覚悟はしてた 命があれば、それでいい 私が今までの短い人生で経験した全てを賭けて 全力で乗り切って見せる ストレス社会に揉まれた現代人をなめるなよ 人間万事塞翁馬 23 頭痛で目が覚めた。 そろそろと目を開ける。 目の前に木製の床が見える。 私はそこではっとして、思い切り身体を起こした。 と、同時に鈍い痛みが後頭部に走って、思わずそこに手をあてる。 コブが出来ていた。 「いった〜、なんでタンコブなんか…」 「やっと、やっとお目覚めですな、殿。ようこそ濮陽…呂布殿の城へ。少々薬が効きすぎたようではありますが…さて、さて」 私は、聞き覚えのある声に眉をひそめる。 床に座ったままそちらを見ると、陳宮さんが立っていた。 頭が混乱する。 なんで、陳宮さんがここに? ここは、濮陽? 私は、どうしたんだっけ? 呂布の城? 薬? 「実は、実は殿に折り入って頼みたいことがありましてな」 陳宮さんは、混乱する私のことなんかそっちのけで話を続ける。 話を聞きながら少しずつ、私は思い出す。 私は、郭嘉さん達と彭城を目指してた。 彭城についてから、陶謙軍を退けて勝ったんだ。 それから…ああ、そうだ。 礼儀のなってないおっさんに外に連れ出されて、それで…。 「どうか、呂布殿のため、そして私のため、殿にご協力を賜りたいのです」 ああ、全部思い出した。 多分、私、拉致られたんだ。 …てことは、黒幕はこいつか。 とりあえず、ここまで頭回せるならなんとかなるかな。 にしても、なんだ、協力って…。 ああ、頭痛い。 「協力?」 「はい」 私は訝しんで答えると陳宮さん…いや、陳宮は短く答えた。 髪紐はどこに消えたんだろう…。 髪が少し邪魔だ。 そんなことを考えながら、私は陳宮に質問した。 「何を協力するの?協力できるほどのものを、私が持っているとは考えにくいんだけど」 「いやいや、そんなことはございません。あなたは何より、何より素晴らしいものをお持ちです。知識という名の宝を」 「知識…?」 「はい」 私は、陳宮に答えながらあらゆることを思い出した。 そういえば、伯寧さんと東平で話をした時に、こいつに話しかけられた。 ――もしかして、あのとき…話を聞かれていた? 知識。 知識っていうのは……あのとき、もし聞かれてた、っていう前提で考えるなら…。 もしかして、もしかしなくても”この先を知っていること”じゃないだろうか。 それ以外考えにくい。 ていうより、多分それ以外ない。 だって、私が持ってるもので、他人から見て価値があるものって言ったらそのぐらいじゃない? しかも、陳宮は曹操さんを裏切って呂布についてる。 いま目の前にいるこいつが、何を考えているのかは分からないけど、呂布を勝たせたいと思うなら少しでも自分に有利な情報を得たいはずだ。 それでもし、この先のことが分かって、その中に自分にとって有利になるようなものが含まれているとしたら、遣わない手はないだろう。 そう考えたら、とりあえず片っ端から知りたいはずだ。 この先を。 要るか要らないかは、全部聞いてから判断すればいいんだから。 …結構マズイかも、この状況。 なんとかできる、かな…。 とりあえず、はい協力します、でその場凌ぎするのは、一番まずい選択肢な気がする。 色んな意味でマズイ気しかしない。 だって、その後をどう乗り切ったらいいのか、ぱっと思いつかないもの。 全然、これっぽっちも。 「この先、何が起きるのかをご存知なのでしょう?それを是非とも、是非とも私たちのために提供していただきたいのです」 ほら、きた。 「ごめんなさい、なんのことかよく分からないです。この先なにが起きるのか、って私も知りたいんですけど…」 「しらばっくれても無意味ですぞ。私はしかと、しかとこの耳で聞いたのです。話していないなどとは言わせません!」 「そんなこと言われても…知らないものは知らないです」 そんなヒステリックに喚かれても困るぞ。 …困ったな。 