何か話しとかないと、落ち着かない なんでもいいから声に出して話をする それが混乱し続ける頭を手っ取り早く冷静にする手段だと思うから 人間万事塞翁馬 5 「話は大方理解した。まあ、いささか不思議な事ではあるが、過去の張角の例がある…しかし、公明正大な于禁と満寵の二人が言うのであれば、本当なのであろう。何より、わしと郭嘉がこの目で忽然と姿を消す于禁を見ておることだしな」 「そうですね。正体不明の敵からの何らかの攻撃、ということも考えられなくもありませんが、とりあえず、現時点ではそれは薄いように思います」 私の目の前で…イケメン達が議論してる。 ナニコレ。 郭嘉?は? いや、反則でしょ、これ。 荀ケだって、は、え、駄目だ二人並ばれるとムリ。 何とかってアイドルグループの一員か、君らは。 それにしても私、絶対文則さんや伯寧さんと同じように、いきなり違う所に飛ばされでもしたら困る、って思ってたんだけど…。 案外、そっちはどうにでもなりそう。 寧ろ、この状況のが困る。 目の保養をとっくに通り過ぎてるわ。 良薬だって、飲み過ぎたら毒でしょ。 しかも、割と憧れ筆頭の曹操が目の前にいるって、何、なんなの。 理不尽なクレーマー対処を一人でやってた私への神からのプレゼントかしら。 神様、ありがとう! …じゃないわ。 そんな、浮かれてる場合じゃない。 色々突っ込みたいけど、なんかそれじゃない。 三国時代っぽいけど、絶対違うなこれ。 なんだ、年齢層ちょっとおかしいでしょ。 もっとなんかこう、あか抜けないおっさんたちがずわっと並んでる感じをイメージしてたんだけど…。 だめだ、ここなんか違う。 私が知ってるのと違う。 どうなってるの。 だめ、混乱するからここらでストップしよう。 「して、そなた…と言ったか。于禁と満寵を無事に返してくれたこと、まずは、礼を言おう。この二人は、我が軍になくてはならぬ者たちだ。しかし、代わりにそなた自身の戻り方が分からなくなったと…すまぬがしばし、この許昌で過ごしてくれ。出来得る限り早くそなたを元の場所へ帰せるよう、その方法を探そうぞ。ここで過ごす間は不便はさせぬ故、何か足りぬことがあれば遠慮なく、于禁若しくは満寵に申せ。よいな」 「あ、ありがとうございます。見ず知らずの私へのお気遣い、こちらこそ感謝いたします。ですが、ひとまず住む場所さえどうにかなれば、それ以上のお気遣いは無用です。みなさん、お忙しいでしょうから…」 とは言ってみたものの、ここの常識が分からないし…かと言って、かたっぱしに質問したって分からないことの方が多いよね…。 当たって砕けろ、かな…。 やだな、もう少し石橋叩いてたいな…。 「ふむ、客人は遠慮していると見える…が、それも致し方ないか。…まあ良い、少しずつ慣れるが良かろう。さて、話は変わるのだがな…」 頭の中でもんもんとしている私に、そう言って曹操が近づいてきた。 気配に気づいて顔を上げると、こちらをじっと見下ろす曹操。 「な、なんでしょう…か」 心の呟きがまたしても出てしまった…。 けど、答えは無い。 そのまま私を下から上まで舐めまわすように、やたら見られる。 横行ったり、後ろ行ったり、ぐるぐるしながら見られてる…。 な、なんなの…居心地が恐ろしく悪い…。 あんまりじろじろ見るのは気が引けるので、曹操を目で追いながら視界にうつる郭嘉や荀ケ、典韋、伯寧さんと文則さんの表情をそれとなく確認する。 …ほら、みんな呆れてるよ。 多分。 すると、気が済んだのか私の前に居直って腕を組んだ。 「改めて見ると、変わった衣服よな。なあ、荀ケそう思わぬか?」 「そうですね。私たちのものによく似ていますが、少し違うようにお見受けします」 …なんだ、服か。 