悟空の家から離れたところにある山の中、木々に囲まれた、周りよりも大分開けたその場所で、悟空とはお互いに対峙していた。8m程の距離を置き対峙する二人から同じく、悟空から見て右、から見て左へ10m程離れた所に悟飯とピッコロの姿。 緑陰をわたる風が、対峙する二人の間を流れていった。 「なあ、本当にやるのか?」 「おう!」 そのの問いかけに、悟空は元気よく返事をする。 腰に手まで当てて。 「…ホントに?」 「あったりまえだろ、そのためにおめえを連れてきたんだからさあ」 再び聞き返すにさも当たり前のように答える悟空。それをその傍らで聞く悟飯は眉根を下げて、ピッコロはその隣でただ腕組みをして聞いていた。は納得いかないといった面持ちで片眉をあげる。 「…修行の為じゃないのか、3年の間に強くならないといけないんだろ……?」 「これも修行のうちだ!おめえも諦めがわりいなあ」 「…」 胸を張って笑う悟空にはただ呆れる。それは君の方だろ、と。 ふーっと大きく溜息を吐いて再びゆっくりと息を吸う。ぴたりと一度息を止めると、一拍おいて再びゆっくりと息を吐き出す。そして、ぴんと背筋を伸ばした。 「しょうがない、やるか」 そう小さく呟いて真っ直ぐ悟空を見据えると、徐に頭に巻いたターバンに手をかけた。 がそのターバンに手を掛けるのを見て悟飯が視線を上げる。 そして、不意にその場に駆け寄った。 「悟飯・・・?」 それに気づいてピッコロが駆けていく悟飯に声をかける。 悟飯は首だけピッコロに向けると足を止めずに言った。 「さんの服、預かってきます」 笑顔で言う悟飯に、ピッコロは他に分かるか分からないかぐらいの僅かな笑みを返す。 直後、視線を上げる。その先には、駆け寄る悟飯に気づいたが外したターバンを手にきょとんとしながら、そちらに視線を送っていた。その風に揺れる一見黒にしか見えない艶やかな髪は、光をうけて僅かに暗緑の色を帯びていた。 「それ、お預かりしますよ」 駆け寄ってきた悟飯が、明るい笑顔をのせて、そう大きくない声で叫ぶ。まだ小さな彼は、めいっぱいにを見上げていた。自然、は悟飯を見下ろす形だ。悟飯のその言葉を聞いたは一瞬眉を上げると、すぐにその意味を理解して笑顔を返した。 「ありがとう」 差し出される悟飯の小さな両手には外したターバンを左手に持ちかえるとそれを渡すために腕を伸ばす。再び悟飯が口を開いた。 「あの、その首の周りのやつとかもお預かりしますよ。邪魔になるといけないので」 「ありがとう、助かるよ」 その申し出に、もう一度笑みを返しながら、礼を述べつつターバンを渡す。そして、首というより上半身にといっても過言ではないその巻かれた布に手を掛けると、ぐいと引いた。ふいに右へ向けた視線の先に鳥が羽ばたくのが見えて、なんとなくそれを目で追う。ただ、手だけは動かして。 邪魔な服を外していくを、悟空、悟飯、ピッコロの三人は三者三様に見ていた。 そして、その手が首もとの布にかかり、それが外された時、三人は自分の目を疑った。 何故なら・・・ 「いっ!?お、おめえ、女だったのか!?オラ、て、てっきり男だとばかり…!」 三人に全く気づかず、首もとの布を外し裾の長い上着を脱ぎ終わって傍らの悟飯にそれを預けようと腕を伸ばした丁度その時、そんな叫びが聞こえては羽ばたく鳥に送っていた視線を悟空に向けた。その先には激しい蟹股でオーバーリアクションを取る悟空の姿。そして、視界の端に映るピッコロは腕を組んだままこちらを凝視して固まっている。傍らの悟飯に目を向ければ、彼もまた同じように見上げたその目を真ん丸にして固まっていた。 何故か分からず、またどうにも意味が分かりかねるその単語を鸚鵡返しに聞く。 「…オンナ…オトコ…?」 「……じょ、女性のことです・・・そちらの言葉でなんと言うのか分からないですけど、あの、そ、その…さん、む、む、胸、が…」 首を傾げてそう言えば、傍らの悟飯が僅かに頬を赤く染め、挙動不審になりながらも悟空の代わりに答える。返ってきた答えに、やはり”ジョセイ”の単語がどうしても思い出せなくて、しかし最後の”胸”で一度自分の胸に視線をやると、暫くしてひとつの答えに辿り着き、右の拳で左の掌を一度、ぽんと叩いた。 「成る程ね、あれのことか。いや、私はそのオンナでもオトコでもない。そうだな、こちらの単語だと…雌雄同体・・・両性体?、になるのかな」 徐に右手を腰に当てて呟く。 中空をみやるを悟飯もまた見上げながら呟いた。 「…ってことは、つまり…」 「つまり?」 「つまり、そういうことだろう…」 悟空が固まったまま悟飯の言葉を反復して疑問符を浮かべる。そして、その言葉にピッコロが終止符を打った。未だに空を見上げる形のを3人は生唾を飲み込んで凝視する。をというより、の主に下半身を。