表情に出ちゃうのもマズイな…。 あれで行こう、他人事だ。 そう、これは他人事。 「左様ですか。ならば、この方を前にしても平常心のまま、同じことが言えますかな?」 私は陳宮の奥の戸へ視線を移した。 そこから、すごい威圧感のある人間が姿を現す。 もう、聞かなくても分かった。 これが、あの、いわゆる有名な、人中の…。 「呂布殿、この娘が、この娘が我々を勝利に導く宝でございますぞ」 「ふん、宝、とはよく言ったものだな。こんな小娘が、本当に役に立つのか?陳宮」 「勿論、勿論でございます。この娘、殿のもつ知識と、私の知略、そして呂布殿の武が合わされば、天下に名を広める事など容易いでしょう!」 「そうか。ならば、早くしろ。俺も暇ではない」 呂布が言い終わると、陳宮はいやらしそうな笑みを浮かべてこちらに歩み寄る。 …軍師って独特な笑い方するよね…。 何、みんなそんななの? もしかして、孔明とか龐統とか周瑜とか司馬懿なんかもこんななのかな、こっちって。 私、荀攸さんみたいなのが軍師の定形だと思ってたよ。 ここに来てから、色んな意味で期待を裏切ってくれるよね、みなさん。 他人事よろしく、そんなことを考えていると、陳宮が私の目の前で止まる。 私を見下して言った。 「殿。もう一度、もう一度聞きますぞ。どうか呂布殿に協力していただけませんか。悪いようにはせぬ故」 「だから、何のことか分からないって言ってるじゃない」 「それが、殿の答えですかな?」 「そうよ。協力出来ることなんて何もない。分からないんだもの、仕方がないでしょ」 「仕方がない…仕方がない、そうですな。仕方がありませんな」 少し声音が変わった。 そう思った瞬間、陳宮は私の右手を掴みあげてその脇に挟むと、私の動きを封じる。 関節を動かせない。 無理に動いたら、外れる。 「いった…い」 「さて、殿。私はあまり手荒なことはしたくありません。殿が、ただ首を、首を縦に振ればそれで良いこと。簡単な話です」 なんだ、こいつ。 なに言ってる? 何を、しようとしてるの? そう思いつつ、私はただ漠然とこれから’よくない事’が起きるんだろうと、とどこかで考えた。 「これが何か、何かお分かり頂けますかな?」 私は顔を上げる。 そこに見えるのは。 「…鎌…?」 「そうです。これは、これは私の得物。どれほどの威力か、是非とも殿ご自身でお確かめください」 は?どういうこと? 得物、は分かった。 けど、私自身…ってどういうことだ。 だめだ、考えたくない。 嫌な予感しかしない。 「まあ、本来の使い方とは少々外れますが、それも致し方ありませぬな」 「なに言って…!」 そのとき、人差し指の先に激痛が走った。 いや、激痛なんてものじゃない。 頭が痛くなる…違う、痺れるほど、全身が跳ね上がるほどの痛み。 同時に私はその痛みに声を上げた。 言葉にならない声を上げて、ただ叫んだ。 抜け出したいけど、抜け出せない。 背中が粟立つ。 冷や汗が、止まらない。 「おや、殿は中々、良い声で鳴くご様子……これは、これはいけませんな。私としたことが、少々楽しくなって参りました」 じょ、冗談じゃない! このサディストめ…!! 少しだけ視線を上げる。 私の視界に僅かに目に入る。 私の右の人差し指から血がぽたぽたと落ちている。 爪の間に、鎌の先が入ってる。 …とりあえず、指落されなかっただけマシだと思おう。 私は激痛の中で、そう思った。 頭がおかしくなる。 こ、これは…他人事よ…。 だ、大丈夫。 いつだったか、ほら、たしか、現場の片付の最中に釘を爪の間に刺したことあったわ…。 あれと、同じよ…。 めっちゃ、痛かったな、あれ。 誰だ、あんなところに釘なんか落した馬鹿野郎は。 絶対ゆるさない。 「さてさて、殿。聡明なあなたならば、この先どうなるかお分かりでしょうな。ここからが、本題ですぞ」 ああ、まだ喋っててもらった方が気が紛れるかも…。 「我々に協力していただけませぬか?