起きたまま夢って見れるもんなの? ここまで騙されてるか見当もつかないなんて、久しぶりだわ 人間万事塞翁馬 2 あれから、40分弱ぐらいかな。 床の間で話をひととおり聞いた。 まず手始めに電気をつけたら、めっちゃびっくりして不思議そうに照明を凝視する渋いイケメン。 イケメンのおじさ…ん?ともかく、おにいさん、ではないことはたしか。 しかも背がやたら高い。 おまけに、恰好が不審。 照明見ながら面妖な、って言ってたけど、私からしたらよっぽどアナタの方が面妖だったわ。 名前は于禁、字は文則ですって。 何、三国志じゃん。 私が三国志好きって知ってて侵入したのか、この侵入者。 やだ、こわい。 って思ったんだけど、話聞いてたら、なんか違う。 曰く、許昌の宮城にある曹操の執務室に呼ばれ、その部屋の戸をあけて一歩踏み込んだらここにいた、らしい。 嘘だろ、と思ったけど…嘘つくならもっとマシな嘘つくよね。 そんな嘘ついても誰も得しないし、第一、自分変人ですって公言するようなものだもの。 そんなモノ好き、変質者ぐらいしかいないわ。 何となく嘘を言っているようにも見えなかったので、7割ぐらいはその話を信じることにした。 けれども、作り話っていう可能性も否定はできないので、2割は否定も肯定もせず、1割は否定で判断できるようにする。 確定的でない物事は、多角的に見れるようにしておくことが大事だと思うから。 自分の目で確かめるまでは、良い悪い、嘘本当の判断はしない。 予想していたことと全く結果が違った時、テンパるのを極力防ぐためよ。 話、元に戻して…。 そんな訳で、急に部屋が変わったから張角が使ったような謎の技?を使われたんじゃないか、と思っているみたい。 もし、そうだとしたら曹操の身が心配だ、とそういう話らしい。 で、そこに現れた私がその謎技の主かと思ってたらしいけど、それにしても余りに無防備…というか、何か空気感が違うだかなんだかで、ちょっと違うのかもしれない、と思い始めているらしい。 …そんなとこかしら。 さて、ひととおり聞いたけど、今のところ私に出来ることってなんでしょうね。 そもそも張角が謎の技を使うっていうのは、何、今でいう手品みたいなものなの? ちょっと理解できない。 そもそも、パッと場面が変わるっていうか、所謂瞬間移動的な?それを”謎の技”で片づけられるぐらい張角って超人なのかしら。 だめ、理解できない。 ともあれ、こちらをじっと凝視してくる視線が痛いので、とりあえず思考と会話するのはやめにしときましょう。 「オーケイ、あなたの話はひととおり分かりました。理解しにくいところもあるけど、今はそれは仕方ないと思うから、無理に理解しようとするのはやめておくわ。とりあえず、私の自己紹介から。私は、字はありません。というより、この世の中では字をつける習慣がありません。ここは私の家で、そして多分、ここはあなたの時代から大体1800年ぐらい先の時代です」 眉間すっごい皺寄せて驚いてる。 そりゃ驚くと思うわ。 私も驚くもの。 でも、とりあえず睨まれてるみたいでこわいわ。 「それから、ここは河北でも中原でもなく、四方を海に囲まれた島国です。それを踏まえた上で、ご質問、どうぞ」 「…帰る手立てはないものだろうか」 「そうね、それ答えられたら私も苦労しないです。それよりも、私のさっきの説明は信じられるんですか?」 「自分の身に起きていることを考えれば、信じざるを得まい。それに今は殿の言葉を信じる以外に、この局面を打開できぬ、そう私は思っている」 言いながら照明を見上げた。 そうですか、この局面、ね…。 私はあなたの言葉を信じても、打開できる気はしないけど。 …それにしたって、顔の割に意外と素直なのね、と思ったことは口に出さないでおこう。 しかし、どうしたものだろう。 視線を落したっきり黙りこくっちゃった…難しい顔して。 そして、私も困ったわ。 放り出すのは簡単だけど…だけど…ああ、どうしよう。 明日が休日で本当に良かった。 今日多分、寝れないわ、私。 「えーと、とりあえず、一晩ここに泊まってみるのはどうですか?一度ゆっくり休んだ方が、何か思いつくかも…」 あー、私何言ってんだろうー。 