何かと思っちゃった。 いや、何も期待はしてない。 けど、何事かって思うじゃない。 「満寵からの話だと、他にも変わったものが多いと聞く。なあ、よ。わしに話を聞かせてくれぬか、そなたの話がわしは聞きたい」 「へ?」 あ、変な声出しちゃった…。 「なんだ、嫌か?」 「いえ、嫌とかではなく…中々難しいことをおっしゃるな、と思いまして…」 「…ほう、難しい、とな?」 「はい。…ええと、そうですね……例えば、私からしたらここの常識は一切わかりません。曹操さん達には当たり前のことが、私には当たり前じゃないんです。同様に、私の住んでるところの常識は、曹操さん達にはわかりません。私には当たり前のことが、曹操さん達には当たり前じゃないからです。そこで、私が曹操さんに”ここの話をして下さい”と言ったとします。けれど、恐らくですが、”ここはどこどこのナントカという都市です。気候はこんなかんじで、特産物はこれこれです。さあ、他に質問はありますか?”程度のことぐらいしか、まずは話せないんじゃないかと思うんですよ。だって、きっと私が何を知らないか、見当もつかないでしょう?でも、曹操さんはこの例え話程度のことだけじゃなく、もっと他のことも聞きたいですよね?けれど、私には何が違うのかが分からないから、どこから話せばいいのか分からない。具体的な質問が無ければ、どこからどこまでを話したらいいのかも、私には分かりません」 「うむ、一理ある」 「それが難しいと思った第一の理由。それを踏まえた上で、ならば片っ端から話せば済むのでは、と考えることはできますけど…それもちょっと難しいですよね。あまり現実的とは思えません、それが難しいと思った第二の理由です」 「ふむ…なるほどな。それは確かに、難しい」 そう言って考え込む曹操さん。 あ、しまった話の流れで、普通に”曹操さん”って言っちゃった…。 …ま、いっか、もうやっちゃったし。 誰も怒らないから、いいや、とりあえず。 「ならば、。二日後、朝からわしの所へ来い」 「へぃ?」 あ〜〜、また変な受け答えを…! でもしょうがなでしょ、私に言ったの?ソレ? 「一日わしに付き合え。何かあるたび、そなたに質問することにしよう。さすれば、自ずと話もできようぞ。わしの父がここに着くまで、もう暫く時も要すことだしな」 そ、それはナイスな提案ですな…。 「返事がないぞ」 私はそろ〜っと、曹操さんの左肩の向こうにたまたま見えた伯寧さんへ視線を送った。 …どうすればいいですか……。 めっちゃ笑顔になった…。 受けろ、とそういうことね。 オーケイ、腹くくるわ。 「オーケイです」 「?」 「あ、いえ、分かりました、お受けします」 「よし、楽しみになってきたぞ。その前に、早速質問だ。その”おーけい”というのは承諾の意か?」 「そうです。すみません、うっかり出ました」 「うっかり?ふはははは、そうか、うっかりか!うむ、面白い。今後も是非とも、うっかりしてくれ!」 なんという事を言うんだ、この人は…。 私は項垂れるしかなかった。 クレーマーだから注意してね!っていうお客と話をするより疲れるわ。 はあ、っとため息を吐いたとき、後ろから声がした。 「主公!」 「ん?おう、文烈か、どうした」 そう言って曹操さんが顔をそちらに向けたので、私はつられて後ろを振り向いた。 文烈、って確かさ…。 「は、書庫に不審な木箱を発見いたしましたので、中身を検分しましたところ、このようなものが出てまいりましたが、私たちには判断できかねましたのでお持ちいたしました。いかがいたしましょう」 曹休ーー…!!? 振り向いてびっくりした、文烈って曹操さんがそう呼ぶんだから、曹休に間違いないけど、なんだ、このイケメン。 