稍寒 「おはようございます、荀攸さん。お早いんですね」 宮城の正門を目前に、声を掛けられ振り向く。 殿が歩み寄りながら笑みを浮かべていた。 彼女が登城するようになって間もない。 俺に、早い、と言うがそれは彼女もそうだと思う。 「殿、おはようございます。いつも、この時分に登城なさっているのですか?」 「はい。中々皆さんのようにはいかなくて…勤務時間だけだと追い付かないんです」 お恥ずかしい、と付け足して苦笑する。 しかし、ふと思う。 耳にする話の限りでは、そのようには思えない。 ――とかく、人というのは噂話を好むのか宮城の回廊で人目も憚らず、官達が話をしている。 殿の仕事ぶりを。 物珍しいのだろう。 慣れてくればその内そんな話もしなくなるだろうが、わざわざ話題にまですることだろうか、と俺は内心思っている。 ただ、それを思い起こしてみても殿が周囲に後れを取っている、という話を耳にしたことはない。 「そうですか…、…ですが、焦る必要はありません。仕事は逃げませんし、時間もあります」 「…そう、ですね」 殿は、ほんの僅か驚いたような表情を浮かべて、そう言った。 「何か分からないことがあれば、郭嘉殿に聞けばいい。殿の上司は、郭嘉殿です」 「はい」 驚きの色を収めて、殿が頷く。 俺は、ほんの一瞬考えてから付け足した。 「…とはいえ、分かることならお教えすることは可能です。俺に聞いて下さっても構いません……お会いする機会は少ないでしょうが」 再び驚いた表情を浮かべる殿に、俺は言わなければ良かったと後悔した。 柄にもないことを言った、と。 しかし、殿は笑みを浮かべた。 「ありがとうございます。荀攸さんにそう仰っていただけるなんて…、嬉しいです」 俺は内心面食らった。 そんな返しをされるとは…。 「なんだか今日は凄く良い日な気がします。寝坊したショックが一気に晴れました、ありがとうございます、荀攸さん」 朝日に照らされた殿の満面の笑顔を見て、俺は言って良かった、と考え直した。 今日は良い日だ、と。 ⇒おわり ぼやき(反転してください) 小話、的な。 2018.09.22 ![]() |
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