殿の、殿の持つ知識が、どうしても必要なのです。ご協力、いただけますな?」 「だ、から…私は何も、知らない、っ!」 そのとき、私は自分でも出したことない声で叫んだ。 ただ、叫んだ。 涙が止まらない。 汗も止まらない。 なんで、私がこんな目にあわなきゃならないんだ。 多分、爪を剥された。 「ふむ、耳に心地よいですな。何度、何度聞いても飽きませぬぞ。さて、もう一度聞きましょう。殿。我々に、協力していただけますな?」 「知らない!何も知らない!だから、協力なん、っっ!」 ただ叫ぶ。 誰か、お願いだから助けに来て。 今度は中指の爪を剥された。 指先が熱い。 脈打つ。 …そういえば、電ノコで爪飛ばしたことが一度あったっけ…。 それと、同じね。 運よく爪根が壊れてなかったから、綺麗に生え変わったんだった。 …どの指だったっけ。 ああ、思い出した左の人差し指だ。 あれは、痛かった。 何年かぶりに、痺れたわ。 指飛ばさなくて良かった。 「これでもまだ、まだ白を切るつもりか!」 五月蠅いな。 陳宮が私の腕を締め上げる。 痺れを切らしているのが分かる。 それを判断できるなら、私はまだいける。 絶対に、こいつらの言葉通りに従う訳にはいかない。 そんなことをしてしまったら、多分今後、私は同じ目に何度も合う。 同じように誰かに連れてかれて、黙るたびにこうなる。 きっと、こうなる…多分、確実に。 そういう世界、だと思う。 そんな訳にはいかない。 冗談じゃない。 何度もこんな目に遭うぐらいなら、この一回だけで終わらせてやるわ。 それに、こいつらに下手に協力して、曹操さん達の足引っ張るわけにもいかないのよ。 それだけは、絶対に。 譲れないの、それだけは。 裏切るような事だけは、したくない。 絶対に。 「だ、から…それ、が……勘違いでしょ。知らない、私は、何も…知らないっ」 「いい度胸ですな。ならば、ならば次の」 「陳宮、もういい」 陳宮の言葉を遮って、呂布が言う。 呂布がこちらに歩いてくる気配がする。 だけど、私は顔を上げる余裕がない。 急に腕を引っ張り上げられた。 強引に立たされる。 体格が良い、というだけではない、威圧感。 呂布が言った。 「俺は、まどろっこしいことが嫌いだ。小娘、俺に協力しろ。嫌とは言わせん」 くっそ〜。 小娘って、悪いけど私は小娘なんて年齢じゃないぞ。 それでもあんたの方が歳は上だと思うけど…! 「だからっ、私はさっきから何も知らないって、っっ!!!」 私はまた叫んだ。 喉が痛い。 だけど、叫ばずにはいられない。 こいつ、よくも私の負傷した指を握りこんでくれたわね…! そう思ったのも束の間、身体が浮いた、と思ったら私は勢いよく床に叩きつけられた。 首を片手で絞められる。 苦しい。 けど、かろうじて息は出来る。 痛いけど、どこが痛いんだろ。 「大人しく協力すれば、命だけは助けてやる。俺に協力しろ、その知識とやらを俺のために教えるんだ。俺の力、いや武を天下に知らしめてやるためにな」 「っ、だから、知らないものは、知らない!何も知らないのに、どうして協力が出来るっていうの!」 「たわけたことをぬかすな!陳宮はお前が話しているのを聞いたといっているのだぞ」 「だから、それが聞き間違えなんじゃないの!知らないものは、知らないんだから私は何もできない!」 「小娘…きさま…!!」 こいつを、どうにか言いくるめられたら、多分…いける。 怖気づいたらダメ。 そしたら、剥がされ損よ…! 考えろ、私! 窮地こそ、絶好のチャンスって言うじゃない。 いつだったか、まったく受注がなくなった時期に会社立ち直らせたことあるわ。 大丈夫、なんとかなる、きっと…。 できる、私なら。 自分信じなきゃ、絶対乗り越えられない。 「じゃ、じゃあ、逆に聞くけど、あなたは私がどこの出身か、知ってる?」 「そんなもの、知るか!」 「じゃあ、それを、あなたが今の私と同じ立場で聞かれて、答えられると思う?教えてよ!」 