結構おしつけがましいとは思ってる けど、多かれ少なかれ人って誰かに何かをおしつけて生きてるものじゃないのかな そんなこと気にしたって仕方ないから間違ってたら直せばそれでいいと思う 少なくとも何が起きても逃げない、と心に決められるのならば 人間万事塞翁馬 7 「あー、だめだ、稽古不足だ…」 私は、試し切りした時のことを思い出して顔を覆った。 絶賛反省会中の私です。 踏込みが甘かったなー、とかもうちょっと手の内のタイミングがなーとか、そんなところ。 あんまり試し切りの稽古はしないからな、やっぱ大事だな、そっちも。 昔はよく野良犬で試し切りしたって道場の先生が言ってたけど…流石に、私はそこまでは…。 まあ、練習にはなりそうだけど。 駄目でしょ、それは。 だめだわ。 「それはだめだー」 「何がだめなのだ」 「ひぃっ、び、びっくりした」 急に後ろから文則さんが声をかける。 また聞かれた…独り言。 独り言をなんとか封印しなくては…。 昔はこんなんじゃなかたったのにな……。 ところで、ここは、文則さんちです。 試し切り観覧会が終わった後、夏侯惇さんと夏侯淵さんに話しかけられてその場で話をしていたら…といっても、私は一方的に話されただけで相槌しか打ってないけど。 ともかく、話をしていたら、曹操さんが”郭嘉と満寵と話があるので、今日は于禁のところへ行け”って。 勝手が分からないから、従いますよ。 それで、今文則さんちに居ます。 私の道具と刀は一緒に持ってきました。 ああ、手入れ、どうしよう…。 「驚かせるつもりはなかったが…このとおり、詫びよう」 「いえ、こちらこそ、すみません…!えーと、何か御用ですか?」 人んちに上り込んでて、何か御用もなにも無いな、と私は自分に突っ込んだ。 文則さんは頭を上げると、何やら見覚えのある小さな木箱を私に差し出した。 「これが、何故かここにあったのだが、のものではないか?」 「これは…」 差し出されたものを見て私は今日何度目か知らないけど、びっくりした。 「刀の手入れ具!」 「やはりのものか。お返しする」 でもなんで…。 謎。 文則さんは、そのまま立ち上がって部屋を出ていこうとする。 慌てて呼び止めた。 「あ、あの、これが何か聞かないんですか?」 「…”刀の手入れ具”だろう?今口に出して言っていたが」 「…おお、そうでしたか…失敬」 何だか恥ずかしくなった。 多分、耳まで赤いと思う、熱い。 何やってんだか…。 「の邸ほどの快適さは見込めぬだろうが、出来る限りのことはしよう。今、湯の準備をさせている。もうしばらくしたら、侍女が呼びに来る故、ゆるりとせよ」 私は、文則さんにそう言われ、疑問に思い質問した。 「ん?こちらでも、お風呂…湯あみの習慣ってこの時間なんですか?」 私の足りない知識だと、確か昼間とかにするんじゃなかったっけ? あれ、違った?一日がかりぐらいの大仕事かとおもってたけど…。 因みに今はもう、日が沈みかけてる。 多分、あともう少しで真っ暗になるんじゃないかな。 「やはり、は多少こちらの知識があるのだな」 「いや、私の知ってるのとちょっと違うから、その知識があってるのかは分からないんですけど……ああ、でもとりあえず、多少はあるってことでいいかと」 「いやに遠回しだな。初めて会った折に私を咎めた者と同一人物とは思えぬ」 「…その説は失礼いたしました…」 「む、私は責めて言っているのではない」 「すみません」 口をついて出た言葉は結局それだった。 恐る恐る上目遣いに文則さんの顔を窺うと、眉根寄せて困ったような、呆れたような、そんな顔をしていた。 なんだろう、この入社一年目みたいなこの気持ち。 先輩はいいよって言ってくれてるんだけど、もう、なんかすみません、っていうあの気持ち。 ○年ぶりぐらいに思い出した。 「時間は特に定まっていない。基本、できるときにする、したいときにする」 そうなのかー、と思った。 