その視線に気づいて、が3人を順に見た。 「な、なんだよ、君たち…あまり、そう見つめられると気分のいいものじゃ無いんだが…」 そう言って、暫く口を噤んでいたが、ふっと息を吐くと左腕を胸の前に、右腕で挟んでぐっと伸ばすと顔は悟空を見据えたまま、腰を右に捻った。 「ま、いいか。とりあえず、さっさと始めよう、早く終わらせたいし…」 このままでも埒が明かないしな、と思いながら。 傍らで固まっていた悟飯が意識を戻してに問う。 「そんなに自信があるんですか?」 その問いに、は笑顔で答えた。 「ああ、負ける方にな」 そんなに元気よく言われても、と悟飯は顔を引きつらせながら”向こうで見てますね”との服を持っていた腕を少し下げて踵を返した。しかし、ふいに、視線が下がったことにより、視界に漸く入ったそれに再び驚いて固まる。それに気づいた悟空とピッコロが、何だと言う風に今度は悟飯を見た。二人からは何が見えたのか、いや何が起きたのか”何かを見た”ということでさえ分からない。 「よう、どうしたんだよ、悟飯ー!」 悟空が叫ぶ。悟飯は出す言葉もなく、また両手がふさがっている為その方向を指差すことも出来ずに凝視していた。 「どうしちまったんだ?悟飯のやつ」 一向に帰ってこない答えに悟空はそう呟いてピッコロの方に視線を送る。それに気づいて、ピッコロも悟飯から視線を外して悟空をみやるが自分も分からないと首を一度横にふった。 はといえば、傍らでわなわなと震える悟飯に今度は何事だろうと、とりあえず次の言葉を待つ。そして漸く、悟飯が口を開いた。 「あ、あ、あの、そ、それ…さん、それ、し、し、「ああ、これ?尻尾のことか?」 最後まで聞く事もなく、何を見て固まっていたのか理解して、それを上に上げると、左手にとって見せた。 そう、それはサルの様に長い尻尾。なぜ、今まで全く気づかなかったのだろうと疑問にすら思える、サイヤ人特有のあの長い尻尾である。しかし、の手に持つその尻尾は今まで見てきたものや、まして自分に生えていた尻尾とは違ってその毛並みは艶やかで美しい漆黒だった。 俄かに目に入るその尻尾に、無論、ピッコロや悟空もそれに気づいて驚く。だが、悟空だけは少し的外れだった様だ。 「おめえも尻尾があるってことは、サイヤ人なのか?ほえ〜、ベジータのやつはオラ達以外にはもういねえって言ってたけど、いるじゃねえか。…ちょっとオラ達とは違うみたいだけど」 そう言って感心したように腕を組む悟空にピッコロがそちらに首を向ける。 「外見から大分違うと思うが…第一サイヤ人のお前たちと気の性質が根本的に違う」 「そういや、そうだな」 額に汗を滲ませるピッコロにそういわれて悟空は顎に手をやった。 だが次の瞬間にはそこに笑顔を貼り付けてのたまう。 「ま、いっか。とりあえず戦ってみればわかるだろ!後は終わった後にでも聞けばいいしな!」 軽く言い放たれたその発言にピッコロは”そう簡単に話すだろうか”と疑問を覚えつつも、悟空から視線を外すとそれを悟飯に向けて彼の名を呼んだ。悟飯がそれに気づいて首をそちらに向けると、頭上からも声がかかる。 「ほら、呼んでるみたいだし、そろそろ向こうもやる気みたいだから離れてな、質問は後で」 ピッコロに視線をやった後、悟空を指差して、にっと、笑みを見せると離れているように促す。完全に悟空との戦いを回避することを諦めたらしいは改めて悟空に向き直った。目線の先の彼はやる気満々だと言うように右手を置いた左肩をぐるぐると回している。 (あー、本当にやる気だよ・・・気も溢れかえってる・・・・・・面倒なことにならなきゃいいけどな・・・) 眉尻を下げて頬を掻きながら、一抹の不安を抱いて声には出さずに呟く。しかし、そうも言ってられないか、とひとつ溜息を吐くと、頬から手を下ろして顔は正面を向いたまま、身体を左に向け右足を一歩前に出した。斜め15度程度に伸ばされた左腕。その手は拳など作ることなく、ただ、掌もその身体に向けられていた。 肩を回していた悟空はその一連の動作に気づいて動きを止めると、強い眼差しを向けてその口に笑みを乗せる。お互いに目が合う。 「さあ、いつでもどうぞ」 静かに放たれたそのアルトの声は、しかし鮮明にピッコロの、悟飯の耳に、そして悟空の耳にも届いていた。の言葉に悟空が足を広げ身を低くして構える。 風も何もかもの音がぴたりと止んだ。 「いくぞ!」 かっと目を見開いて、悟空が地を蹴る。一瞬にしてその場から姿が消えた。それから間も無く、の姿も消える。 悟飯とピッコロの二人はただそれを凝視していた。 To be continued⇒ ![]() 2008.09 |
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