「っ……」 「答えられるわけないでしょ、知らないんだから!それと同じよ!知らないことをいくら責められて聞かれても、知らない以外答えられない!だから、いくら聞いても無駄よ、私は何も知らない!」 「りょ、呂布殿!その娘の、その娘の言葉に耳を傾けてはなりません!」 「黙っていろ!陳宮!!」 呂布が、私を見下ろして鋭く睨む。 背筋が凍る、今にでも抜け出したい。 助かるなら、協力する、と言ってしまいたい。 泣きたい。 だけど、それは絶対にしない! ここまできて、そんなこと。 ここで揺らいだら、意味がない。 何のために爪剥がされたのよ。 全部無駄になる。 鼻からゆっくり息を吸う。 口からゆっくり息を吐く。 自分を落ち着かせる。 私はただ、呂布の目を見た。 「小娘、言いたいことはそれだけか?」 来た。 向こうから話を聞きに来た。 これが一か八かの賭けよ。 耳を傾けたなら、絶対こいつのこの手を放させてやる。 世知辛い世の中で生きる現代人―営業兼クレーマー処理担当兼他多数―を、舐めないでよね。 命が残るかが分からないけど、多分、こいつを諦めさせるか、これが無駄だと思わせたら私の勝ちだわ。 絶対、勝つ。 「そうね…なら、聞いてくれる?私の話」 「呂布殿!」 「いいだろう、聞いてやる。陳宮、貴様は黙っていろ」 呂布は私から視線を外さない。 私は首にかかる手、その腕越しに呂布を見上げる。 ただ、まっすぐに見る。 現場で仕事をしていた時、チンピラみたいな隣人に絡まれたときのことを思い出した。 こいつは、チンピラの何十倍もやばいと思うけど。 私はなるべく落ち着いてゆっくり話すように努めた。 「あなたは、天下に自分の武を示したい、そう言ってましたよね」 「そうだ。俺の武に敵う奴など一人もいない。そのことを知らしめてやる」 「それならどうして、私なんかの知識をあてにするんですか?」 「なんだと?どういうことだ」 呂布の顔色が変わる。 私は、構わず続ける。 指が痛くて、熱い。 「あなたは今、俺の武に敵う奴など一人もいない、そうおっしゃいました。それが本当なら、わざわざ私の知識をあてにしなくても、天下に示すことは出来るんじゃないんですか?その武を。違いますか?」 「ふん、小賢しい真似を。俺を言いくるめようとしたって無駄だ」 「小賢しい?言いくるめる?私は本当のことを言っているだけです」 例え、まぐれだろうがなんだろうが、言い当てられたとしても、気にしない。 ここからが勝負よ。 乗ってこい。 「だって、そうでしょう?あなたは誰にも負けない武を持ってる。なら、その武だけでも十分天下に示すことは出来ますよね?なのに、あなたはそれをしない」 「っ…」 「それこそ小賢しくないですか?こんな小娘の小賢しい知識をあてにして、天下に武を示したところで、何の意味があるんです?あなたは、純粋に自分の力、武を天下に示したい。そう考えているんじゃないんですか?それなのに、知識や知略をあてにするなんて、それこそおかしな話です」 「っきさま…」 「例え、天下にその武を示せたとしても、結局その程度だったという証左にしかならないですよ。あなたがしたいことは、その程度のことなんですか?そんなことで本当に、その武を示せたと言えるんですか?」 言い終わってから間を置かず、私の背中に衝撃が走る。 呂布に投げ飛ばされていた。 壁に背中を打ちつけて、それから床に落ちる。 痛い。 もう何が痛いのか分からない。 いや、とっくにもう分からない。 ただ痛い。 息が苦しい。 指先が熱い。 でも、多分、勝った…。 「くだらん!いくぞ、陳宮!そんな小娘に用はない!!」 「呂布殿!なりません、なりませんぞ呂布殿!」 「陳宮。お前とは約束をした。お前が知略を練るのは一向に構わん。だが、その小娘はいけ好かん、故に、俺には不要だ」 「りょ、呂布殿…」 呂布と陳宮の話し声が聞こえる。 けど、今はそれどころじゃない。 苦しいし、痛い。 