なんか、声掛けようか…ってもう少し他に何かあるんじゃない? これじゃお人よしすぎっていうか、なんていうか、通り越して危険でしょ。 馬鹿だー。 「いや、しかし先ほどの無礼に重ね、見ず知らずの私が…」 ええい、もう、なんとでもなれ。 「話が本当なら、行くところ無いですよね?仮に出ていくにしても、もう遅い時間ですし、今日一晩ぐらいここでゆっくりしていったら如何ですか?この家に移動したっていう事なら、もしかしたらこの家のどこかに帰る手がかりが転がってるかもしれないですし、案外目が覚めたら戻ってる、なんてこともあるかもしれませんし」 我ながら、そんなことあるかな、と思う。 が、今はそれ以外言葉は見つからない。 むしろ、目が覚めたら戻っていていただきたい。 私こそ、これが夢だと信じたい。 何か考えているのだと思う。 畳の一点を見つめて難しい顔をしている。 私はそろそろ、お風呂入ってビール飲みたい。 お腹空いた。 「ならば、お言葉に甘え一晩だけ宿をお借りする」 「決まりですね、それじゃ先にお風呂入ってきてください、着替えは、と」 決まったら即行動。 私の中ではもう次に何をするか既に決まってる。 とりあえず、風呂に入ってもらう、着替えはじいちゃんの箪笥漁る、夕飯食べてもらって、そして寝る。 これで間違いない。 ひとまず、休もう。 箪笥を漁って出てきた寝巻用の浴衣は身体の大きかったじいちゃんのおかげで、Lサイズだが、きっとこの人はLLサイズじゃないとつんつるてんだろうな…。 仕方ないよね、我慢して貰おう。 若干、おいてけぼり食らっている于禁を連れて私は足早に、風呂場へ向かった。 * * * * * * * * * 水やお湯の出し方やら、ともかく風呂に入ってする事のあらゆる説明を終え、洗濯できるもんはドラム洗濯機に突っ込んで乾燥までボタンをおしてきた。 …縮むような素材じゃなかったと思う。 そんな少しの不安を抱きつつ、私は台所に向かう。 冷蔵庫を漁ると、大して何も食材が無かった。 買い物は日曜と決めていて、自分一人しかいないから、土曜の夜には最低限のものしか残らない。 幸い、遺産の田んぼで米を外注して作っているおかげで、米は売るほどある。 庭の片隅に鶏小屋があるので、卵もある。 庭の端っこで大きくはないが家庭菜園しているので少しの葉野菜と玉ねぎ、ニンジン、じゃがいもは、ストックされてるか…。 結果、行きついたのはオムライスだった。 あと汁物とサラダでも作ればいいでしょ。 常備菜で、漬物と煮豆作ってあるし充分じゃない? これ以外はビールしかない。 あと焼酎と日本酒。 夏は冷酒、冬はお湯割りがいいよね。 そんなことを考えながら、野菜の下ごしらえをしていると茶の間の方から声がした。 「先ほどは世話をかけた。着替えまで準備していただき感謝いたす」 そちらを振り向いた瞬間、私はこれでもかと、表情筋が動くのをこらえた。 ごめん、本当につんつるだった。 ごめん、マジごめん。 今度LLサイズも、もしもの時のために箪笥に入れておくね。 心の中で呪文のように唱えて、必死に平静を装ったわ。 間違いなく、今日の最大の試練よ。 「気にしなくていいですよ。そこ、適当に座っててください」 それだけなんとか言った。 フライパンを取るフリして背を向けた瞬間に口元抑えたのは言うまでもない。 顔がにやける。 礼の言葉を背中で聞きながら、今の所の準備完了を指さし確認。 サラダはオッケー。 漬物は食べる直前に、糠床から出して切る。 煮豆は小鉢に盛った。 卵は溶いた。 あとはフライパンで作るのみ。 勿論こんな指さし確認、自分を落ち着かせるために決まってるでしょ。 なんとか落ち着いた頃ところで、料理開始。 不思議そうにこちらを見ているので、近くで見たかったらどうぞ、と言わなきゃいいのに言ってしまった。 …あー、本当、馬鹿だー。 つづく⇒ ぼやき(反転してください) 無双于禁はずっと警戒してそうなイメージですが… それだと話が進まないので、大目に見てください 全体的に、皆さん人が良い感じなっちゃってます 個人的にオフが世知辛過ぎるので、夢見させてください ごめんなさい 2018.02.27 ![]() |
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