといつもの表情に切り替え顎を引いて口を開いた。







   「どういうことか説明してもらおうか」







その言葉に、悟空と悟飯が顔を上げてピッコロを振り向く。は一度目を閉じると大きく深呼吸をして再び目を開けた。どこともなくただ一点を見つめる視線は僅かに下を向いている。




「まあ・・・別に、隠しているわけでもないしな」




いかにも軽そうにそう呟く。悟空と悟飯がに視線を移した。暫くの間の後、が口を開いて語りだす。




「最初に言ったように、私はここからずっと遠い星から来た。そう、ずっと遠い星だ」



視線を仰ぐ。青い空のずっと遠くを見つめる様には目を細めた。



「そこのある研究員がある目的の為にある研究を行っていた・・・その目的とは、全宇宙の掌握。自身に力のない彼は兵器の研究と開発を行っていたんだ、頭脳だけはピカイチだったからね。 そして、その兵器の研究のひとつが”最強にして無敵、強さへの進化を止めない生物兵器”。・・・・・・もう、わかっただろ、私は試作として造られたその生物兵器なんだよ。自分が何体目の試作かはしらないけどね・・・研究の対象として掛け合わせた固体は、サイヤ人とナメック星人・・・君達の仲間のものだよ」




そう言い切ったの言葉に悟空と悟飯、ピッコロの三人は驚きを隠せず目を見開いた。




「これで君達の大半の疑問は解消されたと思うけど他には?」




が視線を三人に向けて問う。 ピッコロが落とした手に握りこぶしを作りながら睨むように口を開いた。




「確かに、今のところの疑問はな。その耳や爪の色、発達した聴覚、尻尾、それから瞳の色の変化も恐らく、サイヤ人が超化した時と似たようなものだな・・・それぞれに何処かしら違いがあるのは突然変異というヤツだろうが、違うか?」

「ああ、殆ど突然変異だろうな、おまけに自然に考えれば在り得ない掛け合わせだし。だが、私も研究対象として結構な種類の実験をされたからその副作用、ということもあり得る。結論から言えば、あまりはっきりとした事は私にも言えない・・・ていうより、聴覚のこと気づいてたのか」




目を見開く




「当たり前だ。・・・だが、一つ分からないことがある」

「なんだ?」





小首を傾げる
さっきまでとは本当に別人だ。 ピッコロが続ける。




「先程の戦いのことだ。人格が豹変したといっても過言ではない。あれはどういうことだ」

「ああ、あれは...」




その疑問に、は口元に右の人差し指を持ってくると中空に目をやって切り出す。




「なんというか、その、興奮状態・・・って言っても戦いによるものに限られるんだが、そういう状態になると自分で理性が効かなくなるんだ。行き成り好戦的になるというか。・・・サイヤ人は戦闘種族だって研究所にいるとき研究員達が話しているのを聞いたから、多分、その細胞がそうさせてるんだと思うんだが・・・。あの状態になると理性が気づくまで止められないんだよな。それで一回だけ、大分昔に星を一つ滅ぼしかけたし・・・どうしたもんかなって・・・・・・気をつけてはいるんだが。そういう訳でさっきのは謝るよ」




頬を掻きながらそう一通り話すと、最後にあははと空笑いをしながら後頭部を掻いた。ピッコロはその答えに頬を引きつらせながら固まる。悟空も空いた口が塞がらないとはこのことで。悟飯もまたぽかんと口を開けてを見上げていた。




「と、とりあえず、質問はおしまい...?」

「あ、あの!僕もいいですか?」




眉尻を下げて言うに悟飯が慌てたように口を開く。 全員が悟飯に視線を送った。 ノキアが先を促す。



「なんだ?悟飯」

「え、えっと、あの...」



いつの間にか立ち上がってる悟空の前で、これまたいつの間にか立ち上がっている悟飯が両手を胸の前でもじもじさせながら俯いている。



「さっきのお父さんを治してくれた能力も遺伝ですか?あと・・・やっぱりさんも大猿になったり、口から卵産んだりするんですか・・・?」



やっとのことで口にした疑問。前者は兎も角、後者の2つの質問(主に卵についての質問だが)には周りの時間が一瞬止まる。それを打ち破ったのは無論、で。




「あはは、何だ、そんなこと。治癒能力は遺伝だと思うよ。これも耳に挟んだだけで詳しくは知らないけど、掛け合わせる元となった固体のナメック星人は治癒能力が使えたらしいからね。 あと、大猿にはなったことがないな。満月を見ると・・・ってやつだよな。確かに満月になると記憶が無い時はあったけど、猿にはなってなかったみたいだね。研究所のやつらが言っていたのを聞いたことだから確かだと思う。 ・・・でも、その口からってのは・・・始めて聞いたけど、多分無理だと思う。第一、繁殖能力はないから私・・・あっても生みたくはないなあ・・・、悪いけど」




