戯家の愚人 ―  戯 レ ―













青い空の中で白く棚引く薄い雲。
風が通り抜けて北からの冷気が体にぶつかる。

足下に広がるのは白い道。
陽の照り返しが眩しい。
は今直ぐにでもこの場で頭を抱えたかった。
その証拠に、眉間にはあらん限りの谷が刻まれている。

この、人通りの何もない細い道。
周りを見渡せば、雪に埋もれた農地だけが広がり、ところどころに木が生えているのが見える。

通常ならそれで終わりなのだ。
そこにただ自分だけが歩いている、それで終わるはずなのだ。
であるのに…

後ろをちらりと見やると、庶民風の質素な衣服に身を包み(しかし生地はさり気に上物である)、隠れもせずに後をついてくる曹操がいた。
しかも、共を付けずに、だ。
その顔には笑みすら浮かべている。
あたかも散歩をしているようだ。

顔を正面に戻しながら溜息をつく。
待っていたかのように、再び冷たい風が通り抜けた。
――話は(ひる)を迎える一刻前にまで遡る。

実に一年ぶりに訪れた行きつけの酒家(みせ)で、戯は何とはなしに酒を飲んでいた。

厨房に面する一方以外、三方全てが開けっ広げになった、周りに軒を重ねる酒家の中では小さな酒家(みせ)
大通りを正面に、左手には裏路地への入り口が、右手には大通りほど大きくはない通りが通っている。
大きな庇だけがその領域を表し、その軒下に2,30席ほどが並んでいた。
ともすれば、ほとんどが相席になってしまう程、机の数は少ない。

そんなこじんまりとした酒家(みせ)の、壁を背にした隅の席につき、左手側にある厨房から出てくる店主(オヤジ)に新たに酒と肴を注文したときだ。
同じ列の最後尾にあたる席に新しく入ってきた客が顔は見えなかったが腰を下ろしたのを確認した。
何処から見ても相席のようだ。
その時は別に、ただ、新しく男が入ってきた、ぐらいでしか捉えていなかった。
当然といえば当然である。
凡そ、自分と関わりなどあろう筈がないのだから(あっても気にはしないが、ただ一人を除いて)
だから、店主(オヤジ)が持ってきた酒を注ぎながら先程まで視線をやっていた方向に再びそれを戻したのである。
焼猪(ヤキブタ)を口にしながら酒を飲む。
それが何度目か何十度目か兎も角、暫く経った後、何ともいえない視線を感じたのだ。
そう、所謂常から投げかけられている、

『あそこに(ばか)がいるぞ』

という蔑みやら何やらの視線ではない別のものをだ。
それは先程、相席で座った男のいる方からだった。
どうやら、先程の男、結構人好きがいいのか相席の男共と共に飲んでいるようでそちらから一層賑やかな声が聞こえる。
そんな奴らの席から一体誰が自分に訳の分からない視線を投げかけるのかとそちらを見やった。

そこで目に入ったのは…
―――満面の笑みでこちらを見ている曹孟徳、その人だった…

ありえない。
ありえない、が今目の前にしている。

口に運ばれる筈だった耳杯を手にしたまま静止、開いた口は塞がらなかった。
そんな戯を尻目に、曹操は尚、手を振って見せた。
ある意味これは、泣く子も黙るのではなかろうか。

はっと意識を戻した戯は、持っていた杯を引き、その空になった杯に残りの酒を全て注ぐと、再び一気に呷った。
そして、徐に立ち上がり机の上に代金を置いて、店主(オヤジ)に一言残し酒家(みせ)を後にする。
二日前に自分の感情を乱した当事者を二度と目に入れない為に。
そう思って酒家(みせ)を出てきたのに、矢張り背後から視線を感じる。
今度はあからさまに好奇の視線だ。
何処に行こうものかと、イラつきながら考える。

何故、自分に付き纏うのか?
そんな事はこの際どうでも良かった。

兎にも角にも、面倒事は起こさずに,、何とかして撒いてやろう。
しかし、そう思っているときに限って、面倒事というのは起こるわけで。

考え事をしながら歩いていた戯烈の行く手を阻むように3人の男が立ちふさがる。
見るからにならず者といった感じだ。
ふと顔を上げれば、正面にいた頭らしき男が口を開く。



