霜を履みて堅氷至る
戯家の愚人 ― 霙雨ニ変ワル刻・後壱 ―
妙な夜だ。
月明かりに照らされて、当たりに光が降らされていると言うのに、それと伴って細かな雪が舞っている。
ちらちらと舞って地に吸い込まれていく。
しかし、そんな事は関係ない。
今は自分の職務に集中するだけだと典韋は天にやった視線を正面に戻し、辺りを見回した。
不審なものが居れば、直ぐに捕らえられる様に。
「じゃ、子脩、気をつけて」
「安民も」
そう交わして、曹昂は曹安民と回廊で別れる。
各々誰かと相部屋であるのは変わりは無いのだが、その部屋が違う。
ここまで他愛の無い話をした。
許昌とはちょっと違う気象のこととか、若い男盛り的な話とか。
それから、世の情勢の話なんかもした。
右へ向かった曹安民の背中を見送って、曹昂は左の回廊を進む。
立ち止まり、空に目をやれば満月が浮かんでいる。
そして、僅かにちらつく細かな雪。
風は無かった。
何か胸騒ぎに似たものを感じた曹昂だったがそれが何か分からない。
今日はあまり眠れないかもしれないと、再び足を動かす。
犬の遠吠えさえ聞こえない静かな夜だった。
戯はそれとなく宮城内の見回りをしていた。
回廊を歩きながら辺りに気を凝らす。
雪のちらつく外気に身震いを一つ。
吐く息はやはり連日のように白い。
両の手に一つ、息を吐いてこすり合わせた。
明かりの灯る部屋に差し掛かったころ、ふと正面から兵の姿。
向こうも気づいて、声をかける。
「様、お疲れ様です」
そう行って彼は頭を下げる。
ここにきて、話をするようになった兵のうちの一人だ。
戯は眉尻を下げながら応える。
「様は要らないと申してますのに」
「とんでもない!主公の御側近にそんなことはできません」
名前だけなんだけどな、等と心の中で呟いて、頭を掻きながら戯は視線を中空にやった。
再び兵が口を開く。
「ところで、様。そろそろ休まれては如何ですか?ここ最近ずっと遅くまで見回っておいででしょう?その様なことは我らに任せて、様は様の執務をなさればよいのに・・・」
「構わないで下さい、大丈夫ですよ。それに、備えあれば憂いなしです。こういうことは多いに越したことは無いでしょう?」
「ですが・・・」
どうやら、彼は大分戯の身体を心配しているらしく、そんなに気にしなくても構わないのにと思っているのだがしかし、それはそれで有難いことだった。
純粋に嬉しい。しょげている彼を暫く戯が見ていると、ふと何かを思い立ったかのように彼が頭を上げる。
「この辺りで少し休みませんか?」
「しかし、まだ・・」
「代わりに私が見回ります。寝て下さいとは言いません、きっと言っても様のことです、寝ては下さらないでしょう?」
戯はそれもそうだと、笑ってみせる。
兵も笑っていた。
「ですから、せめて、お茶でも飲んで一服してください。このぐらいなら構わないでしょう?丁度この部屋が休憩室になってますから・・・今、淹れてきますね」
「あ、ちょっと・・・!」
言って彼は戯の制止も聞かぬまま来た回廊を戻っていく。
闇に消えてしまった彼の背中を戯は暫く見つめていたが、こうなっては仕方が無いと直ぐ横に見える明かりの灯された部屋で大人しく待つことにした。
入ってみると、狭くも無く広くも無い丁度良い広さの部屋の、中央よりも少し西側によった場所に二つの椅子と桌子 が置いてあった。
その椅子に腰を下ろせば、桌子に置かれた火が僅かに揺れる。
朝から妙な胸騒ぎに苛まれている心を落ち着かせるために、灯された火をじっと見つめる。
机上の執務をずっとこなしていた為、今日は見回りに出る時に鎧を着てくる暇がなかった。別に鎧を着たままやってもいいのだが、いかにせん動き難い。
ともあれ、見回りは執務外で、自主的に行っているものであるのだが。
故に、数名の者しか戯が見回りをしていることは知らなかった。
他に言わせれば、なんとなくその辺りを散歩がてらほっつき歩いている、といった程度だ。
