怒るときは則ち理を思い、危うきにも義を忘れず





    
戯家の愚人 ― 春麗ニシテ亦嵐也・後壱 ―























は、無言だった。
ただ無言でこちらへと剣を向ける曹丕を真っ直ぐに見つめていた。


「俺が勝ったらこのまま父上のもとへ行かせてもらう」



耳元で風が唸りをあげていたが、その言葉ははっきりと背を向けたままの戯の耳にも届いていた。
だが、戯はそれには答えない。
曹丕が幾分眉根を寄せて、しかし声音を変えずに言う。



「早く剣を取りに行け」

「それは、できない相談で御座います、子桓様」



今まで口を開こうとしなかった戯が間髪いれずにそう言う。
それは、今の曹丕を怒鳴らせるには充分な言葉だった。



「なんだと!これは俺の命令だ!相談などではない!!」

「それでは、尚のことそれをお聞きするわけには参りません」



そう振り向きながら答えると、戯は真っ直ぐに曹丕を見据える。
曹丕は、やっとこちらを振り向いたかと思ったが、それも束の間、一瞬目を見開いて再び眉間に皺を作った。
視線の先の戯の表情は予想外の”無”だったからだ。
これまでのことを思えば当然、怒っているだろうと思っていたのにそんなものは微塵も窺わせない。

曹丕の目に映る戯の表情からは一体何を考えているのか、何を思っているのか全く分からなかった。
曹丕は思わず握り拳を作る。



「・・・っ、つべこべ言わずさっさと剣を取りに行け!聞こえなかったのか!俺は、曹孟徳の息子だぞ!言うことが聞けないのか!!」



腕を大きく払って怒鳴る曹丕。
それとは正反対に、戯は至極冷静に、だが声音強く言った。


「はい、確かに聞こえております。ですが、私がお仕えしているのは主公・・・曹孟徳であって、子桓様ではございません。故にその御命はお聞きすることが出来ません」


そこで一区切り打って、再び口を開く。

「・・・それから、」


ほんの一瞬垣間見えた強い眼光に、曹丕は口にしかけた言葉を思わず息と共に飲み込んだ。



「例え血縁のものであろうと、他人の権威を笠に着るような言葉は慎んで下さいませ、子桓様」

「黙れ!この俺に説教をするのか!」



はただ無言で曹丕を見つめる。
一瞬だけ強められたそれは、今はもう仕舞われている。
曹丕は、歯噛みしながら暫く戯を睨んでいたが、戯の感情の読めないその眼差しに居た堪れず、ふいと視線を右下へと流した。

空は橙色の妙な明るさに包まれながら、しかし薄暗い大地には吹き止まぬ風。



「さあ、許へ帰りますよ」

踵を返し、再び戯が口を開く。
先程よりも幾分穏やかと取れる声音。
しかしその瞬間、曹丕の中のそれは切れた。

声をあげ、剣を振りかざして無防備な戯のその背中に突っ込む。
曹丕が、一層剣を振り上げる。
だが、それは稲光とほぼ同時に曹丕の手から遠く離れ地に落ちていた。
そしてまた、曹丕の身体も地にあった。

打ち付けた身体に痛みが走る。
左手を地面について身体を支えながら曹丕はのろのろと起き上がった。

視界の端に戯の右手が見えた。

下ろされたその手の甲には斜めに走る一筋の朱。
降り出した雨がそこを撫でる。
指を伝って落ちていくそれは、戯の足元に生える草葉を僅かに赤く染めて、しかし直ぐに雨に流され地に滲みてゆく。






「私が憎いのですか? 敵が憎いのですか?」





頭上から言葉が降ってくる。
抑揚も何もない戯のその声は、雨音に消されることもなく曹丕の耳に届いた。
曹丕は上げかけていた顔を一気に上げきると、そのまま戯を睨んで拳を硬く握る。
同時に声を荒げた。





「憎い!俺の兄上を奪った張繍が憎い!だが、それよりも・・・!」


眉間に深く皺をよせ、尚一層拳を握りこむ。
大きく息を吸い込みながら一度顔を伏せると、次に顔を上げたと同時、その吸い込んだ息をゆっくりと吐き出すように先程よりも一層低く、しかし激しい雨音にも掻き消されることのない声音で言葉を続けた。