「小娘、命だけは助けてやる、俺の武を分からせるためにな。だが、これだけは覚えて置け。俺は小賢しいことは嫌いだ。次に小賢しい真似をすれば、命はないと思え」 呂布が何か言っている。 聞こえるけど、痛くてそれどころじゃない。 私は痛みをこらえるために、床を見ているのが精一杯だ。 涙が止まらない。 そんな私の視界に、呂布の足先が見えた。 見上げると、私の目の前、直ぐそこに呂布が立っている。 あご下から首の付け根辺りを掴まれて持ち上げられる。 苦しい。 ただ、苦しい。 「それから…こいつはいけ好かん貴様への、俺からの土産だ、とっておくがいい。そして心に刻め。これが俺、呂奉先の力だ」 それが言い終わるかしないうちに、私は床に伏した。 呂布に思い切り、腹を殴られた。 視界が暗転する。 何も、聞こえない。 何も、聞こえなかった。 * * * * * * * * * * 私は、意識を朦朧とさせながら目を覚ました。 床が目の前に見える。 投げだした右手を引き寄せようとして激痛が走り、思わず身を丸めた。 その瞬間、思い出す。 何があったか、を。 気持ちが悪い。 絶対、腹殴られたからだ。 右手の指先が痛い。 尋常じゃない、熱いし、じんじんする。 脈打ってるし、ともかく痛い。 見たくない。 けど、見ておかないと、どうなってるのか。 気は進まないけど、見とかないと。 私は恐る恐る、右手の先を見た。 それからすぐに目を逸らした。 「ああ…ほら…言わんこっちゃない…ひどい、ひどすぎる…痛い…ちゃんと生えてこなかったらどうしてくれるのよ」 私は呟いた。 そうでもしてないと、気を保てない。 それから、私はおなかや鳩尾の辺りをところどころ左手で強く押してみた。 気持ち悪いけど、これも確認しとかないといけない。 「…大丈夫、押しても痛みが強くなったりはしない。多分、内臓破裂とかはしてない、はず…してても困るけど…にしても、絶対あの二人許さない…末代まで呪ってやるわ」 私はため息を吐いた。 それからゆっくり身体を起こす。 壁に背中を預ける。 怠い。 背中全体に鈍い痛みがある。 打撲はしてる、かもしれない。 いや、してるだろう、確実に。 頭も痛い。 私はとりあえず、顔を左手で拭う。 汗まみれだし、なんかもうよく分かんないし。 とりあえず、少しはすっきりしたかな…。 それにしても、呂布から腹パンされて破裂無しで済んでるって、結構すごくない? 私の身体、どうなっちゃってんだ。 ちょっと、強靭すぎでしょ。 自分でも引くわ。 「あ!」 そこで、私はとても下らないことに気づく。 「そういえば、割とみんなヒゲ生えてないわ!この時代でヒゲ生えてないって…薄いにしても、無さすぎでしょ!どう考えてもそれは可笑しいわ。やっぱり、世界が違うんだわ…なんでそのことに早く気付かなかったんだろう!着てる服もおかしいし、時代考証ガン無視すぎよ」 私は天井を見上げた。 なんでか分からないけど、何か込み上げてくる。 泣きそうになる。 涙、出そう。 ただ天井を見つめた。 なんとか堪える。 けど、なにか他のこと考えなきゃ、何か。 「そういえば、彭城離れてから、どのぐらい経ってるんだろ…分かんないな……そうだ、陳宮が呂布を招き入れたってことは…」 私は三国志を思い出すことにした。 陳宮が呂布を招き入れたってことは、兗州の各地で謀反が起きたってことだよね。 確か、荀ケ、程c、夏侯惇のおかけで三か所を守れたんだっけ…。 えっと、なんて言ったかな…。 鄄城と東阿と…あともう一つ、なんだっけ。 他二県みたいな覚え方してたから曖昧だわ。 それは置いといて…その辺りは一緒、なわけないか…。 タイミング的に見ると、荀ケさんと夏侯惇さん、守備してないもんね。 どのぐらい経ってるのか分からないけど、私が彭城にいた時、あの二人は小沛にいた筈だ。 そうやって考えると、最初から守備してたっていうのは考えにくいわ。 やっぱ、なんか違うんだな。 