さっきからで、私何回イケメンって繰り返すの!? だめだー、現場でおっさんしか見てない私に、若いイケメンはメンタルが…。 いや、おっさんは褒め言葉だよ。 おっさんもいいよ。 けどさ、イケメンは、若いのは、反則でしょーー。 若いイケメンに耐性無いんだから、もうこれ以上やめて。 いや、イケメンなおっさんにも耐性はないよ。 うーわー。 「ほう、見せて見よ」 そう言って、曹休が合図を出すと、戸の影に居て見えなかった兵士が目の前まで出てきて”このようなもの”を三方みたいな物にのせ恭しく掲げた。 それを見た瞬間、私のパニックになっていた頭の中はいっきに収束へと向かった。 だって、それは…。 「あ!それ私の!」 「む?」 「え?」 曹操さんと曹休の声が見事に重なった。 同時に私の方に視線を向けたみたいだが、私はそんなことに気づかなくて指を指しながら、それに思わず近づいた。 「え?なんでこれがここにあるの?どうして??」 「主公…!」 「良い、文烈、気にするな」 「は」 二人の会話が聞こえるが、私には右から左へ流れるだけで、気にしている間もなかった。 だって、不思議でしょ。 傍に置いてなかったこれらが、どうしてここにあるんだろう。 私が履いた覚えもないのに、ブーツを履いてたのと同じなんだろうか。 でも、なんでブーツ。 二部だけど…着物なのに、…ブーツ。 ああ、でも今はブーツなんてどうだっていいの。 これ、私のよね、絶対。 「よ、それはまこと、そなたの物か?」 「はい、これは間違いなく、私の…私が作った…」 そう、私が作った道具箱と、床の間に置いてあった刀。 なぜか、刀は刀袋に入ってるみたいだけど…。 「ならば、こちらにきて皆に見せてくれぬか。まずは、そうよな…そちらの箱から」 視線を上げると、曹操さんが私を見下ろしてそう言ったので私は頷いて、道具箱と刀を手に部屋の真ん中あたりへ向かう曹操さんについて歩いた。 歩みが止まったので、私も歩みを止めて、そしてその場に両ひざをつく。 何となく周囲に気配が集まるのを感じながら、ちょっとドキドキする心臓を落ち着けるように、ゆっくりと呼吸をすることに努めた。 1割ぐらい、これが本当に私のもなのか、疑っているから。 道具箱をあけると、そこにはノミ袋と、三種のゲンノウ、そして小刀。 念のため、ノミ袋も皮紐をほどいて広げ、中を確かめる。 そこにはずらっと、大小さまざまなノミが並んでいた。 ああ、間違いなく、私の物だ。 「ほう、ノミ…か。は大工でもしておったのか?」 「いえ、大工というか…専門は設計です」 「へえ、そうだったのか。私と同じだね」 伯寧さんがそう言って、私の目の前にしゃがんだ。 い、いつのまに。 「でも、私は伯寧さんとは違って、兵器とか罠とかっていうのは…専門外ですし、城の設計もしたことありません…第一、私たちのところでは城建てるってことないですからね」 まあ、自宅を新築するのを俗に、自分の城を持つって言うけどさ。 意味が違うよ。 「そっかー、でも話が出来れば何か良い着想が生まれそうだよ。この道具も、私たちが使うのにすごく似てるけど、ちょっと違うしね。今度使い方を教えて欲しいな」 「中々に有益そうか?満寵」 「ええ、まだ分かりませんが、何か面白い考えが浮かぶかもしれません」 「それは良いことだ」 割と打算的な話をしてらっしゃいますね。 まあ、いいですよ、きっとそういう時代ですよね。 私の思ってた”時代”と、なんかちょっと違うみたいだけど…まあ、わかります。 「じゃあ、そっちのはなんですかい?」 典韋が指を指して問う。 私は典韋を一瞥してから、刀袋の紐を解いた。 「これは…これです」 袋から刀を出す。 2尺3寸5分の現代刀。 