「久しぶりだなぁ、愚元気だったか?あぁ?」

「誰だ、貴様」



そう戯が応えると、その男の額に青筋が浮いた。
道行く通行人は、我関らず、といった風にその4人を遠巻きにして足を速める。



「てめぇ、この俺を忘れたとでも」
「忘れた」



言葉を遮っての即答に、益々その青筋が濃くなる。
両脇にいた彼の連れは始終、戯を睨み付けていた。

一方、酒家からずっと、後をつけていた曹操は遠目からそれを観察しているわけで。
その、外されることのない視線に戯のイラつきがおさまることはない。
正面の男に向かって吐き捨てるように言う。



「今、私は虫の居所が悪い、怪我する前にそこを退け」

「んだとぉ?」

「そこを退けと言ったんだ、言葉が理解できないのか?憐れな奴だな、もう一回言ってやる。今なら無傷で返してやるから、さっさとそこを退け」



いつのまにか周りには遠巻きに人だかりが出来ている。
男の顔は真っ赤になっていた。



「この(アマ)ぁ!!一年前に受けた傷の分と合わせて落とし前つけてやるぜ!!覚悟しろ!!!!」



言って、その男が飛び掛ってくる。
両脇にいた男たちも同様だ。

はそんな男共を憎らしく思いながら、正面の男が繰り出す右拳から身をかわす。
そして、その拳を左手で掴むと右手で上腕を下から掴み、そのまま男の勢いを利用して投げ飛ばした。
所謂、一本背負いだ。
勢いのまま地面に叩きつけられた男は溜まらず呻き声を出し気を失った。

後ろを振り返り、残りの二人を見据える。
それを見た二人は一瞬怖気付いたが、向って左側の男が叫んで突っ込んでくると、それに倣って右側にいた男も叫びながら突っ込んできた。
凄い剣幕であったが、なりふり構わずといった感じだ。

だが、戯がそんな二人に動じるわけもなく、瞬時に左側の男の懐に自ら入ると右の肘鉄を鳩尾に深く入れ、流れるようにしてその顔面に裏拳をぶち込む。
そして、すかさず背後となった右の男の繰り出す右拳を左によけつつ、振り向く勢いを利用して左足からの回し蹴りを顔面に入れる。
息をつく間もないまま、今度はその勢いを殺すことなく足を振り上げ男の左肩の付け根、首に最も近い部分に踵落しをお見舞いした。

あっという間に、地面に3人の男が沈んだ。
周りの野次馬は出す言葉もなく。
はただ、その3人を見下すと一層眉間に皺を寄せてその場を立ち去った。
無論、その一部始終を見ていた曹操は後を追う。
当たり前のことながら、戯は曹操も一緒に動き始めたことを感知していた。



『実に面白い』



そう曹操が思っていることは誰も知らないことではあるが、何となく戯には今、曹孟徳という男が物凄く愉しそうな瞳で後を追ってきているのではないかと思えてならなかった。
(それは当たっているのだが)
そう思うと、益々気が重くなる一方で。
…そんなこんな、今現在に至っていた―――

道の脇を歩きながら、目の前に雪を乗せた木が見えて暫く、戯はくるりと後ろを振り向いた。
気づいて、曹操も戯から10尺程離れた所で足を止める。



「何時までついて来るつもりだ。司空であるならば、相応に忙しい身ではないのか?」

「案ずるな、有能な”夏侯将軍”に委任してきた。俺にとってこちらの方が重要だからな」

「それでは何時までという問いの答えになっていない」



それだけ言うと、曹操は一瞬考えるような仕草をした後、顎に手をあてたまま答えた。



「そうだな、そなたと話が終わるまで、だな」

「……!」



僅かに眉をひそめる。



「…何故だ?何故お前は私にそこまで構う。志才の遺言だけが理由ではないだろう」



ただじっと見つめる戯に曹操が言う。



「知りたいのか?」

「……」

だからだ」

「また訳の分からないことを」



即答するが、すかさず曹操も応える。




だからここまでするのだ。初めてお前の()を見たとき、手に入れねばと思った。俺の全てがを欲した、お前の瞳の奥のずっと奥にある光を欲したのだ」



こちらを強烈な光で見てくる曹操に見返しながら戯が言う。



「それはつまり、私ではなくその中にある才が欲しいという意味だろう。才のみが欲しいというのなら、私ではなくともそれ以上の者たちがいる筈だ。まあ、実際その才とやらが私には何なのか全く理解できないが」