最後の方は自分でも顔を引きつらせながら呟く。 心なしか、額には汗が浮いていた。




「そうですよね、良かった」




何が良かったのか今ひとつ分からないが(恐らくは卵の件だろう)、質問をした当事者はそう言って笑顔で胸を撫で下ろした。そして、に歩み寄ると手を差し出す。が意味が分からず首をかしげた。




「お父さんを治してくれて有難う御座います」

「...って言っても、あの状態にしたのは私なんだけどね」




言って頭を掻くに手を差し伸べたまま悟飯が笑みを作る。




「でも治してくれました」




その言葉に、暫く渋っていただったが、一つ息を吐くと悟飯の手を握り返した。




「どういたしまして」




そんな二人を悟空とピッコロはそれぞれに見やる。 腰に手を当てていた悟空が口を開いた。




「しっかし、おめえ本当に強えな。オラからも礼を言わせてくれ、ありがとな。 もしあのままだったら、オラ確実に死んでたぞ」




ははっと笑ってみせる悟空にピッコロが腕を組んで呆れる。




「・・・これに懲りたらもうこいつには手を出さないことだな。危険要因がありすぎる・・・3年後の戦いでも一緒に戦わせるつもりなら気をつけた方がいい。こいつが人造人間どもより先にこの星を滅ぼしかねんからな。負傷者の回復役ぐらいだろう、確実に使えそうなのは。大体の治療は出来るのだろう?」




そうピッコロがにふる。 はピッコロを振り向いて頷いた。



「ああ、病気や寿命とかじゃなきゃどんなに重傷でも完治させることができる」



そう答えた。 それに悟飯が笑顔を作る。



「それなら、お任せできますね!」

「んー、じゃあ、は最終兵器ってことだな」



胸の前で両手の拳を握り歓喜の声を上げる悟飯。悟空が笑顔で呟く。ピッコロがそれを聞いて、出来る限りそれも避けたいといった風に顔を渋らせた。は勝手に決まっていくそれらに、ただ苦笑するしかない。 ふいに、悟飯があっと声を上げる。 何かと皆が振り向いた。



さん、ごめんなさい。さんの服、さっき上で投げ捨ててしまって・・・」



しゅんと落とされた悟飯の頭にが手を置く。 そして笑顔で言った。



「なんだ、そんなことなら気にしなくていいのに」



悟飯が頭を上げる。すると、目の前で一瞬にして脱いだ服がまた元に、が最初着ていた状態に戻った。それを見て悟飯が目を丸くする。



「おめえ、そんなことも出来るのか!すげえな・・・」



悟空も驚いてを覗き込むように身体を前にかがめた。ピッコロは二人ほどではなかったが、しかしやはり驚いたようだった。が悟飯から手を離しながら悟空の方へ視線を上げる。



「でも、別にそんな珍しいことでもないだろ?」

「いや、でもオラたちはできねえからな。ピッコロと神様ぐれえだし」

「・・・神様?」



新たな存在にが首を傾げる。 悟空が頷いた。



「ああ、神様だ。昔ピッコロと神様はひとつだったんだけど、わかれちまったらしいんだ」

「分裂でもしたのか?」



ピッコロを振り向く。



「・・・いや、少し違う。それに、正確には俺自身が神から分かれたわけじゃないからな」

「ふーん・・・まあ、なんでもいいけど」



の問いに曖昧な答えが返ってきたが、首をかしげた自身あまり興味が無いといった風に肩を竦め中空に目をやった。



「よし!」



暫くして、悟空が突然声を上げる。全員がそちらを振り向く。腕を組みながら悟空が口を開いた。



「そろそろ修行開始といくか!いい加減おっぱじめねえと時間ももったいねえし」

「そうだな。では、どう始める?1組ずつ組んでやるのか?」

「あの〜・・・」



悟空とピッコロが話を進めたところで気まずそうにが手を上げる。二人がを振り向いた。悟飯はといえば、頭上で話が進んでいくのをそれぞれに視線を変えながら聞いている。



「どうかしたんか?」
「なんだ?」



二人同時に疑問を投げる。 は一層気まずくなりながらも手を小さく上げた状態で眉尻を下げながら口を開いた。



「話を進めているところで悪いんだが、さっきのこともあるし、私は暫く見学させてもらいたいんだが・・・」

「「「・・・」」」



3人がを見た後、中空に視線をやって暫く考える。 同時に、またへと視線を戻した。



「・・・それもそうだな」

「ああ、それじゃ、まずは悟飯とピッコロの二人、2対1でオラと組み手をしよう。は上で見ててくれ」

「わかった。それじゃ、3人共頑張ってな」



の言葉に三者三様、返事をする(といってもピッコロは視線をよこしただけだったが)。はそれを見届けて、軽く地を蹴るとそのクレーターから難なく抜け出た。3人はそれを見送って一息ついた後、早速組み手を開始する。 口ではそのまま協力する方向で話を合わせたものの、いつのまにか流されている今の状況に、は本当に面倒なことになったなあと大きな溜息を吐いた。 足元に降り立った鳥が地面を啄ばみながら首を傾げる。



何となく、また溜息を吐いた。






















To be continued⇒


←管理人に餌を与える。




2008.09


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