「それよりも、ずっと・・・その敵を討ちに行かせてくれないが、敵を討ちに行こうとしないが、俺の気持ちを分かってくれないが!何よりも憎い!憎くて・・・憎くて、悔しい!!」






それは確かに、曹丕の心からの言葉だった。
を心から慕うからこそ生まれたものだ。
兄である曹昂を慕い、そして結果導かれた憎しみとはずっと違うものだった。

それを、いや、それが――その二つが例え言葉の表現として同じであっても互いに異質のものであるということを、曹丕は分かっている。
分かってはいるが、戸惑った。
何故ならば――ずっと、それは戯とは比べられない程ずっと長く慕っている筈の兄・曹昂の敵への憎しみよりも、戯に対しての思いの方が何よりも、何よりも強かったからだ。
は己のことを分かってくれない”ただそう思うだけで、あんなにも兄の敵と憎んでいた張繍への憎しみや恨みの思いを、分かってくれないというだけで生まれたに等しい戯に対しての憎しみの思いの方が強く勝って曹丕の心の全てを染めていった。






―――が、憎い、恨めしい。


――――どうすることもできない自分が、悔しい。






どう対処すればいいのか分からなかった。
ただ兎も角憎くて、憎くて、悔しくて、それがどうしようもなく苦しく、悲しく、虚しかった。
言葉で放てば、上手く伝えることも出来ない。
どうそれを表現すればいいのか、言葉が見つからない。
分かってもらいたくて、しかし、それを伝える術が見つからない。

結局、そのもどかしさは怒りとなって行動となり、しかし、当てのない行動は一方の”仇討ち”にのみ、酷く執着する形で現れることになった。
どこでもいい、何だっていい、兎も角この思いの丈をぶつけて早くその苦しみから解放されたい、と曹丕は強く思っていた。






鋭い眼光が、戯の双眸をとらえる。
はその両の目をすっと細めた。
曹丕を見やる。


「何よりも私が憎い、と・・・ではどうなされますか?敵を討ち果たすように、私の身も打ち倒してゆかれますか?どうなのですか?」



曹丕は答えない。
ただ短くも長い沈黙が流れて、辺りを包む雨音と雷鳴だけが響いていた。
互いに視線を外さないが、曹丕の瞳には困惑の色が見て取れた。
は息を吐き出すと、視線を右下に外しながら目を閉じ、そして曹丕へと視線を戻しながら、その瞼を上げた。


「では、憎しみで仇を討つことが出来ると思いますか?敵を討ち果たすことが出来ると思いますか?」

「・・・できる!この憎しみがあれば、俺はなんでも越えられる。張繍をこの手で討つ事だってなんだって!にだって負ける筈もない、邪魔などさせるものか!」



曹丕の瞳をみる戯の眼が、その心の奥底を覗くような色を帯びる。



「それは憎しみという感情に突き動かされているからではありませんか?その感情に惑わされ、振り回され、何よりも強くそう思わされている、実の伴わない言葉を言わされている、違いますか?」

「違う!この俺が感情に振り回されているだと?これは、俺の意志だ!確固たる意志がどうして感情に振り回されなどするものか!」



曹丕の怒りは既に頂点に達していた。
その右腕が空を薙いで雨粒を散らした。


「冷静に思い直してみても同じ言葉(こと)が言えますか?」

僅かに戯の眉が寄せられた。
だが、それは訝しむようなものではない。
哀しむような、あわれむ様なそういった類のものだった。

しかし、それはごくごく僅かな変化で、雨によって視界が霞んでいる今では曹丕の眼にその変化が捉えられることはなかった。
そんな曹丕が戯に食いかかる。


「冷静に思い直す、だと?これは俺の意志だと言っている!冷静であろうがなんだろうが、その意志は変わらない、変わる筈がない!」

握り締めた拳を胸に押し当てる。

「もう、分かっただろう、つべこべ言わず、早く剣を取りに行け、!」


再び右腕を薙いで、しかし今度は遠く離れた木の近くに突き立てられる一振りの剣を指差していた。
がそちらに視線をやり、そして曹丕へと戻す。


「・・・そこまでの意志がおありなら、子桓様は何故私から許可を得ようとなさるのです?私と剣の勝負などというものをしようとなさるのですか?先程、子桓様は”負ける筈もない”そう私におっしゃいました。ということは、私は子桓様には勝つことが出来ない、そういうことでは御座いませんか?」