ちりっと音を立てて火の粉が舞う。
扉が開いたのはその直後だった。
「お待たせ致しました」
そう言って先ほど別れた兵が、手に茶器を載せた盆を持って現れる。
戯はただそれを見ていた。
戯の前に茶が置かれる。
回廊側の壁際に置かれた台に茶器の並んだ盆を置いた。
振動が伝わったのか、その台の横に立てかけてあった剣がカタンと音を立てる。
「どうぞ召し上がって下さい、いいお茶らしいですよ」
その言葉に笑みを浮かべ、
「そうなんですか?」
と、そう返した。
茶の香が鼻腔をくすぐる。
一口含めば、それが口内にも満ち溢れた。
「本当ですね、香りも味も今まで飲んだことが無いぐらい素晴らしいものです、しかし、どこでこれを?」
そう聞くと兵は考えるような仕草をして答える。
もう一口口に運んでその答えを待った。
「えぇ、それが何でも市井に買出しに出かけた女官が、豪商から破格の値段で売ってもらったとか・・・自慢げに話してましたよ、その豪商がとんでもなく男前だとか何とか」
苦笑いしながら話す兵のその言葉に戯がその手を止める。
茶器に注がれた薄黄緑の液体を凝視する。
そして、思い立ったように顔を上げると、椅子から腰を上げ、同時に茶器を桌子に勢いよく置いて兵に向かって叫んだ。
「今すぐに主公の元へ!」
兵が何が何だか分からず一瞬きょとんとする。
首をかしげて戯を見るが、気にせずにもう一度叫ぶ。
「いいから、早く!!」
「は、はいっ!」
言って、兵は弾かれたように身を翻し扉を開けて曹操の部屋に向かって走り出す。
回廊をかけていく音を聞いて間もなく、どこからか叫ぶ声。
「敵襲ー!!敵襲ーー!!!」
ふいに辺りが明るくなる。
中庭の方に目をやれば、赤く照らされる棟々。
戯は小さく舌打ちすると、首を部屋の入り口に向け足を一歩踏み出した。
その時、
ぐらりと目の前がかすみ、一瞬天と地がどちらなのか分からなくなる。
思わず桌子に右手をつき、そしてまた片膝を床につく。
右手を桌子についたときの衝撃で茶器が転び、中の茶が床に流れた。
額に手を当てる。
俯いた先、視界に入る床を濡らすそれ。
それを忌々しくねめつけると、俄かに額へ当てた手を口に突っ込み自ら吐き気を呼び込む。
胃の中の全てを吐き出す。
肩で息をしながら、口内の違和感に眉根を寄せた。
ふと左に視線をやれば、湯の入った瓶が目に入る。
戯は勢いよく身体を起こすと、それを手に取り、口に注ぎ込んだ。
熱いとか、熱くないとか、今はどうでも良かった。
口を漱いで吐き出す。
生理的な涙を浮かべながら、台に手をやって立ち上がる。
一向に薄れない眩暈と、それにも増す、指先の痺れ。
戯は何かを決心したように眼前を睨むと、護身用に忍ばせていた短刀を懐から取り出し、服の裾ごと思いっきり太ももに突き立てた。
痛みに眉を顰めてそれを引き抜けば、月白色の生地を鮮血が染めていく。
一つ大きく深呼吸をすると、衫(さん)の裾を破って患部をきつく縛り上げた。
痛みになど、今は構っていられない―――
そして立ち上がり、壁際の台に立てかけてあった剣をつかむと走り出した。
曹操の居る、彼の部屋に向けて。
いつのまにか、粉雪は霙に変わっていた。
燃え上がる炎は空さえも赤く照らしていた。
曹昂は足を止めることなく、回廊を駆けていた。
屋敷の奥に行けば行くほど、火の手が遠のく。
その事実に、内心胸を撫で下ろしながら、しかし一方で、一刻の猶予もないこの状況に焦っていた。
遠くで兵士たちの叫び声や、金属と金属のぶつかり合う音を耳にしながら、視線を遠く、中庭を横切る回廊に移す。
目に入ったのは、そこを自分と同じく駆けている戯の姿。
曹昂は、肺に空気を一層送ると声を張り上げた。
「殿ー!」
戯は、声のした方を振り向いた。
それは紛れもなく曹昂の声。
僅かなそれも聞き逃さず、己の名を呼ぶ曹昂をその瞳に認めると、迷わず回廊の手すりを飛び越えその下へ向かった。