曹操はただ受身になりながら、しかし己の言わんとすることを戯に伝えた。



「言った筈だ、光が欲しいと、真の戯が欲しいと。確かに、その才も欲しいがな。…だが、その才を輝かせているのはお前自身なのだぞ。という個が人生(みち)往く過程で生み出したものを輝かせしめているのだ、お前という存在が無ければその才は輝くことなどできまい。という存在が在って初めてそこに才が存在するのだ。才はを生み出すことなどできない。地という存在が在って初めてその空間に”空”が存在するように、空が地上を生み出せぬようにな。ここまで言っても分からぬか?」

「分からないね、それでも何故私を欲しがるのかが」



それを聞くと、曹操は顎に再び手をやると言った。



「これだけ言っても分かって貰えぬか、そうなるとこれ以上は、理屈で説明ができぬな…。…そうだな、は人を好くのに理屈で考えてから好きになるか?それと同じよ。俺は才華のことを好いているのだ」



笑みを浮かべて言う。



「…っな、戯言を!」

「戯れで言っているのではない。久しぶりに恋をしている気分だぞ」

「き、気持ちの悪いことを言うな!!」



満面の笑みで言って見せたのだが、弾かれるようにして叫ばれた戯の言葉に、結構傷つくぞと、曹操がしょげてみせる。
はそんな曹操に構うこともできず(構う気もないが)、僅かに心を落ち着かせてもう一つの疑問を口にした。



「っ・・・それで、貴様は私を仕官させて見返りに一体、何を望む。仕官、仕官というのだから何かを望んでいるのだろう?まさか、”隗より始める”つもりか?止めておけ、自分の軍門に、ひいては王室に泥を塗るだけだぞ」



だから諦めろと目で訴える。
ほう、と感心したように曹操が小さく感嘆した。



「まさか、そなたからそんな言葉が出てこようとはな。だが、それは違う。最初からそんな事は目当てではない。俺は、そなたが今一番欲しているものを与えてやろうといっているのだ。俺の下に来る換わりにな」



「私が今、一番欲しているものだと?」



眉根を寄せて言う。



「そうだ」

「私が仕官したいと思っていると?。それが一番私が欲していることだと?的外れな」



嘲るように応える。
だが、曹操は尚も戯の痛いところをつきながら言った。



「的外れではないはずだ。そなたはその光を与え続け磨き続けている才を最高最適な場所で活かしたいと思っている筈、いや、それ以上のものを望んでいる筈だ。そうでもなければその戦国策、どこで活かすのだ?他にもその頭には詰まっているのだろう?幼き頃は頭が切れたと聞いているぞ。それこそ、神童と呼ばれるほどにな。今もそう変わるまい、いや、それ以上か。まぁ、そなたは上手く隠しているようだがな」

「…っ、志才から、聞いたのか?」



予想外の言葉に思わず声を上げれば、これまた予想外の答えが返る。



「いや、調べた。抜かりなくな」

「………」

「怖いか?人に裏切られるのが」



動揺し続ける自分の心を奮い立たせながら、目を逸らしては駄目だと曹操をねめつける。
しかし、曹操は尚も言葉を続けた。
はそれに応える。



「…何故、気にもしていない奴らに裏切られるのが怖いのだ。付き合う相手がいなければ意味のないことだ」

「それが、本心か」



にやりと口端をあげて曹操が言った。



「…、…」

「そうやって人から逃げ、自分の抱いた夢からも逃げ、だが捨てきれずに他人に押し付けて尚、逃げ続けるのか?甘いぞ、



的確に突いてくるそれは、いっそこの曹操と言う男の読心術がそれほどまでに長けていると確証たらしめるものだった。
完璧に隠すことなど出来はしない。
一度崩れれば、どんどん崩れていく。
石積みの山が崩れるように。