曹丕の指は、未だ、突き立つ剣を指したままだ。
は続ける。

「そして”邪魔などさせない”ともおっしゃった。なれば例え、万が一にでもこの私が子桓様に剣の勝負で勝てたとして、仇討ちへ赴く旨の許可を出さなかったとしても、その御意志が変わらぬとおっしゃるのならば、どちらにせよ、私は子桓様を御止め申し上げることは出来ない、そういうことでは御座いませんか?」




曹丕は腕を下ろし拳を握る。
稲妻が空を走る。
雷光が絶え間なく、地上を瞬間的に明るく照らす。
空と大地の間を、地上を揺るがすほどの音を立てながら走ってゆく。

は曹丕から程はなれた草地に沈む曹丕の剣へと視線を移して、そして一歩そちらへ向かって歩き出した。
曹丕に背を向け、さくさくと歩いてその手前で足を止める。
おもむろに剣を拾い上げ、後ろを振り向いて曹丕に向き直った。
同時に剣を放る。


「っ」


それは、曹丕の直ぐ目の前に弧を描いて落ちた。
同じく、草に埋もれる。
刀身に雨粒が落ちて、ごく小さなものだがカツカツと金属を弾く音が曹丕の耳に届いた。
思わず身体を引いたまま一連の動きを追い、剣に注がれた視線を戯へとやった。
眉間には皺が寄せられている。
は腹の前で右手を上に手を組むと、涼やかに言う。



「子桓様のお気持ちはよく分かりました。ですが、私にもすべきことがあります。故に、このまま子桓様を行かせるわけには参りません。私は仇討ち自体がいけないと言っているのではありません。ただ、今この時に主公の言葉も待たず、そして先の主命を蔑ろにし仇討ちに赴こうとする、その事がいけないと申し上げているのです」

曹丕は地に尻をつけたまま固く右の拳を握る。

「それは子桓様お一人の問題ではなく、これから主公が為そうとする政への影響も鑑みての事です。例えそれが、最初はどんなに小さな問題であったとしても、後に大なり小なり禍となるのならば、それを知った以上私はなんとしてもこれを阻止せねばなりません。これを聞いても尚、その意志に寸分の揺らぎもないとおっしゃるのであれば・・・」

が一区切り打って、一歩足を前に踏み出す。
右手を正面へ差し出した。


「その剣をお手になさいませ」


次には、己を示すようにその手を胸に添える。

「そして、その剣でこの私を斬ってからお行きください。ですが、先も申しましたとおり、私にもすべきことが御座います。故に、それなりの対処はさせていただきますので、どうぞそのおつもりで」



再び下ろされるその甲からは、未だ僅かに朱が流れていた。
が、真っ直ぐに曹丕を見据える。

曹丕は再び乱された胸の内(こころ)を必死に落ち着かせる、というよりも寧ろ、暴れる鳥をまるで押さえつけるかの様に歯を食いしばり、握り締める拳に一層の力を加えた。
そして、視線を放られた剣に落とすと、ゆっくりその拳をほどきながら、これまたゆっくりとした動きでその剣の柄に手を伸ばす。


雨に濡れ、身体は幾分冷えていた。
しかし、曹丕の中で収まらぬ怒りの炎は消火されることもなく、寧ろもっとその勢いを増していた。
ごく僅かに残る理性は、戯の言葉を理解している。
だが、それはその怒りを押さえ込むには余りに無力であった。


ゆるく掴んでいた柄を、硬く握りなおす。
曹丕は戯の瞳を睨み返すと、その視線を外すことなく立ち上がる。
軽装ではあったが、鎧と共に水を吸った服が重く身体にまとわりついて、それはまるで何かが肩からぶら下がっているような、そんな感覚さえ覚える。



「そのお心に迷いはないようですね・・・ならば仕方がありません」



そう言うと、戯は両腕を広げて見せた。


「それでは、その剣でこのを倒して御覧なさいませ。張繍の様に、私には身を呈して守ってくれる衛士などただ一人としておりません。なれば、この膝を折らせることなどいとも容易きことでしょう。さあ、いつでも、どこからでもお始め下さい」