駆けつけてきた戯に曹昂は思わず当初掛けようと思っていた言葉とは違う言葉を掛ける。
「殿!その足は!?」
即ち、先ほど戯が気付けとばかりに立てた短剣による太ももの傷ことだ。
裾の長い官服を纏っているので傷は当然見えないが、その部位の生地が朱に染まっていた。
戯は眉根を寄せて自嘲気味に口を開く。
「少々ヘマをしまして」
「大丈夫なのですか!?」
「ええ、大丈夫です。それより」
曹昂の言葉に戯は大丈夫と返しながらも、話題を変える。
「子脩殿には、どうか主公の馬を用意していただきたく」
その言葉に、曹昂は弾かれたように戯の顔を見る。
「殿は!?」
「私は主公の元へ急ぎ、お逃げ頂く様手筈を整えてまいります。
どうか、今主公を無事に逃がすことの意味、ゆめゆめお忘れなきよう」
一刻の猶予も無い。
一気に捲くし立てると同時に、言外に貴方も優先させるべき命なのだと告げる。
当然の如く、曹昂が間を置かず抗議の意を示した。
「しかし!」
そう納得できないと言う顔でこちらを見てくる曹昂に戯は口元を緩ませる。
「ご安心下さい、私も主公と共に参りますから。
馬の準備が出来たら城の裏手、通用門へ向かって下さい、そこで合流します
門は確保するように他の兵にも伝えてあります」
言って微笑む戯に、曹昂はまだ何か言いたそうに口を噤んでいたが、やがて”すみません”と一言残すと来た道を引き返していった。
暫く、その後姿を見送っていた戯だったが、顔を曹操の居室のある方向へ向けると踵を返して駆け出す。
未だ静寂の包む回廊の先を目指して。
息を切らして駆ければ、目前に目的の部屋の灯り。
どうやら先刻の兵士はここに来ていないらしい。
途中、どこかで敵と遭うことでもあったのだろうか。
しかし、悪いとは思いつつも今はそのことに構っている暇は無かった。
呼吸を整えながら、その部屋の扉の前で片膝をつく。
そして、拱手すると声を張り上げた。
「主公、で御座います!
張繍が謀反を起こし、既に城には火がかけられて御座います!
いつここにも追っ手が来るやもわかりませぬ!どうか、一刻も早くここからの脱出を!!」
室内からの返答は無い。
己の耳に入る音は、霙が地に落ちる音と、未だ遠くで聞こえる戦の喧騒だけだった。
焦る心を抑えることが出来ず、言葉を口にしようとした時、漸く中から声がかかる。
戯はすっと立ち上がると、一言述べてから静かに扉を開けた。
目前にいるのは当然の如く、己の主君とその主君をこの7日間骨抜きにしている張本人、鄒氏の姿(と言っても、鄒氏自身が骨抜きにしようなんて考えているわけではなさそうだが)
戯は、鄒氏の姿をこれまでにも数回ではあるが目にしたことがあったが、改めて女目で見ても綺麗な人だと思った。
再び片膝をつき拱手して頭を下げる。
「どうやら、大変なことになっているようだな」
そう悪びれも無く、けろっと言うのは曹操。
まるで他人事のようなその言葉に、戯が思わず眉根を寄せる。
しかし、次に出た言葉はある意味で予想外だった。
「逃げるぞ、」
その言葉に戯は勢いよく顔を上げた。
曹操の顔には緊張を見せぬ笑顔。
半ば呆れながら、戯は元気よく、はい、と返事をした。
「それで馬は何処に用意してある」
そう、曹操が戯に問う。
ついでに、話し方、と付け加えられて。
戯は、再び眉間に皺を寄せたが、また言ってくるだろうと、諦めつつその問いに答える。
「子脩殿に城の裏手、通用門にてと言ってある。
そこで合流して逃げる手筈に」
言いながらすっと立ち上がって右手側にある窓を開け放つ。
そして、外に人の気配がない事を確認した。
「さっきも言った様に、いつここにも追っ手が来るか分からないから、窓から外へ出て裏へ回ってもらう。
わかったら・・・」
振り返れば、目に飛び込むのは鄒氏の手をとる曹操。
戯に一抹の不安が過ぎったのも束の間だった。
「では、共に行くぞ鄒氏」
その言葉で戯は再び血圧を上げた。