でも、微妙に合ってる。 …とすると、正史に書いてあることが大方合っていると仮定して、曹操は呂布に負けて大火傷を負うはず。 しかも、青州兵も大打撃。 だけどそのあと、呂布は兵糧が尽きて、そのおかげで曹操は運よく帰ってこれるんだったよね。 そのあと、陶謙が死んで劉備が徐州に入って…それから確か翌年に、やっと兗州を全て奪還する、だったような気がする。 あれ、もしそこがあってたら…私いつまでここにいればいいんだ? 誰も来なくない? …嘘でしょ、それは困る。 ああ、でもきっと違うはずよ、そうに違いないわ。 中途半端に知ってるから、不安になるのよ。 けど、調べたくても手段がない! あーあ、携帯があったら文則さんとか伯寧さんに電話するんだけどな…。 そこまで考えると、私の頭の中には、二人があの格好で携帯いじっている姿が浮かぶ。 ついでに他の人たちの姿も…。 だ、だめだ! 私いま、すっごいくだらないこと考えた! や、やめよう、人を愚弄するようなことは、やめよう! ……そうよ、ていうか私、いま誰かが助けに来てくれる前提で考えてたけど…。 そもそも、私がいなくなっても、きっと曹操さんたちにしてみれば、痛くもかゆくもないよね。 助ける義理もないだろうし。 そもそも価値がないじゃん、助けるほど。 ああ、そうだった。 私には毛ほどの価値もないわ。 なに、助けてもらえるって勘違いしちゃってんだろ、私。 みんな結構心配してくれるから、普通に勘違いしちゃったわ。 一緒にいたから気にかけてくれてるんだよね、きっと。 目の前からいなくなったら、そもそも軍としては価値ないんだからわざわざ助けに来るわけないじゃん。 あーあ、甘いなー、そんな分けないじゃん。 ていうか、私がここにいるってこと知らない筈だわ、多分。 居ないことはさすがに気づいてるだろうけど…。 どっちにしろ、誰も来ないよ。 はあ…しょうがない、自分のことだ自分でなんとかするか。 人を当てにしたってダメよね。 最後は自分でなんとかしないと。 そもそも彭城で迂闊なことした私が悪かったんじゃない。 自業自得よ。 自分のケツぐらい自分で拭わなきゃね。 まあ、なんとかなるでしょ、きっと。 呂布前にして命があるんだから、大抵のことはきっとどうにかなるわ。 全ての運、使い果たしてる気はするけど。 そんな時、ふと何か騒がしいことに気づく。 私は、前方左手側にある窓に視線をやった。 何とか立ち上がって、よたよたしながら窓に近づく。 指が痛い。 気持ち悪い。 窓辺に屈んでから、外を窺う。 版築の塀が目に入る。 その塀の先から、槍先とか物騒なものの先が見えた。 「混戦中…?どうなってんの?」 私は、どうなっているのか確認しようと身体を少し伸ばした。 だけど、急に気分が悪くなって、思わずそこにしゃがみこむ。 ゆっくり身体を低くして、壁伝いに身体を落した。 壁に寄り掛かる。 あーあ、どうしよう、私。 そんなことを考えた時、誰かが私の名前を呼ぶ声がした。 聞き間違いかと思ったけど、それは段々と大きくなる。 この建物の中から聞こえる。 間違いなく、私の名前を呼んでる。 私は少し安心して、その場にへたり込んだまま、部屋の戸の方へ視線を向けた。 間もなく戸が開く。 そこから現れたのは、息を切らした李典さんだった。 つづく⇒ ぼやき(反転してください) なるべく色んな人と接触させようと思いましたが、収拾つかなくなったらごめんなさい わたしはシリアスを書きたいんだろうか…?← まあ、色々ぶちこめたらいいかな、とは思います しかし、ごめんなさい、痛い話で あと、陳宮がただのヘンタイ鬼畜野郎で、ごめんなさい ヒロインさんの記憶は戯家連載ほどは確認してないので、どっか間違ってたらごめんなさい その程度ぐらいでいいや、と思ってます 2018.04.08 ![]() |
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