其之五   互 い の 力 量





躊躇いも無く、二人が互いの正面へ向かって突っ込んでゆく。
しかし、一撃目はお互い虚しく空を切るだけだ。

それでも、自分の目では追うのがやっとだと、ピッコロは小さく舌打ちをした。












悟空がまっすぐこちらへ突っ込んでくる。もまたそのまままっすぐ正面へ向かった。 丁度悟飯とピッコロの目の前に来たところで、ふと悟空の姿が消える。しかし、はそれを見越すと、自分の後ろに悟空が現れた瞬間に左足を地に付けて踏ん張り、そのままそれを軸に右足を蹴り上げた。



「くっ」



自分の顎下に向かって飛んでくるその攻撃を、身体をそらすことで避けた悟空は地面を蹴って一気に空高く飛び上がる。もまた右足を地面につけると同時に地を蹴り、後を追った。

足下から目を離さず、宙を物凄いスピードで上がる。下に見えていたがこちらに飛び上がってくるのが見えたと思った瞬間、その姿が消えた。今度は自分の背後にの気を感じてそちらを振り向く。同時にの掌合わせに組んだ両手が振り下ろされるのが見えた。頭を強く打ち付けられ地面に向かって落ちていく。

最中、気を取り直して一度宙返ると地面に着地して、同時に大きく2,3歩後退した。正面にが着地した。



「す、凄い・・・お、お父さんもだけど、さんも、凄く・・・」

「これは、予想外だな・・・」



自分たちの視界の先で繰り広げられた攻防に、悟飯とピッコロの二人が呟く。しかし、どちらも息などは上がっておらずまだまだ余裕といった感じだった。



「おめえ、やっぱ強ええなあ。オラ負けちまうかもなあ」



構えを崩さずにそう話す悟空に、着地した時のまま直立のが頭の後ろを掻きながら言う。



「私はもう止めてもいいんだけど」

「冗談だろ、ちょっと早ええけど、これからが本番だ!」



そう言ったが早いか、悟空は一気に気を高めると、黄金の気を身に纏う。そしてその場から消えた。超サイヤ人となった彼のスピードは今までとは比べ物にはならず、の目の前に突然現れる。まさかここまでスピードが上がるとは思っておらず、不意をつかれた形になる。その隙を悟空が見逃すわけも無い。下から抉る様に鳩尾を狙って悟空の拳が振られる。は咄嗟に鳩尾を両腕を交差させて防御した。

途端、ミシリと骨の軋む音がして大きな衝撃と共に今度はが空中に打ち上げられる。
走った痛みに顔を歪ませて歯を食いしばった。視界に映る風景を形作る、ひとつひとつの木々や岩やその中にある悟飯、ピッコロの姿さえもどんどんと小さくなり、見える景色の範囲が広がる。そして、それとは逆に段々と大きく近づいてくる悟空の姿。

途中でふっと消えると再び目の前に現れて拳を振るう。それをは重心を頭部に持ってきて前方向、端から見れば下の方向へ宙返り避ける。先程のいた位置から上に抜けた悟空は空中で一度止まると下を見やった。体制を何とか整えたが右手で鳩尾を押さえながら視線向けているのが目に入る。未だに顔を歪めるに悟空が言った。



「本気にならねえとやられちまうぞ、おめえ」



一瞬、背筋があわ立つ。それは、悟空に言葉をかけられたからではない。戦いを始める前に抱いた”一抹の不安”その原因ともいえるものだ。焦燥が心を襲う。このままでは、と小さく舌打ちをした。
その瞬間、悟空が目の前から姿を消す。後ろだと気づいて、振り向くと同時に回し蹴りの要領で左足を繰り出した。しかし、そこに現れた悟空はその蹴りを身を引いて難なく回避すると、再びの背後に回る。すかさず振り向くと、左顔面に向かって振られた悟空の右拳を自分の左手で払いのけた。お互いに、拳と蹴りの攻防を繰り広げる。空を切る音、肉体と肉体がぶつかり合う音が中空に響いていた。






「な、なんてやつらだ・・・目で追うのもやっとだ・・・!」

「・・・は、はい・・・」


拳を握りながら言うピッコロに悟飯はポカンと口を開けたままぽーっと空を見やって呟く。凄まじい攻防によるその音は地上にも聞こえていたが、どう見ても超化した悟空の方が押していた。



「でも、さんの方が押されてるみたいです・・」

「その様だな…しかし、無理もないだろう。孫はあの、フリーザをも倒したのだ…先程の未来から来た少年もそうだった様に、超サイヤ人が宇宙一というのは本当らしい…」



視線をお互いに上にやったまま話す。が、そこまで言って一旦区切ると、ピッコロが再びしかし、と切り出した。悟飯が視線をピッコロに移す。


「……しかしだ。あのというやつ、どうも引っかかる……このままでは終わらんぞ、この戦い…」



悟飯には出す言葉も無い。ゆっくりと悟空とに視線を戻す。未だその攻防は続いていた。だが、それも暫くして終わりを告げる。 が悟空によって遥か、岩肌のむき出しになった山へと吹き飛ばされていった。













悟空から繰り出される拳や蹴りのひとつひとつはその速さだけでなく、攻撃自体の重みも相当のものだった。一方的に向けられるそれらを上手く受け流し、或いは払ったりして決定的なダメージから逃れる。どうにかこのまま上手いことやり過ごして、自分の中で膨らみつつある不安が現実になるなと願った。ふいに攻撃をはらった右腕を掴まれる。それとほぼ同時ぐらいに左腕も掴まれた。自分の目線ほどまでに上げられたそれは、物凄い力で抑えられ抗うことが出来ない。



「っ・・・!」



痛みに片目を瞑る。次の瞬間、ばっと跳ね返される形で腕を放された。 反動で僅かに身体が仰け反る。意味が分からず目を見開いた。 だが、その目は次の行動を既に見据えている。 絶対に避けられない、がら空きになった鳩尾に悟空の肘鉄が深く入った。














「がっ・・・!!」



物凄い勢いで岩山に激突する。背中に衝撃と共に激痛が走ったが、鳩尾ほどではない。作った窪みにめり込むように身体が止まっている。堪らず、息を吐くと同時に口内に鉄の味が広がった。口から血が流れ出ていくのが分かる。出所は、内臓からと口内から、両方だろう。激痛によって肩で息はするものの意識を手放しそうな気配は無い。どうしようもない痛みに固く目を瞑る。 再びぞわりと背を走る悪寒に、思わず右手で左腕を掴んだ。左腕は震えていた。



(このまま意識がなくなったらどんなに良かったか・・・!もう、無理だ)



心の中で叫ぶ。一層震えの激しくなる腕を押さえた。そして、瞼を上げる。 その視界に飛び込んできたのは、自分の身体と岩肌、そして自分の流した血溜り。その朱が目に飛び込んできた瞬間、何かが自分のなかで弾けた。腕の震えは止まっていた。





















To be continued⇒


←管理人に餌を与える。




2008.09


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