「に、逃げて、など‥」

「逃げているだろう、顔を背け、背を向け逃げている。信じろ、逃げずに俺の下へ来い。お前に最高の場を与えてやる、この世に二つとない場だ。お前の望むものを全て与えてやる、信じて来い俺の下へ。絶対に裏切らぬと保障された俺の下へ」



曹操が手を差し伸べる。



「何を、何を信じろと?保障されている?口先だけなら何とでもいえる。何が保障されているという?何を、信じろと…いうのだ」



震える声で返す戯を曹操は見つめる。
そして、徐に懐から護身用の短刀を出した。
静かに、鞘から抜く。

顔を上げた戯はその行為に驚いて目を見開く。
そして更に、目を見開いた。

数滴、白い雪の上に鮮紅が落ちる。
曹操の、左腕の内側に引かれた真一文字の傷が赤を垂れ流していた。
今度はその手が差し伸べた。



「この傷と血に誓おう、を裏切らぬと」

「な、な…」



なぜ、そこまでして…!



一種の緊張からか、呼吸の回数が増える。
それを見つめる曹操が、戯に言う。



「信じよ」



尚、小刻みにしかしゆっくりと首を横に振っていた戯だったが、その言葉を聞くと反射的に踵を返して走り出した。



「………っ」



それを逃がすまいと曹操が追い、数歩至らぬうちにいとも容易く戯の手首を掴む。
そして思いっきりそれを引いて正面を向かせると、再びその手首を掴み揚げた。



「放せ!」

「まだお前は逃げるというのか」



言って道端に生える木の幹に押しやった。
の手首を掴んだまま、曹操は己の手をその顔の横につくと逃げ道を塞ぐ。
は自分の顔の真横につかれた曹操の、腕から流れる血を見て身を強張らせた。



「逃げるな。逃げていてはお前の成したいことなど何時まで経っても成せぬぞ」

「黙れ!知ったような口を…」



ただお互いに睨み合う。
自分の言葉を理解させるために。
相手の言葉を撥ね付けるために。

しかし、長い沈黙に見えたそれは、曹操によって破かれた。
意外にも、それは呆れたような笑みによって。
曹操が言う。



「全く、…そなたというヤツはいやに頑なだな
 いっそ清々しいぐらいだ」



は動かない。



「今日のところは俺が引き下がろう」



いや、今日もか?と軽口を叩く曹操。
それまでの空気はどこへやら。
漸く戯が口を開く。



「腕を退けろ」

「それは、この後の話が済んでからだ」



まだあるのか、と小さく呟く。
だが、兎も角、疲れきりこの場から一刻でも早く立ち去りたい戯は大人しく話を聞く体制に入る。



「明後日までに長平(ここ)を経ち、許の、そなたの兄が使っていた邸へ移住せよ」



あぁ、間違いだったと思ったのは遅い。
それに、どっちにしろ聞かされるものであったと思う。

だが、それを受け入れるか否かは別の話で。



「そんなこと、受け入れられるわけが」
「受け入れぬのなら兵を派遣させるぞ」

「…!」



みなまで言わせずに口を挟む。



「”情け”をせぬ代わりにこれぐらいはさせよ。でなければ、そなたの兄に面目が立たぬ」



そう言う曹操の表情は穏やかなものだった。
戯志才への思いを計り知れるぐらいに。
いっそ心奪われるぐらいに。



「……わかった、それは飲もう。だが、運ぶ物がない訳ではない、明後日までなどと」
「そこは抜かりなく、こちらの兵が運び出す手筈になっている」



そこまで言われて、寸分前の事を訂正したくなった。



「そなたは身一つで来ればよい」



笑っている曹操を睨み付ける。
そんなことをしても、笑みが解けることはないが。



「話はこれで終わりだな。いい加減、解放しろ」

「いや、まだまだ」



ここからが本題、とにんまりする曹操から回避する手立ては全くなかった。



「俺が血に誓いを立てたというのにこのまま終わってはかなわないからな、今この場でひとつに約束してもらうぞ」

「私が頼んだわけではない」

「冷たいことを申すな」



そう言いつつ、戯に言葉を言わせる間もなく続ける。



「許に来たら俺の所へ来い、無論仕官しろいう意味ではないぞ。そなたの武力が如何程か知りたいのだ。それで、もしが勝てば俺はもう何も言わん、ただし、主が負ければ」
「断固、仕官はしない」



