「文若殿もどうですか?」
春ノ風ハ待タズトモ
そう言って、小高い丘を登りきったところで荀ケに声をかけたのは戯。
丘の上に咲き誇る桃の木の下で緑に腰を落とし、その手には杯。
傍らには酒の入っていると思われる竹筒があった。
胡坐をかいて座っている戯に、荀ケは上がりきった呼吸を整えて言う。
「殿・・・・・・とりあえず、もう少し女性らしく座りませんか・・・?」
その言葉に意味が分からないと言った風に戯は小首を傾げて答える。
「こちらの方が座りやすいんですよ、それにその言葉は今更です」
微笑みかける。
荀ケは目を細めてそれを見た。
戯が隣に座るように促す。
断わる理由も無いので、荀ケはそれに従って戯の左隣に腰を下ろした。
僅かに湿る風が吹けば、桃が揺れてその花弁が舞う。
青に散っていく。
静かだった。
「そういえば、文若殿は何故こちらへ?やっぱり、コレですか?」
言って左の人差し指で天を指す。
その先にあるものは満開の桃。
荀ケが笑みを零しながら答える。
「ええ、まぁそんなところです。ちょっと散歩に出てみようと思いまして」
「そうですか。でも、あれですね」
「?」
一旦止めた言葉に荀ケが疑問符を浮かべる。
それに気づいて、戯は荀ケの方へ顔だけ向けると眉尻を下げながら笑みを含んで言った。
「ここに登ってくるまでずっと見てましたけど、体力ありませんね」
その微妙に?辛辣な言葉にがっくりと肩を落とす荀ケ。
「・・・否定はしません」
そんな荀ケを尻目に、戯は左指を顎に当て中空を仰ぎながら考える仕草をする。
「あー、でも奉孝殿よりは間違いなくあると思いますよ」
「そうかな、ありがとう」
がっくりと項垂れる荀ケにかなり空気の読めていない戯。
それがこの春風のせいなのかは定かではない。
そよと風が吹き桃が薫る。
足元に咲いていた菜の花に蝶がとまる。
「長閑ですね」
「そうですね」
「こういう日は酒ですね」
「いや、飲み過ぎはどうかなと思いますよ」
呆れながら言う荀ケに戯はそちらを振り向く。
「釣れないですね、そういう時はとりあえず、そうですねって言っておくものです」
「違うと思いますよ、それは」
本当に釣れないなぁ、そう呟く戯を荀ケは困った風な笑みを浮かべて見やる。
自分の親友の面影を僅かばかり残す横顔。
最初は色々あったが、その後は印象も改善し、誤解していたことに引け目すら感じた。
それもあってじゃないし、こう思うのも失礼かとは思ったが、できれば彼女の兄の代わりになれればなんて思ったりもしている。
だが、いつからか、違う想いが自分の中で生まれたことに荀ケ自身気づいていた。
そんなことはと思ったが、間違いではなくて。
けれども、荀ケはそれ以上のことを望んでいなかった。
それは、手に入るのなら嬉しいのだが、戯の想いだってあるだろうし、何より敵が多すぎた。
そもそも、自分の主君が入った時点で潔く諦めたものだ。
だから、自分がその相手にならなくてもいいが、戯自身が望む人の元で幸せになってくれればと思うし、そう願う。
それまではしっかり見守っていようと荀ケは心に決めていた。
ただ、その合間に、自分に笑顔を向けてくれたり、話が出来ればただそれだけで、幸せだと。
想わせてくれるだけでも幸せだと。
そんな、ささやかな幸せ。
それを思えば、今この瞬間のなんと幸せなことか。
ただ、長閑な春の陽射に照らされて、こうして隣に座り、話をして同じ時を過ごす。
それが偶然であればあるほど・・・
どんなに幸せなことか。
ふと、戯が口を開く。
「文若殿ってまるで、兄さんみたいですね」
風がそよいで蝶が舞う。
「酒は弱いし、体力ないし、ちょっと五月蝿いし、心配性だし、面倒見いいし。けど」
同時に戯が立ち上がる。
一層強い風が吹く。
その前髪を押さえて戯がこちらを振り向いた。
眩しさに荀ケは目を細め、手で庇を作る。
「文若殿は文若殿ですよ」
はっとして顔を見れば、その笑顔も常の如く眩しく輝いていて。
自分の心を見透かされているような。
「どんなに、仕草や言動が似ていても文若殿は文若殿です。私は、文若殿が大好きです。だから、引け目感じないで下さいね」
そう言って一層の笑顔を作る。
荀ケはただそれを見ていることしかできなかった。
言葉なんて出てこない。
そのうち、戯が自分で疑問符を浮かべ始める。
それを見ていると、どうやら別のことを話そうとしていたようなのだが、どうもずれたらしい。
だが、荀ケにしてみれば、強ちずれていたわけでもない。
中空に視線を投げる戯をただ笑いながら荀ケは見つめる。
己の主君のように人の心をそれとなく見透かしてしまう人。
無自覚にそれが出来てしまう人。
それが、戯の持つ一つの才能、そして魅力。
だが、それがあってこの想いを抱いたんじゃないと荀ケは心で呟く。
戯と言う存在全てがあったからこそ、抱いたんだと。
ふと、戯が後ろを振り向く。
丘の下、自分が歩んできた方にだ。
「花の香りに釣られてどこかで蜜を回収してきた蜂が増えたみたいですよ」
言って笑いながらこちらを振り向く。
立ち上がり指差す方を見れば、そこには各々酒を携えた曹操と郭嘉の姿。
どうやら、郭嘉の方は息が上がっているようで。
一層賑やかになりそうだと思いながら、しかし同じ場に戯がいるのならばそれでいいかと、荀ケはその隣に立ちながら二人の蜂が来るのを見守った。
この長閑な春の風が過ぎ去ってしまおうとも、ただこの想いだけ心 で待ち続けてくれるのならば、他に何を望もうか。
⇒おわり
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⇒ ていうか、あれ?
もしかしなくても、片恋っぽくね?(殴
あれ?可笑しいぞ・・・(可笑しいのは貴様の頭だ
や、本当申し訳ない←
しかも、文の書き方これまた微妙ですよね・・・おまけに夢じゃないですよね、これ(いつもだろ
重ねて言えば、荀ケがヒロインを一回しか呼んでいないことに気づいた(大問題
ていうか、馬乗るような人たちがそう簡単に息上げると思わないんですけど・・・どんだけ激しい丘なんでしょうね!
とりあえず、郭嘉は荀ケより実は体力無いと勝手に決めてます
そんな訳で・・・えと、はい、久しぶりに拍手夢?更新でした(おわってしまえ
ここまで読んでくださり有難う御座いました。