其之二   意 外 な 拾 い も の


恐る恐る開けた視線の先には人の背中。その長身の人物が正面に伸ばした両手の前には青白く光る薄い膜のような壁が見える。ふっと消えると同時に、その伸ばされた両腕も下ろされた。
悟空は自分の顔を庇うように翳した腕を下ろすと、ただその背中を見つめた。今まで感じたことの無い不思議な感覚さえ覚えるその気の持ち主はやはり、当然の如く知らない人物だ。
爆発であがった砂煙が風に流されて、段々と視界が開けてくる。一層強い風が吹いてそれが吹き飛ばされると、同時にその人物がこちらを振り向いた。 その深く鮮烈な紅い瞳が印象的だった。



『怪我はないか?』



そう聞いてみるが、振り向いた先の人物たちは言葉を理解しているのかいないのか、ぽかんと口を開けて間の抜けた、或いは驚愕の眼差しでこちらを見ていた。



『もしもし?』



右手を振って反応を見るが、一向にこれといった返答は無い。どうしたものかと、思わずは頭をかいた。
















「おめえ、どっから来たんだ?地球人じゃねえよな?」



そう、やっとこのことで切り出した悟空に、すかさず悟飯が口を開く。



「お父さん、言葉、通じないんじゃないですか?」

「あっ、そうか!しまった、そうだよな。おい、ベジータ通訳してくれよ!」



そう言って後ろを振り向く悟空。
しかし、そこはあのベジータである。



「誰がそんなことをするか!」



しかめっ面に腕組みと先程から変わらない体制で言い放つ。他のものは呆けていたり、固まっていたりで各々であったが、ただピッコロだけはその謎の”宇宙人”から目を離さないでいた。

そんな目前の人物たちのやりとりを暫く見ていたその宇宙人は、頭をかいていた手を徐に止めると、何かを思いついたように右手の人差し指を立てた。



「これで通じるか?」

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」



その場の全員がそちらを凝視する。各々の目線の先にはあの宇宙人が指を立てて笑っていた。



「通じるみたいだな、良かった。それより、先程はすまなかった。急に機体のコントロールが利かなくなってね。君達を巻き込んだ形になってしまったが、怪我は無いか?」



そう流暢に話をする宇宙人に誰一人驚愕の眼差しのまま、口を開こうとしない。
ベジータさえも腕こそ組んだままだが驚きでそちらを凝視していた。

やっとのことで、ピッコロが口を開く。



「…貴様のお陰でな。それよりも、貴様は何者だ?どこから何の為に来た?
返答次第ではただでは置かんぞ」



そう話すピッコロに、その宇宙人は指を立てたまま暫くきょとんとしていたが、その最後の言葉を聞くと顔色を変えて尚、両の手を顔の前で振って見せた。



「そんな、物騒な…!何もするつもりは無いって。本当にたまたま機体のコントロールが利かなくなってここに墜ちたんだ。原因も分からないし…!
私の名は、もう無くなって久しいが、ここから遠い星から来たんだ。今は星々を転々としていたが、ほら、今ので…だから、ちょっと暫くの間この星に居させてくれないかなーなんて、駄目かな?」



親指でくいと、跡形もなくなってしまった宇宙船を指差してそう言うと、とりあえずの話し相手であるピッコロに上目遣いにそう問いかける。
その問いに横で聞いていた悟空が、



「別にいいんじゃねえか?そんなの誰にも聞かなくても。地球に危害を加えるわけじゃねえんならオラは構わねえと思うぞ」



そういって微笑んだ。
それを聞くと、は悟空の方を向いて笑みを作る。



「本当か?良かった。出て行けって言われたらどうしようかと…」



文字通り胸を撫で下ろして安堵するに悟空が再び口を開く。



「それよりも、おめえ強えだろ!」

「!?」



その問いかけに、が目を丸くする。ピッコロとベジータ以外の全員はどう口を出したらよいのかタイミングをつかめずに、ただ冷や汗だけを流して見守っていた。二人はといえば、ただ淡々とその動向を見守るだけだ。



「な、ちょっとオラと戦ってみねえか?」

「や、そんな、私は弱いし、何よりそういう物騒なことは…」



ぽんと左肩に置かれた手とその悟空の顔とを交互に見ながら右手を身体の前でかざす。その顔は、眉尻は下がって、どこから見ても困っている様にしか見えない笑みを浮かべていた。
しかし、そこは悟空だ。一歩も引かない。



「そんなこと言ったっておめえ、さっきかなりのスピードでここまで移動してたじゃねえか。全然見えねえし、普通に驚えたぞ」

「あ、いや、さっきのは瞬間移動といって…「おめえも瞬間移動使えるのか!?すげーな!!」



しまったと思っても後の祭りだ。自分が掘ってしまった墓穴を埋め合わせることなど出来るはずもなくて、出来たことと言えば、ただ、悟空の顔と自分の顔の距離が近くなったことに一歩後ずさって再びその距離をとるぐらいだった。
そんなときだ、不意に聞こえた言葉は。