拱手して頭を垂れる。
曹丕が剣を前に突き出した。


「そう言うのならば、お前も早く剣を取りに行け!丸腰の状態で俺を止める気でいるのか!?」

はゆっくりと顔を上げて、拱手した手を崩す。
再び、その身を示すように上げられた右手はその身体には触れない。
同時に口を開く。

「私自身の身が全て、武器となりえます。子桓様をお止めする、そう決心した時点で既に私は丸腰ではないのです」

そこで流れるように、右手で曹丕を示した。

「子桓様こそ、私を本当に倒すことが出来ますか?剣先が震えておられますが」



天に向けられた掌に雨粒が落ちる。
それが手を伝って地に落ちた。
地に身を置くものの全てを伝って落ちてゆく。

曹丕の奥歯がギリギリと鳴る。
怒りで肩が震えて、その視界もまた揺れていた。



その頭上で稲妻が走った時、曹丕は声を上げて走り出した。
右手に下げた剣を、微動だにしない戯の左脇から右肩へ逆袈裟に切り上げる。
だが、戯はそれを瞬間的に避けて、右足を軸に曹丕の背後へと回る。


「くそっ、なめるな!」


そう毒気づいて、曹丕は切り上げた勢いのまま後ろを振り向き、今度は袈裟に戯の左肩から切り下ろす。
しかし、それも左半身を引くことで避けられてしまう。




一見、理に適いながらも、だがその実、曹丕はがむしゃらに剣を振っていた。
”理に適う”というのは、ごく根本的なものでその身に染み付いているもののことだ。
しかし、その全てを戯には避けられてしまう。

これが他の者であったなら――ごく一介の兵士や庶民であれば問題はなかったかもしれないが、そういうわけにはいかない。
は冷静にその攻撃の軌道を見極める。
ただ基本が出来ているからといって簡単に倒せるような相手ではない。
が、曹丕には、なぜ戯に攻撃が一度も当たらないのかその理由がわからなかった。
怒りに駆られて、全てを忘失しているような状態だからだ。




剣が空を切る音、雨がそこここを打つ音、雷鳴、そして一人の乱れた吐息に混ざる怒りと焦りの声。
剣は雨を切って水を散らした。
草地を踏みしめるたび、そこから湿った音が僅かに漏れる。
一つは動き速やかに間隔も短く、一つは動き緩やかに間隔も長く。




「どうされました、子桓様。まだ、ただの一度もこの身を掠めてすらいませんよ、その剣は」

「っ黙れ!」




大きく曹丕が剣を振る。
も大きく後ろに退いて攻撃を逃れた。
そして、着地と同時に地に立っていた剣の柄を左手に掴んだ。
引き抜くと、ぴたりと剣を曹丕に向ける。
その切っ先は微動だにしない。
曹丕は肩で息をしてその場に立ち止まっていた。


「さあ、それでお仕舞いですか?ならば、そろそろ私からも行かせて頂きます」



剣を下ろしゆっくりと歩み寄ってくる戯に、曹丕は剣を構えなおし身を固める。
が右から左へ、肩よりもやや下の高さから真横に剣を薙ぐ。
次いで、曹丕の右肩から袈裟に切り下げた。
曹丕はその攻撃を剣で受け止める。
だが、その後も矢継ぎ早に攻撃は続いた。




「剣を振るときは脇をしめねばなりません。肩の力は抜き、重心の移動は速やかに、剣を振るよりも迅速に。でなければ軌道がぶれてしまいます。目付けは必ず相手を見る、相手を見ているようで実際のところ他を見ているようでは意味がありません。神経を集中させなければこれを斬ることなど到底適わぬからです」

の言葉に奥歯をかむ。
そんなことはわかっている、と心の中で何度も叫んだ。
だが、そんな余裕も最後の方には尽きていた。



休む間も、息をつく間もないほどに、流れるようなその攻撃が息の上がった曹丕へ容赦なく降り注ぐ。
一撃一撃がなんとも重く圧し掛かるのだ。

もともと雨に濡れて体力を削られていたその身体は、ここにきて一段とその消耗が激しくなる。
それであるのに、曹丕がその攻撃をギリギリではあったが見極めて受けることができたというのは、つまり戯が手を抜いていることに他ならない。
いや、寧ろ教えを説いているようなものだ、実際そうであった。
だが、曹丕にはその考えすらも及ばぬほどに、すでに余裕などかけらも残ってはいない。


