「雲長はやっぱり、いつかここを去るの?」
― 黄 金 ノ中 華 ―
金鐘花の咲き乱れる丘で緑の大地に身体を預けて張はそう呟いた。
同じく、頭の後ろで手を組み寝転がる関羽が空から視線を外さずに答える。
「・・・足がつけば、居られなくなる」
「・・・・・・」
ただ無言で、お互い空を眺めるだけだ。
風がそよそよと吹いている。
相当の量の金鐘花が咲き乱れているのに、これといってらしい香りがしないのは、それ自体の香りが弱いせいなのだろう。
変わりに、どこからか風に乗ってやってきた、甘い桃の花の香りが鼻を掠めた。
「ここを離れたとしても、もしどこかで逢えたら、またこうやって話は出来るよね?」
「殿も、そして兄の文遠殿も良き友であることに変わりは無い、当たり前であろう」
どちらともなく、互いの顔を見合う。
暫くして、張は笑みを作ると、再び視線を空へ戻した。
「それもそうだね」
一匹の蝶が視界を過ぎった、その時だった。
「!」
「・・・兄さん?」
丘の下の方から声がして、張はそう呟くと、一気に上体を起こす。
視界の先には、矢張り張遼の姿。
手に三本の竹筒を持っていた。
ふいに、その一本を張めがけて優しく投げる。
張はそれを見事に受け取めると持ち直しながら小首をかしげた。
右手側に寝転がっていた関羽も身体を起こす。
何かを受け止める音がして、そちらに顔を向けると同じく竹筒を受け取っていた。
「たまにはこういう所で酒を飲むのも悪くはないだろう?」
近くまで来た張遼が、微笑みかけながら二人の目の前に腰を下ろす。
張は僅かに目を見開いて張遼を見やった。
「兄さんが酒を勧めるなんて珍しい。なにかあったの?」
そう問うが表情を変えない張遼。
だが、すぐにその意味を察して張は関羽の方を見やった。
関羽は張の方を向かず、変わりに張遼を見ながら口を開く。
「どういう状況なのだ?」
「直ぐに来られる場所でもないが、近くまで迫っているというのは確か」
関羽の目を見ながら張遼が答える。
張は二人の顔を交互に見やった。
穏やかに吹く風が場違いに思えた。
「最低限の荷と馬を用意しておいた。この丘を下りた外れに繋いである」
「文遠殿・・・・・・かたじけない」
言って頭を下げる関羽に張遼は笑い混じりに言う。
「よしてくれ、我らは友だと言ったのは雲長殿だろう?俺もそうだと思う」
「私も」
張が張遼の言葉に乗る。
二人は視線を交わすと、互いに笑顔を作って関羽に向けた。
それがなんとも嬉しくて。
「文遠殿、殿」
暫くして、張がすっくと立ち上がる。
腰を下ろす二人が顔を上げると、逆光だった。
張が二人を見下ろしながら、竹筒の栓を開けて掲げる。
関羽と張遼の二人はその意味を理解すると、互いに視線を交わしてそして立ち上がった。
張に倣って、竹筒の栓を抜くと掲げられたそれに添える。
互いが互いに笑顔をかわして、そして誰ともなく筒の中の酒を一気に飲み干した。
僅かに竹の薫りのするそれが口内を満たして喉を流れる。
「いつか、また、こうやって話ができるといいね。今度はもっとゆっくり」
張が言った。
「そうだな。今度はもう少し長く」
関羽が言う。
「ああ。その時までにもう少ししとやかになっているといいな、が」
「兄さん!」
張遼の言葉に張が腰に手を当てて頬を膨らませる。
それを見て関羽が笑い声を上げる。
「そうだな、もう少ししとやかになっていたらいいな、殿が」
「ちょっと、雲長まで!」
益々膨れっ面をする張に関羽と張遼が笑う。
張はいよいよ腕を組んで二人を睨みつけた。
が、暫くもしないうちに、自分も可笑しくなって笑い声を上げる。
それは風に乗って、黄金色のそれと混ざり合う。
例えここで別れても、今生の別れではないのなら、きっとまたどこかで逢えるだろう。
それは誰ともなく心に抱いた、ある種の願い。
中華 が黄金色で満たされた、ある日の記憶。
⇒おわり
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ただの友情夢です。
金鐘花は連翹のことです。香りがどのぐらい強いのかは不明ですが・・・マテ
あまり香りはしないと聞いた記憶が・・・・・・違っていたらゴメンナサイ;
とりま、グダグダ書くのもあれなのでこれにて!
ここから今回の夢主簡単設定。
戯家連載とは全く関係性なし。張遼の妹設定。関羽とはただの友達。年差は結構あり。
ここまで読んでくださり有難う御座いました。