「主公!今は二人連れで逃げられる状況じゃない!彼女はここへ置いていっても殺されはしないだろう。
貴方も彼女自身が、張繍の今回の目的の一つだということは分かってる筈だ!!それを「曹操!覚悟しろ」
言葉を遮られ、はっとして戯が声のした方 ― 部屋の入り口 ― に首を向けると、そこに見えたのは矢を番え、まさに放とうとしている敵兵の姿だった。
標的は間違いなく曹操だ。
普段ならば何のことは無い今の自分と曹操の距離がこの状況では倍以上に長く見えた。
「主公!!」
迷わず床を蹴って曹操のもとへ向かう。
そして、右手で曹操の左腕を掴むと、思いっきり右へ引いて出来る限り自分の影に入るように誘導した。
「っ!」
「!」
放たれたその矢は、もともとの標的の曹操に当たることはなかったが、それを庇った戯の左肩に深々と突き刺さった。
不意のことで互いに倒れこみ、自分の下に曹操の体温を感じながら、しかし、すぐさま身体を起こすと後ろを振り向く。
見えるのは、矢を放った主が今度は剣を抜いて襲い掛かってくるところだった。
ならばと、戯も落とした剣が運よく近くにあるのを確認すると、それを左手で掴んで剣を抜く。
そして、その剣を投擲よろしく、向かってくる兵の胸めがけて力の限り投げた。
それは、剣を振りかざした兵の胸に見事突き刺さり、たまらず兵はその場に沈む。
ごとりと音を立てて床に背が付くと同時にそこには朱の水溜りが出来た。
「主公、無礼を・・・・・・っ怪我は・・・?」
片膝をつき、左肩を庇いながら曹操に向き直って問う。
「お前の方が怪我だらけだ」
「っ、そうかも、しれない・・・」
そう自嘲気味にいう戯の怪我を曹操が見ようとしたときだ。
間に、煌びやかな紗の袖と陶器のように白く細い指が割って入った。
それは紛れも無い鄒氏のもの。
「彼の手当ては私がします。ですから、どうか孟徳様は先にお逃げ下さい
彼ならきっと孟徳様が先にお逃げしても後から必ず合流することが出来るのでしょう?
ですから、どうか・・・。そして、無事に孟徳様がお国へ戻れたら、いつか私をまた迎えに来て下さい」
その言葉に戯は驚く。
また、曹操も驚いているようだった。
暫く、曹操と鄒氏が見つめ合っていたが、やがて曹操が意を決したのかすっと立ち上がる。
そして、自分の剣を手にすると窓に向かって静かに歩んだ。
それを戯と鄒氏がただ見つめる。
曹操が窓の縁に手を掛けると、ふとこちらを振り向いた。
「鄒氏、約束した。必ず迎えに来るぞ
それから、!お前も約束しろ、必ず後で合流するとな」
「御意の、ままに」
戯の言葉を聞くと曹操はひらりと窓枠を超えて外に着地する。
足音が遠ざかっていった。
は女だぞ、と残して。
「ごめんなさい、私・・・」
曹操が姿を消した直後、そう鄒氏が傍らの戯に言う。
戯は後ろ肩に突き刺さった矢を抜きながら言った。
「別に、構わないさ・・・どうだっていいことだ」
血の滴る鏃を見て舌打ちをする。
正確にはそれに付く血を。
どす黒く色が変わっていた。
鏃に毒でも塗られていたのだろう、それもかなり強烈なものが。
服を左側だけ二の腕辺りまで下ろす。
それを見て鄒氏が自分の服の帯を解いて戯の左肩にまわした。
戯がきつく結んでくれと鄒氏に頼む。
短刀を懐から出しながら再び戯が口を開いた。
「貴方は、主公とともに逃げたかったのか?」
顔をあげ、鄒氏の目を見る。
鄒氏もまた暫く戯の目を見ていたが、やがて何を発することなく、静かに微笑んだ。
それが、戯には何をさすのか分からなかったが、一度目を伏せるとただ一言、
「すまない」
そう呟いて、短刀を抜いた。
鞘に衫を巻きつける戯を見ながら鄒氏が口を開く。
「何故、あなたは女人の身でありながらこの様な形で孟徳様にお仕えしようと思ったのですか?」
その言葉に戯は手を止めることなく答える。
「女だろうが男だろうがそんなのは関係ない。ただ私が、こういう形であの方に仕えたかっただけだ。