一瞬隙が出来て、曹丕はそこから抜け出すと間合いを十分にとってから戯を振り向いた。
息を整えるように、段々とその呼吸をゆっくりと沈めてゆく。
は、そんな曹丕をただ見やった。
そして、幾分その呼吸が整った頃、再び口を開く。



「剣を握ればそこに迷いがあってはいけません。剣を握れば、その瞬間から心を無にし、感情でそれを握るようなことがあってはいけません。剣を制することは己を制することと同義。感情を制することが出来なければ己を制することが出来ず、己を制することが出来なければ、剣を制することは出来ません」


左手に握られた剣は下ろされたまま、戯の瞳は真っ直ぐ曹丕の瞳を捉える。


「剣を握るものが剣を制していなければ相手はその隙をつき、そして己すらも制することが出来ていないのであれば、その感情をも相手は惑わし、これを崩してくるのです。そんな状態にあってどうしてその者に打ち勝つことが出来ましょう。今までもそう申し上げてきた筈です。兄君にも・・・子脩殿にもそう教わりませんでしたか?」

「うるさいっ!黙れ!黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!」




空いた手を耳に押し当て、曹丕は叫ぶ。
俯く顔からは表情は読めない。
ただ、小さく何事か未だ呟いている。
そして、それが俄かに止まると、ゆっくりと曹丕が歩き出した。
それは段々と加速されて、剣を構え戯に向かって突っ込んでくる。
言葉と取れない叫び声を上げて、ただ真っ直ぐに。

は瞳を閉じる。
音だけの世界が広がる。
そしてその先には、気配だけの世界。

柄を握る手に力を込めて、曹丕が剣を振り上げるその瞬間、かっと眼が開かれた。
曹丕の動きの全てを捉えて、振り下ろされる剣を戯は握るその剣で弾き飛ばす。


それは回転しながら宙を舞い、そして地に突き刺さった。
曹丕の身体も、加えられた力に耐え切れず、後ろへ放り出される。



「っ!」




受身も取れず、地面に背中を叩きつけて、小さく呻いた。
条件反射で眼を瞑り、そして直ぐにそれを開けたとき、その光景に思わず曹丕は驚き、息を呑み、身体を強張らせた。
同時に、耳には金属が土を穿つ音。



顔の直ぐ横に、戯の握る剣が突き立っている。
己に対して平行に立てられた刀身に自分の顔が映っていた。
そこを辿っていくと柄が見える。
柄頭には左手が、その上には右手がのっている。
その先には戯の顔があった。

刀身を雨水が伝う。
流れてくるそれは、少し赤い。
の手の甲の傷口は、未だ朱を流し続けているようだ。
だが、それを気にしているような感じは全くない。
また、曹丕も深く考える余裕はなかった。



が眼を細める。
強張ったまま、口を開こうとしない曹丕の耳にその声は届いた。


「私の勝ちです、子桓様。感情で剣を握る危うさがこれでお分かりいただけましたか?」




それは、雨と共に曹丕へ降り注ぐ。

辺りを包むその雨は、未だ止む気配は見られなかった。



















つづく⇒




 いい訳とか。↓(拍手いつも有難う御座います



何か、本当どこまで長引かせるつもりなんだって言う・・・
や、本当はこれで終わらせるつもりだったんですけど、ここにきて初めて、ちょっと書いてる途中で文字数をカウントしてみましてね。
それではじき出された数字が7千文字…7千文字…!
そのまま終わりまで書き続けたら確実に1万5千ぐらいはいくな…
そこで、中途半端に区切ってみることにしました(死
な ん た る !
・・・フツーにねえよ、秀よry←

とりあえず、次でやっとこ終わる、筈。
そして、ちょっと絵とかも書き進めたりしたい今日この頃。
変な土地名を出したりするので、地図を作ってるんですが合間に作るので一体何ヶ月暖めてるやら。
せめて、兗・司・豫と徐あたりの州を先に出せるといい、かな・・・
てことで、まだまだ続きます…のでお付き合い頂ける方はどうぞ宜しく御願いいたします

| 

こんなところまでお付き合い下さり有難う御座います!


2009.08