そうなのか? …やっぱ何かちょっと違う気はする。 謎世界だな、ここは…。 「それよりも、こそこの時間で良いか?私が世話になった時は、もっと遅い時間だったが…食事の前でもあった故、どちらが良いのか迷ったが…」 私はその言葉を聞いて、ちょっと感動してしまった。 「そんなことに気を遣ってくれてたんですか?」 そういうの、すっごい不器用そう(失礼)なのに。 「主公に”常識”の例え話をしているときに、なるほどと思ったのだ。確かに習慣が違えばあらゆるものが違うのでは、と。それで、私が世話になった時のことを思い出し、考えてはみたが…やはり分からなかった。所詮、そういう事を考えるのは私には不向きなのだ」 「いいんです、そんなの。曹操さんに例え話で出したけど、昨日の私はそんなこと考えもしてなかった、それなのにこんなに気を遣っていただいて、ありがとうございます。素直に嬉しいです」 いいながら、私は笑った。 こういうのって人に伝わらないと意味がないよね。 建て前で言ってるわけでも、別に無理して笑ったわけでもなくて、本当に嬉しかったんだけど。 「ゆるりとされよ。何か不足があれば、人を呼ぶといい」 ふいっとそっぽを向いたかと思ったら、それだけ言い残して文則さんは部屋を出て行ってしまった。 …何か、私、気に障ること言ったかな。 いや、別にどう反応されてもいいんだけど…ちょっと予想してなかったぞ、これは。 ……あとで、謝って………いや、謝りすぎるのも問題だよね。 どうしよっかな…。 いや、あとで謝っとこう、そうしよう。 失礼したと思ったら素直に謝るの、これ大事。 私は意を決すると、他にすることもないのでここぞとばかり、刀の手入れを始めることにした。 なんせ、錆が一番怖いもの…。 ここって日本刀研げる人、いるのかな…。 私、包丁と大工道具ぐらいしか研げないぞ。 困ったわ…。 そんなことを考えていたが、手入れを始めたら集中し過ぎて全てが頭から抜けていった私であった。 * * * * * * ふーっと、息を吐き出した。 いい湯だなーっていいたいんだけど、侍女さんが待機してるのでそれができない。 いい湯だなー、ぐらい言いたい。 そして、風呂上りのビールがないのは寂しい…。 そう思いながら、私は背中を預けた。 風呂桶って本当に、すごくデカい桶ね。 これお湯入れるの大変だわ。 インフラ整ってないのに。 まあ、でもタライにお湯張って身体洗うだけ、よりよっぽどマシね。 お湯に浸かれるってのは至福だわ。 そんなことを考えて天井を見やる。 …ああー、これ夢じゃないよね。 何がどうなってんだ、と思うけど、夢じゃない…よね。 昨夜の文則さんも、おんなじこと思ったのかしら。 丁度その頃の自分を思い出して、こんな参っちゃった状態の人に、失礼なこと考えてたなー、とちょっと自分を責めた。 ごめん、文則さん。 けれど、もうそれは過ぎたこと。 昨日には戻れない。 なら、帰るまでの間に、どんな形でもいいからお詫びと今の感謝をこめて、できることからお返ししてこう。 そう心に決めた。 …その前に、帰れるのかな? もう、なんか望み薄だな、とか思ってはいるんだよね…。 「お湯加減は、いかがですか?」 侍女さんの声がする。 可愛らしい声してますなあ。 「ちょうどいいです、ありがとうございます」 「それは、よう御座いました。後でお身体をお流し致しますので、良きところでお声かけください」 私は、それを断わろうと思ったが、ふと思い至って質問した。 「…それはあなたの務めですか?」 「は?はい。主(あるじ)より失礼のなきよう、と仰せつかっております。わたくしたちに出来ることがございますれば、なんなりと御申しつけを」 んー、てなると下手に断ってこの人のお仕事奪うわけにもいかないかなぁ…。 別に構わないのに、頑なにいいって断られて仕事とられるの、結構くるんだよな…。 ま、私はだけど。 務めであることに代わりは無いし、ここは素直に受けとくか。 