鍔は時代物の鉄鍔、桜の透かしが1か所入っている。 鞘は鯉口から三分の一ぐらいまでが石目塗、残りが呂色塗の黒い鞘。 藍色の下げ緒は浪人結びのままだった。 「それは、何か武具のようだけど」 郭嘉が呟く。 御名答ですよ。 「そうです、刀です」 「ああ、それは見たよ。の家に飾ってあったね。ねえ、于禁殿」 「ほう、まことか?于禁よ」 「はい、確かに飾ってあったものに相違ありません」 私は驚いてるよ。 まさか、伯寧さん一瞬通っただけでどうして覚えてるの、それを。 しかも、通ったって言ったって、縁側から客の間を通っただけで、床の間に通じる障子は確かに開いてたけど…中には入ってないのよ。 客の間からちらっと見えるぐらいなのよ。 …観察眼、どれだけ鋭いのよ。 文則さんだって、昨夜確かに床の間の前で話したけど、普通、覚えてるか? やだ、こわい。 下手なこと出来ないわ。 隠し事するにしても、なるべく少なくて済むように、基本はすぐにゲロっちゃおう。 そうしよう。 そんな事を考えながら、私は鞘から刀を抜いた。 すらりと刀身が輝いて、ああ、やっぱり綺麗だわ。 「すげぇ、なんですかい、こりゃ」 「おお、素晴らしいな」 「こんな刀(とう)、はじめて見ました」 典韋、曹操さん、曹休が間髪入れず、口々に言う。 私は鑑賞するときの体勢で、柄を両手でもって切先に視線をすべらせながら違うことを考えた。 手入れ具がないみたいだけど、どうしようか。 …と。 困ったな、と思っていると曹操さんの声が降ってくる。 「よ、それで何か切って見せてくれぬか?」 「え…」 思わず固まる私を尻目に曹休が声をあげる。 「主公!危険です!」 「良いではないか、文烈。おぬしには後でゆっくりと話すが、この者はわしの敵ではない…まあ、直感でもあるがな。それに、おぬしとてこれの切れ味、見てみたかろう?」 「…それは」 「決まりだな。、頼むぞ」 勝手に話を進める曹操さんに、私は右手でマテの形をつくった。 それを見て、意を解したのか曹操さんが、なんだというように、片眉を上げる。 「ごめんなさい、先に申し上げますと、私、生き物は切ったことが無いので生き物は切れません」 「ほう、ならば何なら切れるのだ?」 「竹でもあれば」 「竹…!?」 と、声を上げたのは曹休。 「こんな細身の刀(とう)で竹を切る、と?あなたが?」 「良いだろう、文烈、竹を準備させろ、至急だ」 「は、はい」 半信半疑の曹休に、曹操さんが声をかけると、曹休がすっ飛んで消えた。 ちょっと、忙しい人だなって思っちゃった。 それにしても、試し切りするのはいいけど、竹なんてすぐ用意できるの…? …あ、竹簡がまだポピュラーな頃だっけ? そこは一緒なのかな、私の知ってる”三国時代”と。 竹簡の材料か…。 成長してそうなの持ってきそうだな…。 2年以上のは下手すると失敗するかもな…。 いやだな、ちゃんと斬れなかったら。 あと、斬ったあと手入れどうしよう…。 私は見当違いな不安を抱きながら、展開に身を任せることにした。 面倒なことになんなきゃいいなー、と天井を仰いで。 つづく⇒ ぼやき(反転してください) わたしでも竹は切れるので竹って無双武将なら簡単な気がするけど… 他に思い浮かばなかったので、そういうことにしてください(どういうこと ひとまず、ヒロインの性格が掴みづらくて、ごめんなさい 考えて無いようで考えてるけど、考えて無いです← 因みに、無銘です 2018.03.01 ![]() |
Top_Menu Muso_Menu
Copyright(C)2018 yuriwasabi All rights reserved.
designed by flower&clover photo by