わかっている、そう言って一回咳払いをする。



「俺の言うことを一つ何でも聞いてもらう、無論仕官以外の、だ」



どうだ?と言う曹操の瞳には、裏腹に否とは言わせないと言う光が宿っている。
が抗議しようと口を開けば、曹操がそれより早く続けた。



「もし、否と言ったり逃げたりすれば兵を放ち、繋ぐ。その位の世の情報操作は容易い事だ、知っているだろう」



怪しい光を放つ曹操の瞳に、最早逃げることなどできよう筈もなく。
はただ「同意(わかった)」としか言えなかった。



しかし、兄に面目が立たないのではなかったのか…
そう思ったが、それでもきっとこの男は実行するだろうと思い、飲み込んだ。
満足したらしい曹操はその顔に笑みを浮かべる。



「では、明日以降を楽しみにしていよう」



そんな曹操が憎らしくて、戯は手首が放されたと同時にその場から去るべく歩き出した。

…のだが、再び2、3歩行かないところで曹操に手首をつかまれ正面を向かされる。



「っ!、今度は何だ!もう話は済んだんじゃなかったのか!」

「いや、ひとついい忘れたことがあった」



そう言う曹操の表情は何かを企んでいそうな笑みを浮かべていて。



「何だ!」



と声をあげればのうのうと続ける。



「今この時になるまで、距離をおいてそなたを見ていたから余り気づかなかったが…、そなた、間近でよーく顔を見ると」



そこまで区切ると、すっと、戯の耳元近くまで顔を寄せて囁いた。



「結構、美人だぞ」



一瞬心臓が跳ね上がったのが分かった。
いや、寧ろ止まったんじゃないか。

そんなことは、今の今まで言われたことなどなく(当たり前なのだが)
おまけに、人をここまで接近させたこともなければ、耳元で話されたこともないわけで。
訳も分からず跳ね上がった心臓を落ち着かせるように、戯は、



「気色の悪いことを言うな!!」



と精一杯叫んで、右の平手を飛ばすぐらいしかできなかった。
ただ、その攻撃はさらっと避けられてしまったのだが。
は、兎も角、踵を返して走った。
遠く後ろの方で曹操の声が聞こえる。



「今日は愉しませてもらったぞ」



だが、既に幾ばくかの距離を走ってしまった戯には、もう何を言ってるのか分からなかった。
切る風もぶつかる風も今はその冷たさが心地よかった。
青い空も白い道も心地よかった。
ただ自分の収拾のつかなくなった心だけが居心地悪いものだった。

そんな戯が家に帰り、曹操の命によって駿馬一頭を引いてきた兵とその言伝を聞いて、本当に抜かりがない、と思うのは日の入り近くになっての話。

澄んだ空の星を見ながら戯は膝を抱える。
今日一日の余りに膨大で急展開過ぎた事を思い出しながら、いてもたっても居られなくて膝を抱えている腕の中に顔をうずめ目を瞑った。



「どうすればいいか、わからない。何もかも、わからない」



うずめたまま目を開く。



「だけど…」



揺らぐ言葉。



「兄さん」



今、唯一心を許せる故人(ひと)への告白。



「(私は)」



ひとつの小さくも大きな諦め。



曹孟徳(あのひと)には敵わない」



「…敵うわけない」



満ちぬ月を見上げて呟く。
ぱたりと、再び顔をうずめた。














つづく⇒



ぼやき(反転してください)


取り急ぎ、デザインだけ統一しとこうと思いました…
黒歴史的な恥ずかしさ半分と、懐かしさ半分…ですかね

2007.11.11 初
2019.01.16 デザイン修正



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