「ふん、そんなこと本人に聞かなくても試せばいいだけの話だ」






それは紛れも無くベジータの声。
その場に居たもの全員がはっとして顔を上げる。悟空が、ベジータ!と叫んだが、遅かった。

気づけば、目つきの鋭い人物が自分のすぐ右横から既に蹴りを繰り出しているところだった。動きが読めないということはないが、が予想していなかったのも、また事実。その蹴りがに届いたその瞬間、肉体と肉体がぶつかる大きな音がした。

ブルマが思わず目を瞑る。しかし、ブルマ以外全員が、ベジータさえもその目を疑った。何故なら、ベジータの繰り出したその蹴りは、標的の顔面に入ることなくその右腕によって遮られていたからだ。

俯いたその顔に表情は無く、ゆっくりとベジータの方へと向けられる。その視線はただ鋭い。だが、その右腕が下げられると同時に、その表情はもとに戻り、残ったのはただ吃驚したと、そう言わんばかりに開かれた目とそれを形作る表情だった。



「な、何を急に…!」



そうが言葉を口にする。



「くそ、なめやがって!」



そう吐き捨てると、ベジータは攻撃を止めることなく、の腹めがけて身体を捻りもう一度片方の足から蹴りを繰り出した。それをすかさず、身体を引いてかわす



「ちょ、ちょっと、待て」



慌てて出されたその言葉に反応するでもなく、ベジータは地面に着地すると右の拳を振るう。だが、はそれを腰を右に突き出すようにして引くと巧みに回避した。

左の脇腹の直ぐ横を拳が通り過ぎる。間髪いれず次の攻撃が顔面を襲うが、それもまたしゃがむことで逃れた。頭上を飛んでいく拳を目で追いながらが再び口を開く。



「だから、ちょっと待て、てっ」



同時に、繰り出された足払いをジャンプすることでかわす。一向に当たらない自分の攻撃に、ベジータが舌打ちをした。再び拳をふるが、はその腕に手を置くとそれを軸に身体を捻ってベジータの後方に宙返る。



「くそったれ!」



振り向き様に回し蹴りを入れるが、しかし、それは虚しく宙をかすっただけで、の身体には当たらなかった。それもその筈、当たる瞬間にその場から居なくなったのだから。
悟空たちのすぐ目の前に現れたは大きく息をついた。



「すげーな!おめえ、やっぱりすげーよ!」



怒りで震えるベジータを尻目に、悟空がただ純粋に歓喜の声を上げる。
そして、額から外されたの手を掴むと言った。



「決めた!おめえ、オラたちに協力してくれ!よし、そうと決まったらまずは家に戻るか!」

「え?え?ちょ、ちょっと、君…?」

「ピッコロ、オラと悟飯とと一緒に修行しねえか?組み手とかやりてえし」

「…い、いいだろう、望むところだ。…しかし、孫、そいつは「クリリンもヤムチャもどうだ?いっしょに」

((((((聞いてない…))))))



の腕を掴んだまま話を進める悟空に誰もが突っ込む。
今や悟空の中で忘れ去られているベジータは青筋が何本もその額に浮かんでいた。



「お、オレはいいよ、武天老師さまとじぶんのペースで修行すっから」

「オ、オレも遠慮する、正直言ってお前たちの修行にはついていけそうもないからな…」



クリリンが武天老師こと亀仙人のサングラスをかけながら、しかし悟空の突っ走り具合に冷や汗をかいて答える。ヤムチャもまた汗を流しながら言った。そこまで聞いて、そっかといった風に悟空は納得すると、の腕を引いたままブルマの方を振り向く。



「じゃあな!ブルマ、じょうぶな赤んぼ生めよ!」



そう言うと、今度はを振り向く。



「よし、じゃ行くぞ!悟飯とピッコロも!」

「え、ちょ、ちょっと、だから、ねえ君、人の話を聞けよ。
君の話が見えないし、第一、私まだ君たちの名前とか…うわ」



みなまで言う前に悟空がの手を引いて飛び立つ。悟飯とピッコロも一度二人で目を合わせると、悟空の後を追っていった。



「オ、オレたちも行く…じゃ、じゃあ3年後に…」

「バイバイ」



暫く呆けて空を見ていたが、天津飯と餃子がそう言って後にしていく。
ブルマとクリリンが手を振った。



「くそっ、どいつもこいつもオレを馬鹿にしやがって!!」



そう怒鳴り声が聞こえたかと思うと、遠くで放置されていたベジータが飛ぶ瞬間の爆発音だけ残して空に消えた。残されたブルマ、クリリン、ヤムチャ、プーアルの四人はただそれを見ていたが、ふと、クリリンが、



「で、結局、あの墜ちてきたあいつは何だったんだ?」



そう切り出すと、ヤムチャとブルマの二人が、



「さ、さあ…」

「まあ、地球を襲いにきたってわけでも無さそうだったし、孫君たちに任せておけばいいんじゃないかしら…」



それぞれそう残して各々の帰路についた。
もちろん、悟空の残した”赤んぼ”発言に突っ込みを入れてから。






















To be continued⇒


←管理人に餌を与える。




2008.09



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