其之三   謎 の 宇 宙 人





半ば強引に連れてかれたその家には、悟空の奥さんだというチチなる人物がいた。明るく元気な人物であったが、今は鬼の形相で悟空に当たっている。

は額に汗を浮かばせながら、そっと、


「取り込み中みたいだから外で待ってるな」


そう呟いて、これまたそっと玄関のドアを開けた。
小さなその家には大きな声が響いていた。












そよぐ程度の優しい風が吹く青空の下、眼下に広がる緑豊かな小さな村。その一角、川沿いにある小さな家をピッコロは腕を組みながら小高い丘の上から見下ろしていた。
正確には、そこから出てきたと名乗る青年を。

彼は腰に手を当てて何事か考えているようであったが、ふと、その姿も気さえもそこから消える。



(逃げたか)



そう心の中で呟いたが、次の瞬間には自分の直ぐそばに消えた気が現れた。
その姿と共に。



(瞬間移動、とか言うやつか)



不意のことで驚いたが、直ぐにその答えを見つけると、の足が地に着くと同時に問いかけた。



「逃げないのか?」


















声をかけられて、は顔を上げた。あげた先に見えるのは、先ほど移動先として勝手に決めた人物。眉尻を下げながら、頭の後ろに手を当てて口を開いた。



「嫌だな、君達が私の気を察知することぐらい造作もないってこと、さっきの話で理解してるよ。君なら逃してくれそうだけど、悟空の方は大人しく逃がしてくれそうもないし」



そう言って肩をすくめる。と言うのも、別に悟空が何か凄みを効かせたわけではなく、ただ純粋な戦いたいと言う願望が、まるで玩具を強請る子供の様に強く感じられたからだ。聞いて、ピッコロが鼻を鳴らす。



「賢明だな。どちらにせよ、逃げたところで今度は、ベジータがお前のところに来るだろう、戦いを挑みにな」



それを聞いてはただ乾いた笑いを浮かべることしか出来ない。そんなをピッコロは見下ろしていた。その視線にが気づく風でも無く、ただふと顔を上げて口を開く。



「えーと、ピッコロ…で、良かったよな?」


名前を呼ばれてぴくりと反応する。



「なんだ?」



一層その目に鋭さが増して、は一歩、後ずさった。



「そ、そんなに睨むなよ、別に何かしようって訳じゃないんだから」



そう言って暫くお互いに視線を交わしたが、何があるでもなく。
ピッコロが口を開いた。



「で、何だ」

「え、いや、別に大したことじゃ無いんだが、ナメック星人って皆…君みたいな感じ、なのかなー?と思って文献でしか知らないからさ…」



そう、恐る恐るといった面持ちで聞いてくるに、ピッコロは顰めた眉間を一層顰めて言い放った。



「くだらん」

「スミマセン」



何となく、そう謝って口を噤む。
俯いたをピッコロは暫く見ていたが、やがて一つ溜息をついた。






「…一人の固体から生まれてくるんだ、皆、そう変わる筈が無いだろう。例外も考えにくい」






視線を外して腕を組みながらそう言う。
その答えを聞いて、は半ば諦めていたせいもあってか、目を丸くした。



「全くくだらん質問だ」

「ゴメンナサイ…」



再びそう言われて、もう一度謝る。



「でも、そっか…皆変わらないのか…じゃ、やっぱり遺伝、かな」

(…?…)



俯いて、自分の長く尖った耳を左手で弄びながら口元には笑みを浮かべてそう呟く。すらりと伸びた指の形の良い爪は、間違いなく手を加えているわけでもないのに、そのタイプのヒトにしては珍しく自分と同じ様に黒い。
普通の人間なら聞こえないだろうが、ピッコロにはそれが鮮明に聞こえてそちらを凝視しながらも、しかし意味が分からず疑問符を浮かべた。

そんな時、ふとその耳に聞こえた僅かな怒鳴り声とそれから間もなくの何かを突き破る音。そして、その目には、同じくそれに反応したのであろう、耳から手を外して視線だけをそちらにやるの姿。思わず眉根を寄せる。

それに気づいていないがくるりと身体をそちらに向けて、2,3歩進んだ。



「あらら、あれは酷い…」

(こいつまさか…いや、ありえん、偶然だ)



顎に手を置いてしゃがみつつ、覗き込むようにしてそちらを伺うの後方で、未だ腕組みをしてピッコロは尚その背中を凝視していた。そして、自分の中に生まれた一つの可能性に首を振ると、同時にの直ぐ後ろまで歩み寄って問題の方向に視線をやる。

そこに見えたのは家の壁を突き破り、尚その先の木の幹を圧し折り、そしてその先にまであった岩をも砕いてやっと止まったのであろうチチの姿だった。どうやら頭から突っ込んでいるようで。

暫くして家の扉が開いて悟空の姿が。
そして、チチが家の中へ運ばれていく。

僅かに聞こえてくる話し声。
思わずピッコロが呟いた。



「…超サイヤ人にも弱点があったか…」

「…あはは、確かにあれは致命的な弱点、かな」



自分の直ぐ後ろ、頭上から聞こえてきたその呟きには最もだと、しゃがんだまま乾いた笑い声をあげて同意の言葉を述べる。そうして暫く二人はそのまま静止していた。

風がひゅうっと流れていった。






















To be continued⇒


←管理人に餌を与える。




2008.09


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