「お心遣い、感謝します。では、お言葉に甘えてお願いできますか?」 人に身体洗われるのって、アカスリぐらいしかしてもらったことないけど…。 あ、一緒か。 「はい、よろこんで。ご準備出来ております故、どうぞこちらへ」 そう言って侍女さんが、大きい布を広げ私が桶から降りる姿を隠してくれた。 おお、そういう気遣いね。 たしかに、それ必要。 流石に、恥ずかしいもの…相手は服着てるのに、私だけこの、これ…。 なんていったっけ、これ。 この薄い下着みたいなの、金太郎の前掛けみたいな…それ着てるからマッパじゃないけど、ほぼマッパ。 逆にエロいな、これ。 この透け感。 やべえわ。 金太郎エロいな。 あ、金太郎がエロいみたいになるな。 …ま、いいや。 お湯の張ったやたら大きいタライにつま先をたて膝立ちになる。 侍女さんが一言掛けて、背中をこすり始めた。 何で洗ってくれてるんだかよく分からないけど、気持ちいいわ。 力加減がちょうどいい。 「強いようでしたらおっしゃってください」 「ありがとう、ちょうどいい力加減です」 しまった、あまりに気持ち良くて”ありがとう”って言っちゃった。 ございます、付け忘れた…。 あー、でもまあいいや。 気持ち良くて眠くなってきちゃった…。 あ、だめだ寝ちゃうわ、これ。 * * * * * * ―――…ええ、反省してますとも。 まさか、旅館じゃない人んちで、人んちのお手伝いさんに身体洗ってもらって寝ちゃうなんて。 なんという失態…。 そんな私の目の前には今、見たことがあるような、無いようなそんな食べ物たちが並んでいます。 気を、引き締めないと…!! 「どうぞ、お召し上がりください。異国より参られたとお聞きしております故、果たしてお口に合いますかどうか…」 「ありがとうございます、どれも美味しそうです。早速いただきますね…いただきます」 私は手を合わせ少し頭を下げてから、改めて箸を手にした。 汁物があったので、まず先にそれから。 「おいしい」 羊肉スープかな。 味付け控えめだけど、これはこれでいけるわ。 「それは、ようございました。どうぞ、ごゆるりとお楽しみくださいませ。不便がございましたら御申しつけを」 「ありがとうございます」 「また、主より”今夜は警備の任にあり同席できぬがゆるりと休まれたし”との言伝を預かっております」 …文則さん夜警なのか。 大変だな…。 「わかりました、お心遣いに感謝いたします、とお伝えください」 「しかとお伝えいたします」 そう言って侍女さんは部屋から出て行った。 ”お伝え”しに行ったのかな? ま、なんでもいいか。 なんか他にも仕事があるんだろう。 そう思いながら、私はもくもくと食べすすめた。 ビール欲しいな、と思った時、そういえばふと、昨夜は久しぶりに誰かと家で食事をしたのだと思い出す。 広い部屋で食事をするのは珍しいことではなく、もうずっと慣れたことだったが、ただ久しぶりに、”広い部屋で一人で食事をする”ことが寂しいと感じた。 久しく忘れていた感覚に、自分でも気づかないほどの小さなため息を、私は一人、大きな部屋の真ん中で吐き出す。 部屋はしんと静まり返っていた。 つづく⇒ ぼやき(反転してください) すみません、いつもどおり割といい加減に話作ってます。 基本はゲームの世界設定で行きます。 今後無茶ぶりが爆発してくるので、生暖かい目で見守って下さい。 ムリな人はごめんなさい。 普通に戦います、ギャグっぽいけど、シリアスっぽいのが混ざったりするのでついていけなかったらすみません。 既についてこれない方にもすみません。 わたしでした。 2018.03.08 ![]() |
Top_Menu Muso_Menu
Copyright(C)2018 yuriwasabi All rights reserved.
designed by flower&clover photo by