そして、あの方はそれを許してくださった、ならばそれに応えるしかないだろ。
それに、あの方、曹孟徳なら新たな道を拓いてくれる気がするから」
鞘を衫に巻き終えると顔を上げた。
「余り見ないほうがいい。ま、死体が転がってる今、言っても遅いかもしれないが、あまり見るものでもないからな」
そういい終えると、衫を巻いた鞘を口に銜え前へ屈み、後ろ肩の傷口に手にした短刀を当てる。
それを見て鄒氏は理解すると、目を瞑り顔を背けた。
視界の端にそれが見える。
右手にぐっと力を入れると、同時に歯を食いしばって傷口に刀身を付きたて、一気に下へ裂いた。
「っ――――――――――!!!」
どす黒い血と、鮮やかな血が混ざりながら白い肌をつたって服を染めていく。
刀身を引き抜くと、思わず取り落とした。
ことんと音を立てて、また銜えていた鞘も床に落ちる。
目を開けた鄒氏がその場に蹲る戯を起こしながら、天井から降りる帳を引き裂いてその傷口を縛った。
服を元に戻していると、戯が鄒氏の袖を掴む。
そして、静かにしかし、強く言い放った。
「誰か来る、念のため部屋の隅へ。それから、ありがとう」
気にしないでと返しつつも、鄒氏には足音やらは何も聞こえなかった。
しかし、戯の切迫した空気から、素直にその言葉に従う。
即ち、戯が視線で示した自分の右後ろ、牀榻の横。
戯が左へ振り向きながら、落とした短刀を右手に納める。
勢いよく扉が開かれた。
そこには弓を引いた兵が、一人はしゃがみ、もう一人は後ろに立つかっこうで左右に二人ずつ立っていた。
その中央には口髭を蓄えた幾分小柄な男が一人。
男が一瞬だけ鄒氏の方に視線をやると、再び戯の方へ視線を戻した。
「放て」
視線を受けて間もなく、自分に向かってくる矢。
短刀で払い落としつつ身をかわしながら体制を整え、窓が丁度自分の背後に来る様に移動する。
そして、敵の兵が素早く矢を番え放った瞬間。
戯は床を蹴って、後方へ宙返った。
見事に窓の外へと着地する。
と同時に、駆け出した。
曹操を無事に逃がす為に。
一秒でも長く、敵を裏手に回らせない為に。
兵が急いで窓に駆け寄ったが、すでに闇にまみれたのか人影は無かった。
ならばと、後を追う為に窓の縁に手を掛けたが、それは制止されてしまった。
「しかし、よろしいのですか?胡車児様。軍師殿より、戯の首も刎ねろと申し付かったのでは・・・」
「構わん、どうやら既に毒を受けているようだ。それに万が一、矢の毒をここで抜けたとしても、全身に痺れが回っていてはろくに戦も出来ぬだろう。
まあ、とはいったものの、あの矢の毒からは逃れられぬだろうがな」
行くぞ、そう言って鄒氏を保護し部屋を後にする。
鄒氏は、兵に守られながら、しかし心の一方で戯と曹操の無事を祈っていた。
月明かりに照らされて、霙が夜空に輝いていた。
つづく⇒
いい訳とか↓(拍手有難う御座います!)
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思いもかけず、4部作です・・・
長くて本当すみません;
そして、更新がまた久々で申し訳御座いません(遅い
とりあえず、今回で宛は終わらせようと思ってたのですが、そうもいかなかったみたいです←
鄒氏が思いがけずでしゃばって、自分でも吃驚デス←
そして、微妙に具体的な流血表現が出てきたので急遽、分かりやすく?印しつけてみたんですけど、ごめんなさい;
本当は連載の最初に言っておくことなのでしょうが・・・
まさか自分でもここまで・・・
しかし、話の構成上どうしても外したくなかったのでこういう形をとりました。
・・・ってここで言ってもまたどうしようもないことなのでしょうが。
とりあえず、次回に続きます。
次回も血が流れたり、腕が飛んだりします←
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ここまで読んで下さり有難う御座いました。